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一週間後。何事もなかったかのように、サクヤの日常はとっくに戻ってきていた。
学園では誰にも相手にされず、放課後はゲームセンターへ。それが彼女の普通、なのだが。


「今日こそは絶対捕まえて聞いてやる……!」


いつもはゲームセンターへ直行する彼女だが、今日は違った。彼女が向かうのは、2-Bの教室。
長いツインテールを揺らして歩くサクヤに、クラスメイトはぎょっとする。無表情かへらりとした笑い顔しか見せなかった彼女が、未だかつてここまで怒ったことを見たことがあっただろうか。


「時坂先輩」


バン、と教室のドアを開けると、全員がサクヤに注目する。
そんななか、コウが一人だけ呆れ顔で出てきた。


「ちょーっと、よろしいですか?」


黒い笑みを浮かべて自分を指名する後輩に、コウはため息をついた。




* * * * *





「あれは一体、何なんですか? 時坂先輩」


屋上にて、サクヤはコウに尋問をしていた。
まさか、消したはずの記憶が戻っているとは。


「あー、卯月。お前、あの夜のこと、どこまで覚えてる?」
「全部ですよ、全部。二、三日くらいまでは、不思議と全く覚えてませんでしたけど」


サクヤが吸い込まれた《異界》。それに関わった一般人は、《異界》に関する記憶をすべて消される。サクヤも、あの日アスカによって記憶が消されたはずだった。
だが、彼女は自力で思い出すことができた。これが意味することは、ひとつだけ。


「《適格者》か……」
「…………? 何か言いました?」
「いや、なんでもねえよ」


あの日《異界》でサクヤを襲った蟷螂は、《怪異》と呼ばれ、《異界》に生息する正体不明の敵性存在だ。サクヤやコウがいる世界と《異界》が繋がった場合、速やかに《異界化》を鎮めることがコウやアスカ、ソラの役割らしい。
もっとも、《異界》関係の組織に所属しているのはアスカだけで、コウとソラはあくまで協力者ということになっているらしいが。


「……なるほど、状況はなんとなくわかりました。ただ、完全に理解するのは難しいと思いますが……」
「まあ、そんなもんだろ。俺も、最初は正直信じられなかったし」
「時坂先輩も、理解に苦しむことがあったんですね」
「俺だって人間だからな。……とにかく、この後《門》を見つけても、傍に寄るんじゃねえぞ。お前がいくら《適格者》だっていっても、まだ《ソウルデヴァイス》も出せないんだからな」


そう言って、コウは屋上から出た。友達を待たせているのだろう。まだ聞きたいことが色々とあったが、それを無理に引き留めるほどサクヤも鬼ではない。
コウの足音が遠ざかっていくのを確認して、サクヤも屋上を出た。


「……《門》って、何?」


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