04
おねだり光線のおかげかぱぱうえの時間がある時すぐに買いに行くことが決まった。
降り立つはダイアゴン横丁。
お決まりのダイアゴ、ごほごほにょこちょう! というフルパウダーの失敗は冒さなかった。
なんたって貴族の娘、こんなのもう慣れっこよ!

今日の目的はワイズエーカー魔法用品店にある。
魔法の眼鏡を買うのだ。
これが手に入ればきっと私のミニ研究の大躍進に繋がる。

先に行って待っていたぱぱうえと暖炉を抜けてカランカランとドアのベルを鳴らしながら名も知らぬ店を出る。
いつも通り賑わいを見せるダイアゴン横丁を足速に抜ける。
ぱぱうえは一目見ればお貴族さまと分かる、上質な深い藍色のローブをはためかせながら私の前を歩く。

美味しそうな甘い匂いに気を取られていた私は止まったことに気付かずぱぱうえの背中に突撃した。
「またかお前は」と言いたげに振り返ったぱぱうえににへらと笑ってワイズエーカー魔法用品店に入った。

中は私にとってこれまたびっくり箱のような店だった。
まるでぱぱうえの部屋の様だ、と。
ガチャポンのようなカプセルの中にモヤモヤとした色付きの気体が入っている。

思い出し玉の一種かと思いきや商品説明のラベルには思い出させ玉とあった。
忘れたくないことについて記憶のコピーをカプセルの中に封じて、時間をセットするとそのタイマーに従ってその記憶のコピーが脳内で再生されるため、物忘れが酷い人の必需品! と書かれていた。

私が魔法道具に目を取られている間にぱぱうえは目的の品を見つけていたようで手に取って私に見せてくれた。
見た目はただの大きめの楕円形の形をした眼鏡だった。
しげしげと眼鏡を見つめたあと値札を見て驚愕。
ただの眼鏡に見えるそれは10ガリオンと6シックルだった。
え、ガリオンて相当高額だったような……と脳内で日本円にパチパチと換算すること20秒、気付いた。
……この眼鏡31,080円ンンン?! たっか!!! と。
しかしぱぱうえはそんなもの気にせず優雅にポイっとお金を支払うと私にくれた。
まだ8歳の私に。
分かってはいたけど、前世一般的なジャパニーズだった私にとっての金銭感覚とはかけ離れていた。
やっぱり貴族ってすごい。
でも欲しいものがぽこすか買えるからやはりこの家に生まれてラッキーだ。

ご機嫌のまま帰宅すると私はすぐに自室にこもるやいなや魔法の眼鏡を装着した。

▼ アルトは魔力を可視化した!

果たして、その魔法の眼鏡は考えた通りの優れ物だった。
眼鏡をかけて鏡の前に立つと、自分の身体の周りにモヤモヤと霧のような湯気のようなものがまとわりついていた。
これらは身体中を循環していて、これが魔力だろう、と見当をつけた。

破ァッ!と部屋を破壊した時よろしく、再び掌に魔力を集めようと、前回と同じ感覚で試してみる。
すると、全身を循環していた藍色のもやはぶよぶよと動き始め手に集まった。
しかし、そのもやはよくマンガで見るような綺麗な円形は描かず、円形…? とはてなが付きそうなほど形が安定せず絶えずぶよぶよと形を変えていた。
むむ、と掌に力を込めて形を安定させようとすると、ぶよぶよと動いていた回転が更にスピードを早め少しはまともな形に近づいた。

これで手からこの魔力の塊を離したらきっとこないだの二の前になる、と検討を付け魔力を手に集中させるのをやめた。

途端に魔力は血液のように全身に広がっていった。
私はなるほど、と納得した。
これなら、もっと効率のいい魔力の使い方ができるのでは? と。
魔力を手に集めた時、藍色の魔力の色が更に濃くなった。
そして、全身に魔力を返した時にもとの薄さに戻っていた。
つまりはそういうことなのだろう。

手に魔力を集中させたとき魔力を球の形に整えることが出来たら次は放ってみよう、と目標を設定する。
しかしただ力を込めるだけでは、魔力の濃度が高すぎるのか忙しなくどこかの部位が球から飛び出してきてしまう。
かと言って、力を抜くとさらさらと体全身へと戻っていってしまう。
そのため、アルトは他人が見たら何やってるんだコイツ、と思われそうな具合に手のひらをワキワキさせていた。
もちろんはみ出してくる部位を元に戻そうと努力した結果なだけだが。

そんな時に私はティンと来た。
両手を使っておにぎりを握るみたいににぎにぎすればいいのでは? と。

閃いた私は某玉を集めに旅するぜ!な漫画のかめはめ波のようにとりあえず両手で魔力を溜めて抑え込むようにしてみた。
やはり、両手から漏れ出そうに暴れるなる魔力をなんとかするのに精一杯だ。
もういいや、えいや!と手から魔力を放してみようにも、思ったよりは魔力は飛ばず、手から30センチ位のところでへにゃへにゃと音もなく落ちて消えていった。

「…」

ま、まあ最初はこんなものよね!!!
私に才能がナイとかそういう訳じゃないよね!ね!…だよね??

だいたいにして、円球となっている魔力のどこかを押さえつけるとどこかしらかがぽこっとはみ出てしまうのがいけない。
というか、魔力がぽこっとはみ出したりするってことは魔力がその場にずっとあるのではなく、血液みたいに円球の魔力の塊の中を動き回っていると仮定できるのでは…?
そしたら、動き回っている方向を一定方向に固定してしまえば遠心力やらなんやらで魔力の反発が消えるかも…!
流れるプールとか台風とかのイメージで掌の部分的に魔力を流すようにコントロールしてみよう。

ひととおり頭の中でブツブツ考えて行動に移した。

シュンという音と共に現れた藍色の魔力はいい具合に回転しはじめた。

…のも束の間で、すぐに不規則な運動に変わってしまった。
ムシャクシャして手の上にあった魔力を地団駄と共に床にぶつけた。
へにゃっと消えていた魔力はこんな時ばかり威力を保ったまますごい勢いで床へと投げ出された。
威力は今までの中でもピカイチですぐにすっ飛んできたフィービーにネチネチと小言を言われブルストロード家のウンチク授業がはじまった。

…杖なしウィッチナンバーワンへの道のりは程遠いようだ。
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