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五月七日。
その後は《異界》に関する事件などなく、平穏な日々が毎日の様に繰り返されていた。
サクヤにとっては少しつまらないことだが、事件が多発するよりはだいぶましだ。
そしてそんなころ、女子たちの間ではちょっとしたブームになっているものがあった。


『よくぞ来た、迷える子羊よ。今日はどんなご用かな?』


《神様のいうとおり》。通称"神様アプリ"。悩み事を入力すると的確なアドバイスがもらえる、占いアプリだ。
これがきっかけで、最近杜宮学園にはカップルが増えたとの噂もある。


「ま、卯月は占いとか信じない派の人間なので、別に興味はないですけど……」


だが、一つ気になっているのが、このアプリを開発したのが"杜宮学園の生徒"だということだった。




* * * * *





「でも、そのリョウタ先輩という方の事故はさすがにおかしいですね」


翌日、サクヤ、コウ、アスカ、ソラの四人は屋上に集まっていた。
例の"神様アプリ"の件で、コウの友人に不可解な出来事が起こったらしい。
それというのも、昼頃に友人の"神様アプリ"がバグを起こしたかと思いきや、その日の夜、交通事故に遭ったというのだ。ここまでだけだとただの不運な出来事だが、昼頃の"神様アプリ"で、交通事故に遭うとの結果が出されていたのだ。


「一般的に広まっている占いには、"広く解釈の利く言葉"が意図的に使われていることが多いわ。でも、今回の場合は"事故"ではなく"交通事故"と明言されていたーーーこれはどちらかといえば"予言"に近いものがあるわね」
「予言って……また、えらく非科学的な話ですね」
「も、もう……サクヤちゃん!」


へらりと笑って返すサクヤに、ソラが声をかける。
だが実際、サクヤもそこまで軽視しているわけではない。アノアスカが言うのだ。事態はかなり危うい状態なのだろう。


「……率直に聞かせてくれ、柊。リョウタの事故にはーーー《異界》が関わっているのか?」
「……そうね……正直、まだ情報が少なすぎて今までと"同じ"とは断定できない。ただーーー少なくとも"何かある"のは間違いないと思う」


どちらかといえば、"カン"に近いが、とアスカは言った。
他でもないプロの"カン"だ。信じてみて損はない。


「それなら、情報収集が先決ですね」


今まで黙りを決めていたサクヤが、ついに動き出した。
彼女は通信端末である《サイフォン》を取り出し、片手でいじる。


「……? サクヤちゃん? 何か、アテがあるの?」
「ふふ、卯月は卯月なんですから、このくらい簡単です」


得意げに話す彼女に、三人はハテナマークを浮かべる。
サクヤの《サイフォン》の画面には、「卯月夕夜」の文字が映し出されていた。


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