思い出の話。
あの日、ポロポロと涙を溢すキミの姿がおれの脳裏に焼き付いて離れない。



order 【 14 】



おれ達3人から始まったバラティエレストランも、気がつけばかなりの大所帯となった。
クソジジイの出した“クソコック歓迎募集”の張り紙に食いついた、文字通りクソコックが増えたからだ。

ありがたいことにバラティエレストランは大人気となり、ディナーの終わりまで客足は絶えない。なまえも忙しそうにダイニングを行き来してる。
……おれはといえば、まだ一人前と認めてもらえず、クソジジイの足蹴りをくらう毎日。大人のマネして吸い始めた煙草は、もう手放せなくなっていた。

『おつかれさま。休憩中?』

二階の外廊下で煙草を吸っていたおれになまえが声をかける。おれは煙を吐き出してからなまえを見た。

「あぁ なまえもおつかれさん。それ どーした?」

なまえの腕に抱えられたテーブルクロスが目に入る。それを指差すとなまえは『あぁ、コレね。』とテーブルクロスを一度見てから、何かを思い出すようにふんわりと口元を緩ませた。

「………。なまえ?」

なぜか、胃が 重くなる。
胸のあたりがモヤモヤして、まだテーブルクロスを見てるなまえに、おれは堪らず声をかけた。

「なまえ。」
『あ、ゴメン。うん コレね。お客様が料理をこぼしちゃって、今から洗濯しに持っていくところなの。』
「へーー……。」

(………それだけ? にしては嬉しそうに見えたけど。)

『なに?、へんな顔してるよ?』
「………、んな顔してねェよ。」
『ん〜??』

へんな顔ってなんだよ。
テーブルクロスが視界に映るたび、さっきのなまえの表情と理由が合致しない気がして、どうにも気分が悪い。けど、それ以上の追求はなんとなくやめておいた。…全然、胸のあたりのモヤモヤは晴れないけど。

『大丈夫だよ。お客様、とっても良い人だったから。』
「そんなのなまえ見れば分かる。クソ野郎だったら、プンスコ怒ってるだろう。」
『あ、さっすが!アタリです!』

得意げに言うなまえのちょっと首傾げて言う仕草がなんとも心臓にくる。から慌ててヘラりそうな口元を煙草を吸うふりで隠す。
けど、煙草は燃えカスしか残ってなかった。

『じゃあまたねサンジくん!』となまえはランドリー室に向かい歩き始めた。なまえがおれの横を通り過ぎる。その姿を目で追って。瞬間、なんかまだ、行ってほしくなくて。

「ーー、 なまえ、休憩は?もう済ませたのか?」

なまえを呼び止めてしまった。
………いや、呼び止めてどうすんだよ。めっちゃカッコ悪ィじゃん!すぐに我に返り、完全に自分の行動が気持ち悪い野郎過ぎてだいぶ引くし、落ち込む。

『ーー? まだ。コレ洗濯したら休憩に入るつもり。』

半分だけ振り返ったなまえが、おれのほうをみる。

「な んか、作るか?」
『嬉しいけど、いいの?』
「おぅ。戻るとき厨房によってくれ。出来たら持ってっから。」
『ふふ、ありがとう。』

ふんわりと優しく笑ったなまえを見て、おれは静かにガッツポーズした。激ダサだろうが呼び止めて良かった。
今度こそランドリー室に向かったなまえを見送り、灰皿ケースに煙草を捨ててから、おれも厨房に戻った。

クソコックのはびこる厨房は、なんともむさ苦しい。が、香ばしい料理の最高な匂いに包まれてる。おれは白い調理エプロンを腰に結び、自分の持ち場についた。
なまえへのまかない、なにがいいだろう。朝から働いてハラ減ってるなまえが満足できるようなの…。

「ーーーよしッ!」

コックコートの袖を肘まで捲り、柄にもなく意気込む。
あぁ。おれ今、顔笑ってンだろうな。なんて思いながら、なまえの好物を冷蔵庫から取り出して下処理をしていく。
気がつけば、あっという間に時間が経っていて。皿に盛り付け終わったタイミングで、おれを呼ぶなまえの声が聞こえた。

『サンジくん!』

厨房の扉からひょこりと顔を覗かせたなまえを見つけ、おれは手をあげて返事を返す。出来上がった料理を持ってなまえのもとに向かうと、なまえはおれの持つ料理に瞳を輝かせた。

『あ、ラザーニャだ!』
「好きだろ?」
『大好き!もうすっごくお腹空いた〜』
「運ぶから席に行こーぜ。食後にアイスも用意してある。」
『やったぁ!』

喜ぶなまえにつられて、おれまで口元が緩む。あぁ良かった、チョイスは間違ってなかった。と、内心ホッとしながら。
料理をテーブルに並べて、なまえが『美味しい!』とラザーニャを頬張る。それ見てるだけで、なんかすげー胸が満たされた。

緩やかで、優しい、充実した環境にいられる事が何よりも嬉しい。クソジジイとの最悪な出会いが、おれの生きる意味になってくなんて想像もしてなかった。
今、こうしてなまえに料理を振る舞うことが出来るのが、幸せで仕方ないんだ。幸せすぎて、怖いくらいに…。





See you in the next story………

TOPPAGE