ーーーパパ!!パパッ!!!

きっとバチが当たったのだ。わたしはすぐにそう思った。
父親とサンジと一緒の生活が始まったこの三週間。わたしのこころは、どうにも晴れなかった。唯一 お仕事をしてる時は忙しさもあってこころが晴れない理由を考えなくてすんだけど、静かになれば、一人になれば考える。
気がつけば、厨房に背を向けて作業する様になっていた。

こころのモヤモヤの理由も分からず、でも何かに縋り付くように、わたしは昨日 食堂の明かりを消すという不必要な動作をしていた。それでこころが晴れるなんて思ってない。思ってないけど、一縷の希望、何かが起きる可能性をたしかに願っていた。
結果は、なにも。何も変わらず、残ったのは罪悪感だけ。

だからバチが当たったのだ、と。
男に抱えられながら、自分の浅はかさ、認めることができない意固地、やり場のないモヤモヤを 昨日初めてぶつけてしまった罪悪感。
父親が悪いわけじゃない。サンジが悪いわけじゃない。新しくなった環境で、新しい人達との交流を大事に出来ない、全部わたしのせいだ。と…。



order 【 9 】



走り続ける男のせいで、身体が不規則に揺れる。願いを叶えるらしいりんごは まだ わたしの手の中にある。
…わたしは 一体どうなってしまうのだろう。何もわけがわからないままに連れ去られた先のことなんて、恐ろしくて考えたくもない。
父親とサンジは、わたしがいなくなったことに気がついてくれているだろうか。それともこのまま もう二度と会えないなんてこと…。

『〜〜〜ぅーーぅ゛ーーー!!!!』

そんなの絶対に嫌だ!
わたしは激しく身体を動かした。もう二度と父親に会えないだなんて、それこそ恐ろしくて考えたくもない。
やっと、やっと会えたのだ。再会した時には知らない子供を連れていたけれど、正直サンジのことにヤキモチやいて 未だにどう接していいか分からないけど。でもでも、わたしいい子になるから!サンジとも仲良くなってみせるから!だから…!!

(こんな所で、さよならなんて、イヤッ!!!!)

「このッ!!ガキ!暴れるな!!」

必死でめちゃくちゃに動かした身体が、男の腕から解かれる。宙に浮いたわたしの身体は そのまま地面にぶつかった。

『ッぃだ!!』

余りの衝撃に目尻に涙が。擦りむいた顔も腕も足も痛い けど、わたしは何とか起き上がった。
ここから逃げなきゃ。早く、父親とサンジの元に戻らなきゃいけない。

「嬢ちゃん。手間かけさせないでくれよ。」

黒く大きな影が わたしの身体を覆い尽くす。恐る恐る顔を上げた先にフードを被った男は白い歯を見せて笑っていた。

『………ゃだ…やだやだ!来ないでッ!!!』

わたしに伸びる手から逃れるために、わたしは咄嗟に地面の砂を男にかけた。

「ぶうあ!!?くそガキ!!!!」

男は目元を押さえて動かなくなる。その瞬間、さっきの砂が男の目に入ったのだと理解する。今のうちだ。今のうちに この男からできるだけ遠くに逃げなければ。
痛い身体を無理やり起こして、わたしは走り出した。遠くへ、遠くへ、遠くへ。晴れた空の開放感なんて、今のわたしには関係ない。さっきの市場に戻れば、露店に戻れば、父親とサンジがいるはずだ。


「なまえー!!」

(ッ!!パパの声!!)

人波で賑わう市場まで戻ってくれば、たしかにわたしを呼ぶ父親の声がした。
気づいてくれていた。わたしがいなくなってることに。父親が わたしを探してくれていた。

『パパ!!パパーーー!!!!』

わたしは力の限り叫んだ。
届け、届いて!わたしはここにいる。わたしに気がついて……!

「ーーーーこのガキ!!手間かけさせるなって言ってンだろがッ!!!」
『きゃっ!!イタイ!離してぇッ!!!』

髪を強く引っ張られる。男はすぐに追いついてしまった。髪を引っ張られても抵抗し続けるわたしに、その場にいた道行く人たちが 何事かとざわつき始める。

(ーーーパパがすぐそこに居るはずなのにッ!!!)

引っ張られた髪が痛いからなのか、それとも自分の無力さが情けないのか、だんだん視界がぼやけて 地面に涙のしずくが落ちた。


『ーーたすけて……ッ。』




「この 変態クソ野郎!!!!なまえを離せーーー!!!」


影が、舞い落ちる。
涙で霞む瞳の端で、金髪が風に揺れる。
気がつけば、掴まれた髪は肩に戻り、わたしの隣にはサンジが立っていた。

「なまえ!!見つけた!!大丈夫か!?どこもケガして……っしてンじゃん!!?膝に腕にほっぺに、おでこまで!!!」

サンジはわたしの周りをぐるぐると回り、他に怪我は!?酷いことされてない!?と 矢継ぎ早に話し続ける。

「ゴメン!すぐ助けられなくて。恐かったよな。ごめん。なまえ、もう大丈夫だから 泣かないで!」

片方しか見えない眉毛をハの字に下げて わたしの手を握るサンジ。そんなサンジにわたしは何も返せず ただぽろぽろ泣き続けて見つめていた。

「もう大丈夫だ。もう大丈夫。おれが来たんだ!もうこわくないよ。」

涙で濡れた瞳に映るサンジは ちょっと霞んでて、でもすごくキラキラして見えた。





See you in the next story………

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