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「全く……結局《門》って何なんですか……」


夜。またしてもサクヤは、蓬莱町に遊びに来ていた。
どうやら、今日はコウのバイトはないようだ。


「まあでも、時坂先輩がいないから今日は思いっきり羽を伸ばせるんですけど……ねっ!?」


いきなり後ろから手を引かれ、サクヤは立ち止まった。
サクヤの手を引いたのは、見知らぬ二人組。二人とも派手な模様がプリントされたジャンバーを着ており、いかにも不良ですと言っているようなものだ。
ニヤニヤと笑いながらこちらを見る二人に、サクヤは眉をしかめる。


「ねえ、君。もしかして今、一人? だったら、俺たちと遊ばね?」


ほら、やっぱり。続くのはお決まりのセリフだ。
こんな下らない連中に時間を費やすわけにはいかない、とサクヤが歩き出そうとすると、「まあ、待って」とサクヤの前に回りこんだ。
もともと人通りの少ない小さな道だったため、助けを求められるような人物はいない。心のなかで密かに舌打ちをしたが、これは仕方のないことだ。


「離してください。邪魔です」
「ちょっとくらいいいでしょ。ね、君、名前は? そのカワイイ顔で笑顔が見れたら、俺らも嬉しいなあ」


気持ち悪い。はやく離せ。サクヤの怒りは、頂点に達していた。


「だから……離してくださいって、言って…………」


ふと、サクヤは何かを感じた。
あの夜と同じ。

来る。

「え、な……うわああああ!」
「ひっ……ああああああ!」


サクヤの隣にできたのは、赤い亀裂。そこから扉のようなものが出来上がり、サクヤに絡んでいた不良二人はそのなかへ取り込まれた。


「これ……まさか、これが時坂先輩が言ってた、《門》……!?」


運良く、サクヤだけは取り込まれなかったらしい。
二度目の《門》を前に、サクヤは立ちすくむことしかできなかった。


「たしか、時坂先輩は近づくなって…………でも、それじゃあ、」


なかに取り込まれた二人を、見殺しにすることになる。
そう、つまらない正義感だ。
本当に、つまらなくて、下らない。


「ああ、もう……! 迷ってる卯月なんて、卯月じゃないわ!」


足を一回ダン、と大きく鳴らし、サクヤは《門》へ飛び込む。
これが、彼女の非日常の始まりだった。


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