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「そういや、昨日サクヤに絡んだチーマーって、柊に絡んだチーマーと同じじゃねえか?」


杜宮学園の屋上にて、コウが隣にいるアスカに尋ねる。


「え、アスカ先輩、あの人たちに絡まれたことがあるんですか?」
「ええ、前にね。……確かに、似てるわね。あの二人に限らず、最近は治安が悪くなっているみたいだけど……」


昨日サクヤに絡んだ不良二人は、《異界》攻略後、アスカによって記憶の消去が行われた。無事記憶の消去に成功したようで、騒ぎに発展した様子はない。
サクヤの方も特に異常はなく、そのまま解散となった。


「まあ、大事にならなかったのは良かったが…………」
「あ、やーっと見つけました」
「!」


三人の後ろからかかったのは、まだ幼さの残る少女の声。振り返ると立っていたのは、やはりサクヤだった。
入り口付近に立っていた彼女が、こちらに向かって歩いてくる。


「あーゆー事件の後って、人の少ないところに集まって話し合うのが定番でしょう? だから、ここにいるかなって」


へらりと笑いながら話すサクヤに、昨日のような緊張感はない。
まさかサクヤまで昨日の記憶が消されているのではと疑ったが、「あーゆー事件」と言った限り、とりあえずは覚えているのだろう。


「えっと……こういうときの前置きって、何を言ったらいいかわからないんで、本題からになってしまうんですけど……………………これから先、《異界》関係の事件があったら、卯月にも協力させてほしいんです!」


先ほどのへらりとした笑顔とは違う、真剣味を帯びた笑み。
初めて《異界》に入ったとき、酷く恐ろしかったことを覚えている。自身に振り下ろされる蟷螂の刃を思い出すだけで、手の震えが止まらない。
でも、そんな場所で戦う人たちの存在を知った。
初めて、手を差しのべてくれる優しい存在を知った。
だから、そんな人たちの隣に立って、一緒に戦いたい。


「卯月は《適格者》です。その力を、使わずに腐らせてしまうようなこと、卯月はしたくない」


この人たちの、役に立ちたい。


「ですから、卯月にも協力させてください!」


頭を下げて頼み込む彼女に、三人は顔を見合わせた。
一人はやれやれといった顔で。一人は爽やかな笑顔で。一人は少し困ったような顔で。


「……確かに、卯月さんの《ソウルデヴァイス》のリーチの長さは、時坂君に負けず劣らずといった感じだものね」
「射撃じゃないのにあそこまで遠くの敵を狙えるなんて、流石です!」
「え…………」


アスカとソラの言葉に、サクヤは顔をあげた。
それは、彼女たちなりの、了承の言葉。


「まあ、そういうことだ。これからよろしく、サクヤ」
「…………っはい!」


春。
少女の小さな決意の言葉が、杜宮学園の屋上に響いた。


鬼さんこちら 手の鳴る方へ


脳裏に浮かんだその言葉は、静かに消えつつあった。


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