……懐かしい 夢をみた。幼い頃の、忘れたくない記憶。きっと一生、どんなことがあっても絶対に色褪せない、わたしの大切な思い出。
『………ッた。…ここ は……?』
頭を抑えながら身を起こす。目の前の見慣れた家具や装飾品が、ここはわたしの部屋だと教えてくれる。
いつのまにかわたしは自室のベッドで横になっていた。最後に覚えてるのは ダイニングで倒れたところまで。そのあと誰かがわたしを運んでくれたようだ。…いや 誰かなんて、そんな人物 一人しか思いつかないけれど。
『サンジくんは…?お父さん、みんなは…!』
わたしはベッドから降りて、急いで部屋の扉を開けた。手摺の向こうに広がるのは、海に浮かぶバラバラになったガレオン船と 炎に包まれたバラティエのヒレで闘うサンジの姿。
「バーカ。炎が恐くて 料理人が務まるかよ。」
「ち…畜生ォっ!!なんてイブシ銀な奴だっ!!!“ファイヤーパールプレゼント”ォ!!!」
全身 円盤の鎧を身につけた敵が火を纏った姿でサンジに襲いかかる。サンジは敵の攻撃を素早くかわし 敵の懐に入ると、敵の顔目掛けて足を振り上げた。
「うわっ!!!入った!!!」
「鉄壁のパールさんの壁を抜けた!!!」
「何だ このコック!!!マジで危険ェぞ!!!」
足技が顔面に直撃した鎧男はドカァッ!!と床に倒れる。対するサンジは炎の中で不敵に笑ってみせた。
(……こんな時までカッコつけちゃって。でも、無事でよかった。)
サンジの余裕そうな表情に、わたしはホッと胸を撫で下ろす。改めて下を除けば、そこにコックも父親も全員集まっている。
こうしてはいられないと、わたしも急いで一階へ降りた。
Order 【 10 】
一階に降りてきたわたしは、入り口で仁王立ちしてる父親に駆け寄った。
『ぉとッ!……、オーナー!』
「なまえ。降りてきたのか。」
『うん、もう平気だから。この通り!』
顔だけわたしに向けた父親に、わたしは頭のタンコブを見せる。腫れてるけど大した大きさじゃないよ と伝えると、父親は呆れた様子で笑って返してくた。
「おボっ!!おボの…!!おのれェ〜〜っ!!!危険だ!!!危険すぎるっ!!!火を!!!ファイヤーポールをもっとくれねばァ!!!」
突然、ヒレの方が騒がしくなる。顔を向けると、サンジの攻撃で倒れたはずの全身鎧男が起き上がっていて、何かを叫びながら身体から火の玉を投げ飛ばした。玉の軌道は明らかにバラティエを狙っている。
「うわあっ!!店を燃やす気だ!!!」
「厨房に火が回ったら吹き飛ぶぞ!!!」
「店主!!逃げて下さい!!!」
「なまえ!危ない!離れろ!!」
「…………。なまえ、しゃがんでろ。」
『はい。』
心配して声を荒げるコック達をよそに、父親は静かに指示を出す。わたしはすぐに頭を抑えてその場にしゃがみ込んだ。
「足一本なかろうとも、これくらいなら造作もねェこった。」
わたしの頭上で風を切る音がする。それからコロコロと足元に玉が転がってきた。すぐに父親が片足一本で火の玉を吹き消したんだと理解する。
玉は それなりの質量はありそうだ。
(………いつもながら、すごい威力。)
……御年65歳とは とても思えない。
流石はクック海賊団の元船長。敵を蹴り倒し、返り血で赤く染まった靴から“赫足のゼフ”という異名ができたそうだけど、こうして目の当たりにすると父親の強さは圧巻だ。
「……………!!すげェ店主っ!!」
「蹴りの爆風で炎を消しちまった!!!」
「神業!!!“赫足のゼフ”は健在なのか…!?」
「おっさん すげェ!!」
目にも留まらぬ速さで成し遂げた父親に、味方から歓喜の声が上がる。その中にはルフィの声も混ざっていた。
『え。ルフィくんも戦ってるの…?』
「そうだ。」
(……ぇええ。)
まるで当たり前だとばかりな父親の返しに、わたしは驚きとため息をつく。まさか他所の海賊団の船長を巻き込んでドンぱち始めてたとは。
立ち上がりながらヒレを確認すれば、本当にルフィの姿があり、彼は眼を輝かせながらコチラを見ていた。
「お前が寝てる間に色々あったんだ。」
『……そう、なの?』
…色々って、なにがあったのよ。
「パールの野郎 余計なことばかりしやがって!!炎が店にまわる前に、てめェら“ヒレ”ごと沈めてやる!!!」
バラバラのガレオン船から成り行きを見ていたクリークが棘鉄球を投げ飛ばしてきた。
ヒレの上には炎に囲まれたサンジがいる。
『サンジくんッ!!!!』
このままじゃ、サンジの身動きが取れない。しかもヒレにはクリークの仲間だっているというのに。首領・クリークはなんて無茶苦茶な人なんだ!
「サンジ!危ねェ!!!」
「だめだ 火に囲まれてるっ!!」
仲間達が驚愕するなか、一人ルフィが炎のなかに飛び込んだ。そしてサンジの前に立つと、人では考えられないほど腕を後方に伸ばして、飛んできた棘鉄球を弾き返してみせたのだ。
「ゴムゴムの…!!バズーカ!!!」
その姿に わたしは口元を押さえて驚愕する。一体ルフィくんは何者なの……?見事 棘鉄球を弾き返したルフィは、周りが驚いていることなど気にも止めず、炎のなかに飛び込んだ際に服に移った火を「あーっちいっ!!!あちっあちっ!」と言いながら叩いて消している。その姿はわたしの知る雑用係の彼の雰囲気だった。
『……ぅ。腕が のびた…?!!』
「アイツは悪魔の実の能力者だ。」
父親の言葉にまたも驚愕する。
…あれが、悪魔の実のチカラ。名前は知っていたけど、こんなにも桁違いな能力だったなんて…。
弾き返された棘鉄球は、ガレオン船の帆柱に激突した。その衝撃で船の軸が折れ、柱がバラティエを目掛けて倒れてくる。ヒレにいたサンジやルフィは間一髪それを避けた が、同じくヒレにいた全身鎧のクリークの仲間は、頭に直撃してしまった。
鎧は伊達じゃないのか、直撃した部分だけ柱が砕ける。けど 鎧男はそのまま がくーんと倒れてのびてしまった。
「コイツは何なんだよ。」
「バカだなー こいつ…。」
鎧男を見ながらサンジとルフィが言う。
わたしは へなへな〜と力が抜けて、その場に座り込んだ。とりあえずサンジが無事で良かった。ホッとひと息をつきながら、いま全く関係のない 前にルフィが言っていた“海軍の打った砲弾を正当防衛から弾き飛ばしたら、バラティエのオーナーの部屋に直撃した”と言った意味が分かって、こういうことだったのかと納得してしまった。
「ぬあ!!」
『……え。ッ!!!オーナーッ!!!!』
だから気がついてもいなかった。
ダイニングからこちらに忍び寄る影があったこと。あっという間に父親の義足が折られ、倒れた父親を足で踏みつけにし、男はわたし達親子に銃口を向けてきた。
「もう やめてくれサンジさん。おれはあんたを殺したくねェ!!!」
See you in the next story………