授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると同時に、私は教室を飛び出した。昼休みも水無月さんのことでクラスメイトにめちゃくちゃ質問攻めにされたのに、放課後まで訊かれてたまるか。
ちょうど学校は今日で終わりだし、来週の月曜日まで学校に行かないから、大丈夫だろう。
「廊下を走るな」という張り紙を無視して全力疾走した私は、そのまま例の丘へと向かう。だが、あの少年はいなかった。私は荒くなった息を落ちつけながら、周りをゆっくりと見回す。連絡手段も何もないのに、どうやって報告しろっていうんだ。……帰りたい。
「やあ。早かったね」
「ひぃっ!?」
突然後ろから声をかけられて、文字通り飛び上がってしまう。振り返るとあの少年がズボンのポケットに手を入れて立っていた。どっから湧いたんだ。だって、さっき見たときはいなかったし……。
「そんなに怖がらなくても……」
私が何歩か後ずさると、少年は困ったように笑った。それにしても、恐ろしく美形だ。夜見たときも相当だと思ったが、明るいときに見ると、その強烈さを痛感する。
蒼白な肌とは対照的な艶のある黒いくせ毛。宝石をはめこんだかのように綺麗で澄んだ緑の瞳は、日光に反射して、人らしくない輝きを持っている。手足もすらっとしているけど、ひ弱そうなイメージは一切ない。
言葉を失っている私に、少年はお構いなしに言葉を続けていく。
「それで、その子とは話せた?」
「水無月……レイさんのことだよね」
「うん、そう。ごめん、名前を教えていなくて」
謝罪の言葉を口にしているが、あまり反省している様子はない。どこか醒めたような淡い笑みを浮かべているままだ。凡人の私とは違う圧倒的なオーラにたじたじとしてしまう。
「話したけど……」
「彼女、なんて言ってた?」
「『二度と私の前に姿を現すな』とかそんなことを言ってました」
思わず敬語になってしまった私に、少年は少しだけ悲しそうな表情になった。
「そっか。まあ、彼女にもいろいろとあるからね」
「……なんで」
「ん?」
思わず口をついて疑問を吐き出してしまう。できれば、あまり余計なことに関わりたくなかったのだが、もうこのまま大人しくしているわけにもいかない。
「なんで知り合いなのに、私を通して『会いたい』なんて言ったの?」
「確かに彼女とは友人であると俺自身は思っているけど、少し前から無視されているうえに、避けられていてね。どうしても彼女と話したいことがあるんだけど、このままじゃ会うことすらままならないから、君に頼むことにしたんだ」
「……なんでそれを私に? っていうか、君は学校に行っているの? それに、さっきどこから現れたの?」
質問攻めにしてしまう私に、少年はまた困ったように笑った。どこか答えをはぐらかすような笑みに、私は口を閉ざす。
「じゃあ、俺はここでさよならするね」
「え? は? ちょ、ちょっと!」
私が引きとめようとするが、少年は私に背を向けて歩きだす。途中で何かを思い出したかのように、振り返った少年は、どうしようもないぐらいに綺麗な笑顔で言った。
「あぁ、忘れてた。俺の名前は佐野ミナト。君は?」
「……野坂、伊織」
「そっか。いい名前だね」
くすっと笑って少年――佐野は肩をすくめた。
「またレイにこう伝えておいてくれるかな。『何かあったら、いつでも俺に言って』って」
「え……」
「またね」
佐野はそのまま私の返事を待たずに歩き始めてしまう。疑問とわだかまりが残ったままの私だけが、そこに置いてけぼりになった。
なんなんだよ、もう。