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「ど、どうしましょう、コウ先輩……!」
「ソラ!? どうした!?」


シオとアキヒロが二人で向かったというガード下に走りながら、コウは突然のソラからの電話に耳を傾けていた。


「それが、後から《BLAZE》の人たちが数人来てしまって……」
「! ……マズイな。ソラ、絶対にそこから動かな……」
「それで、サクヤちゃんが……!」


ソラが、息を吸い込む。


「サクヤちゃんが、一人で飛び出していっちゃったんです……!」




* * * * *





「ほんっと何なの!? 馬鹿なの!?」
「ばっ、馬鹿なんかじゃないです! 馬鹿って言う方が馬鹿なんですよ!」
「いや馬鹿だよね。っていうか悪口のレベルが小学生ってどういうこと?」


いや、ユウキの馬鹿ばっかり連呼する姿も十分小学生らしいという言葉を一同は喉まででかかったが、あえて言わないでおく。サクヤのことになると急にいつもの頭のキレが鈍くなったり早口になったりするあたり、なんだかんだ言いつつも気にはしているのだろう。

事の始まりは数十分前。シオとアキヒロが偶然出会い、ガード下で殴り合いを始めた。サクヤと共にその現場を見ていたソラは、すぐにコウに連絡を入れ、そのまま終わるのを待機しているだけかと思っていた。
だが、コウ達が来る前に、《BLAZE》のメンバーが数人通りがかってしまったのだ。当然《BLAZE》はシオに襲いかかるが、シオはアキヒロの相手をしているだけで精一杯で、《BLAZE》までに手が回らない。
そこで、サクヤが飛び出したというわけだ。

そして現在、倒れたシオを運び込んだ九重神社内で、自宅で情報収集をしていたユウキと口論に発展している状態である。


「そもそも、何で一人で行こうとしたわけ? コウセンパイが着いてからでも遅くなかったでしょ」
「でもその間に、シオさんがやられていたかもしれませんし……」
「っ、そうだけどさ! 現にこうやって擦り傷やら何やらつけて帰ってきてるでしょ!? アンタが怪我して帰ってきてどうすんの!?」
「大丈夫です! 卯月、怪我の治りは早いので!」
「問題はそこじゃなくって! アンタも一応女の子なんだから、顔に傷でもついたらどうすんのって言ってんの!」


ユウキが言い放った瞬間、あたりがしぃんと静まり返った。
……やばい!
やってしまったという焦りが、ユウキの全身を駆け巡る。今の発言は、ユウキがサクヤをそういうふうに想っていると受け取れる発言だ。

いやまあ、よく考えてみれば普通の発言なのだが、ユウキにとっては自分がサクヤを心配していることを気づかれたくないわけで。
体温が急上昇し、心拍数も跳ね上がる。心臓もうるさい。なんだよこれ、前にもこんなことがあったな。ああもう、うるさいうるさい!
頼む、気づかないでくれ――!


「一応って何ですか一応って! 一応じゃなくても、卯月は立派な女の子です!」


良かった。卯月が馬鹿で本当に良かった。
この時ばかりは、サクヤの人とは少しずれている感覚に感謝した。今回だけ。


「……でも本当に、一人だけで行ってしまったのは見過ごせないわね」
「ちょっとばかし、単独行動が多すぎるんじゃねえか?」
「……あ」


ポン、とサクヤの肩に手をおいたのは、恐ろしいほど綺麗な笑顔を見せるアスカと、呆れたように目を瞑るコウ。
直後、コウがサクヤの頭を押さえてぐりぐりと力を入れたかと思うと、アスカがその額にデコピンを叩き込んだ。痛い。すごく痛い。


「いったあ! 痛いです、先輩方!」


涙目になってぎゃあぎゃあと騒ぐサクヤを尻目に、ユウキは顔に集まった熱をどこへ逃がそうかと考えていた。
眠ったままのシオが目を覚ますまで、あと数秒。


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