「キミ、名前は?」
『…なまえ。…キミは?』
「おれは サンジ。」

金色の髪。ぐるぐるの眉毛。蒼い瞳をした、父親が連れてきた謎の男の子。
開口一番に人の父親を“クソジジイ”と呼び付けてきた(わたし的に)印象の悪い男の子 サンジは、わたしと同じ歳だった。



order 【 8 】



『これが 海上レストラン、バラティエ…?』

母親のお墓参りが終わると父親は港へ向かった。徐々に近づくにつれて魚を模した形のそれは姿を表す。これは、父親が考えたのだろうか。

(……………………変 な船ね。)

それがわたしの正直な感想だった。でもわたしの反応とは真逆に、父親とサンジはこのヘンテコな船を見てとても喜んでいた。

「すげーな クソジジイ!!これが海上レストランか!!」
「そうさ 宝全部つぎ込んでも赤字だった。これから忙しくなるぜ!!!」
「大丈夫さ!おれがいるんだ!!」

(……………………二人とも 楽しそう。)

目の前に聳える船と、それを見つめる男二人を交互に見やる。はしゃぐサンジと、船を見つめて嬉しそうな父親の顔を見てしまえば、もう船の形なんてどうでもよくなった。
海賊を辞めて帰ってきた父親が次に目指すものがこの海上レストランなら、わたしも父親を全力で手助けしたいと思う。わたしは父親の手をぎゅっと握りしめた。

『楽しみだね、パパ。』
「フン。ああ…、楽しみだ。」









ーーーなまえにはダイニングを任せる。厨房はコックの領域だ。おれと このチビナスが使う。今のところは。

そう言った父親の指示で、わたしはウェイトレスの仕事を与えられた。
バラティエでの生活が始まって、今日で三週間。なんとなくここでの生活にも慣れた気がする。それから、父親とサンジの関係性も なんとなく、わかってきた気がする。

「いつまでもチビナスなんて呼ぶんじゃねェよ クソジジイ!!」
「悪かったな クソチビナス。」

そんな二人の会話を聞きながら、売り上げの集計、食材のストック確認、船大工への借金返済と、お店を閉めた後に帳簿を記入することは、わたしの日課になりつつある。

(…………明日の買い出しの予算は、、と。)

背中でわーわーと騒ぐ二人の(ほとんどサンジの)声を気にもせず、わたしは帳簿をパタリと綴じた。
ガラっと椅子から立ち上がり、厨房の扉を開けて父親に声をかける。

『パパ、わたし先に部屋に戻ってるね。帳簿の記入とダイニングの掃除は終わってるよ』

「あ、ああ。そうか、分かった。」

驚いた父親の顔をよそに、わたしはすぐに厨房の扉を閉めた。そのまま食堂を通り過ぎる時、ふと 食堂の明かりを消そうかなと思い立つ。
別に付けっぱなしでも大丈夫な事は知っている。この後 きっと父親とサンジが食堂を使うから。
でも なんとなく、わたしは意地悪心で食堂の明かりを消した。一瞬で真っ暗になった食堂を見て、罪悪感が襲う。

(…………………なにしてるの、かな。)

自分で自分の行動の意味が分からない。
食堂の向こう、厨房からうっすらと明かりが漏れる。食堂の明かりが消えたことに、父親はまだ気付いていないようだ。

(………………。)

わたしは明かりを付け直すことはせず、逃げるように自分の部屋に戻った。



次の日。
レストランをお休みして、わたし達は三人で買い出しに出かけた。大きなカゴを持って市場を歩く父親の後ろをついて歩く。
横並びで続く露店に、気になった食材があれば足を止めて吟味する父親のとなりで、サンジも父親のマネをして食材を見比べていた。
わたしは、そんな二人の背中を ただぼーっと眺めている。

「嬢ちゃん。りんごは好きか?」

肩をポンポンと叩かれて、わたしは後ろを振り返った。黒いフードを被った男が 右手に持った赤いりんごをわたしに差し出す。

「このりんごは特別なんだ。一口食べるだけで願いが叶う。」
『……………願いが 叶うの?』
「ああ。ほら、」

男は勝手にわたしの手のひらにりんごを持たせ、ほら と食べるようにわたしを促す。

(……願いが叶うりんご………。)

そんなりんごが本当にあるのだろうか。手のひらの何の変哲もない普通のりんごに見えるコレが、たちまち願いを叶えるだなんて。俄に信じがたい。

(……知らない人からモノを受け取っちゃダメだって、宿場のおばさん 言ってたし。)

コレは返そう。と男にりんごを戻そうとした時、男はいやらしく白い歯をのぞかせた。本能的に悟る。まずい、逃げろ。これは罠だ。と。

『ーーパ ッ!!!!』

すぐ近くにいる父親に助けを求めようと手を伸ばしたときにはすでにわたしの口元は抑えられ、男はわたしを抱えて その場から走り出していた。





See you in the next story………

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