話を盗み聞いていると、奇妙な2人組だった。
恋人というには遠すぎるし、
家族でもなさそう。
2人は抑えた声で会話をしているが、彼女の耳には所々だが言葉が聞こえていた。

どうやら酒を飲んでいるようだ。

(・・・)

彼女は呆れていた。
こんな森の中で、酔っぱらうなんて。
生きたい気持ちがないのかと、
心底馬鹿みたいだと思った。
どうせこんな状況で酔ったところで、
ろくなことにならない。



しばらく経つと、酔いが回ったのかふたりの声が段々と大きくなってきていた。

その声と物音は、死者を呼び寄せる。
ガチャンと大きな音、次いで男の大声。

この騒ぎで死者が集まれば、一緒に囲まれてしまう。
彼女は身を起こし、脱出のために物陰から抜け出した。

(ケンカ、かな)

週末の世界で酒なんか飲んで、挙げ句痴話喧嘩。
彼女は軽蔑のため息を漏らし、細い体を外へと滑り出させた。

ポーチを抜けて階段を下り、森を進んで、また新たな隠れ家を探すつもりだった。

そして足を階段にかけたところで、

突然反対のドアが開いた。

(・・・!)

とっさに身を屈めるが、完全に隠れられていない。
階段の手すりは隙間が開いていて、幸いなのは小屋の回りに木が生い茂り、枝葉が少しは目隠しになっていることだった。


ふたりは縺れるように階段を下りる。
こちらにはまだ、気づいていない。
だが男の手には、大きな黒いクロスボウが握られていた。
もし姿を見られたら、あの矢で射抜かれる。
かなり遠くまで、気づかれずに逃げる必要がありそうだ。


男は女の子を抱えるようにして、クロスボウを撃たせようとしていた。
女の子は、やめて、と繰り返す。
構わずに近づいてきた死者を仕留めて、男は錯乱したかのように汚い言葉を吐き続けた。
投げ捨てるように女の子を解放する。

女の子は罵詈雑言を浴びせられながらも、気丈になにか言い返している。

届かなかった言葉が、段々と男の怒気を和らげていく。


「俺のせいだ」


溢すように、今までの勢いを忘れたような、
弱い声だった。




「救えなかった」

「お前の親父さんも」

「ダリル」

声はふたりとも潤んでいた。
彼女は隠れたまま、動けずにその様子を見守っている。
物音に紛れないと逃げ出せないのもあるが、
何よりふたりの声に滲んだ悲しみの色が、とても濃かったから。

女の子が男の大きな背中を抱きしめ、宥めている。
その目にも涙が浮かび、それでも男を慰める。