「私たちもそろそろ帰った方がいいかもね」
いつの間にか時刻は7時近くになっていた。本当に時間が経つのは早いなぁ。……結局町をまわれなかったね。商店街を出ると、呑みこまれそうなほど深い紺色の空と、さっき見たツリーの飾りみたいな星が現れてくる。
「ごめんね、案内できなくて」
「……気にするな」
さっきよりも口数の少なくなったシュウヤくんに、私も思わず黙り込んでしまう。2人きりなのは、さっきと同じなのに、今の空気はちょっとだけ居心地が悪い。
私たち以外誰もいない住宅街に、かすかな2人分の足音だけが響き渡る。
「……ミユキは」
「うん」
「佐上のような奴が好きなのか?」
「どうして?」
「好みの男は『クールで一匹狼みたいな人』と言っていただろう?」
シュウヤくんの言葉に、私は口を閉ざす。まさかあんな何気なく言った言葉を覚えているなんて。確かにそう言ったけど……。
「佐上くんは確かにそういうタイプだけど、彼は友達として好きかな」
「……そうか」
「私は好きだよ、シュウヤくんのこと」
立ち止まってそう言うと、シュウヤくんが変な顔になった。なんだろう、驚きと疑心のある表情というか。よくわからない顔。そんなに変な事言ったかなぁ。
「……シュウヤくん、前の高校にいたときの私のこと、覚えてる?」
「勿論だ」
「私ね、元々そんなに感情が出やすいタイプじゃなかったんだけど、中学のときにいじめにあってからますます感情を閉じ込めやすくなってね」
「…………」
「誰が味方なのか敵なのわからないし、そもそも自分すら自分の味方なのかがわからなくなってきたんだ」
疑心暗鬼や人間不信とは違うんだけどね。ただ、ゆっくりと内側から自分という存在が砕けて零れ落ちていくのを、どこか遠くで私は見ていたのだ。客観的にそういうことを判断できている時点で、いろいろ手遅れだったのかもしれないけど。
でも、実際にそうしていかなきゃいけなかったんだ。感情のある私のままじゃ、あの時期を耐えることができなかったから。自己防衛であり、必然的なことだったのだ。
そうやって、なんの感情もない1日1日を送っていたとき、ふとしたときにサッカーをしているシュウヤくんの姿が見えたのだ。きっかけらしきものは何一つない。ただ、毎日見ているはずの彼の姿が、何故かある日眩しく見えたのだ。
いつも通りシュウヤくんが他の少年たちを抜いては、シュートを何点も決めていく。見慣れていたはずの光景が、その日だけは違うものに感じたのだ。
そのときからだ。私の彼への想いが加速していったのは。