03
そして翌日。ホーマーへの含みの無い返事、且つ情報が聞き出せそうな文章を考え過ぎて秋は寝不足していた。頭の使い過ぎで知恵熱出そうなくらいボケーっとしてはいたが、ヒル魔に呼び出される前に朝練に現れた十文字たちを認識するくらいは出来た。
「やっほー!アメフト選手くん達!」
昼休憩中。購買部で昼食を選んでいた三兄弟の元に、ご機嫌な秋が現れた。
「んだよ。昼にまでお前見たくねーよ」
「なんだよー、態々探したのにー!」
カップ焼きそば片手に悪態をつく黒木に言い返すと、秋は菓子パンを物色し始めた。態々探したと言っていた癖にどちらがついでなのかわからない。そんな彼女へ十文字が声を掛けた。
「何か用か」
「いやーあたしの特性、野次馬パパラッチだからさー。なんで朝練、自主的に来たのか気になって」
ハ?はぁ?はぁああ?と呆れ気味バージョンのお決まりなアレが出る。
「…別にお前に関係ねぇだろ」
「もしや月刊アメフト読んだ?」
返答を濁す十文字へ間髪入れず秋が尋ねた。
月刊アメフト。デカデカと太陽スフィンクスの番場が表紙になった最新号には、先日の太陽vs泥門の記事が載っていた。ヒル魔に読んどけと命令されて目を通した徹底分析されたページには、泥門ラインを評価する文字があった。が、反対に落第だ、なんて心無い文字も書かれていたのだ。
「…チッ、読んだよ。"俺ら"だけカスってな」
今朝朝練に自主的に来た以外にも、十文字の顔色が明らかにいつもと違った。もちろん黒木や戸叶にも変化はあったが、十文字だけ2名とは何かが違う気がしたのだ。
その何かは、彼の言葉を聞くとすぐに把握できた。
「カ〜ッ!思い出しただけでムカつくぜ!」
「だな」
横で思い出しムカつきに感情を支配される黒木と戸叶。彼らの様子を見ると、2名は月刊アメフトを直接読んでいないのだろうと秋は思った。何故なら、月刊アメフトに落第だと書かれていたのは"黒木と戸叶だけ"だったからだ。
十文字の感情を即座に読み取ると、秋は成る程ねと呟いて左手を勢い良く出した。
「じゃあアメリカ戦で見返してやろー!」
アメリカ行きたくない!という願望もあるが、友人を気遣う十文字の気持ちに寄り添う為の秋なり行動である。
購買部で気合い入れをする謎の4人組になるのは拒みたい気持ちはある。が、彼女の配慮に小さな感謝をした十文字は、3名の手に自身の手を重ねたのだった。
▪︎
「ウェルカム〜!って感じですー?」
「あぁ?」
放課後の部活終わり、先に着替えてロッカールームから出て来た秋がすれ違い様にヒル魔へ声を掛けた。
本来ロッカールームは1人ひとつずつ作られているが、三兄弟には何故か3名でひとつしか割り当てられていなかった。
それが放課後になってみるとどうだ。十文字、黒木、戸叶の名前が3つのロッカーの上に刻まれているではないか。
「ヒル魔先輩も大概ツンデレですよねー」
チッ、と舌打ちをするとロッカールームへ向かったヒル魔だが、その後ろ姿は何処か嬉しそうに見えた。
▪︎
十文字たちが着替え終えて部室を出ると、先程まで自分たちが練習していたグラウンドに人垣が出来ている事に気付いた。どうやらグラウンドに立っている男が何かをしたみたいである。すごいすごいと生徒たちが口を揃えて感心していたので、彼らは興味本位でその人垣の一部になってみることにした。
「お、マネージャー」
彼らよりも先にその人垣の一部になっている秋を見付けると、黒木が彼女に声を掛けた。
「おつかれー」
「おー、朝練も放課後練もだと、やっぱダリーわ」
「でもお陰で個人ロッカーゲットじゃーん」
首をコキコキ鳴らして疲労を訴える黒木に秋からの激励。このこの〜と彼らを小突く彼女に、十文字が尋ねた。
「グラウンドでなんかやってんのか?」
「あーうん。他所のアメフト部が来てキック披露してる」
「ハ?」
「はぁ?」
「はぁあぁあ?」
秋がグラウンドを指差して情報を提供するとハァハァ?言いながら指差した方を振り返る。そこには全身黒ファッションの細身の男がいた。よく見ればその足元にはアメフトのボールがセットされている。
「なんで他校の奴が来てんだぁ?」
「キック自慢したい年頃なんじゃない?」
「それで勝手に侵入してんのかよ」
「カッカッカッ、どんな年頃だそれ」
「まぁまぁ、ど真ん中ストライクキック見てみなって!」
適当な発言に対して十文字と戸叶が指摘するが、秋はそれらをいなすと再びビシリとグラウンドを指差した。
めちゃくちゃ良いタイミングでグラウンドに立つ人物がアメフトボールを綺麗にゴールポストにぶち込む。
「「「うおーー!すげぇキック!」」」
またしてもゴールポストド真ん中へ飛んで行ったボールに、三兄弟が歓声を上げた。一々ゴールを決める度に何か独り言を呟き、折り畳みの櫛で髪の毛をセットし直すのは癇に触るが彼の腕は確かである。綿密に言うと脚だが。
「ムサシ!!」
と、その騒ぎを聞き付けてアメフト部の部室方面からドッシドッシと走って来た栗田が、人垣を押し退けてグラウンドに飛び出して行った。どうやら生徒たちのフレーズだけを聞いて勘違いして突っ走って来たのだろう。
暴走する栗田を追い掛けアメフト部の面々がグラウンドに舞い戻って来た為、秋も流れにノッてみることにした。