05
泥門アメフト部では部活後の作戦会議が行われていた。その名は、打倒エイリアンズ特別作戦!因果関係が全くわからないが、お菓子のプリッツをヒル魔が食べている。しかし彼なりに理由があるらしい。
「プリッツは、なんか関係あるんスか?」
「それも含めてだ。エイリアンズ戦まで1ヶ月、守備のイロハから叩き込んでやる!」
ガシャコン、マシンガンを何故か準備するヒル魔。彼のやる気がそうさせるのだろう。
「敵は本場の強豪だからね…今まで通りじゃ絶対勝てないもん」
「弱点は監督のアポロだな」
栗田の言葉にヒル魔が続けた。言うと同時にスクリーンにプロジェクター画面が映し出される。そこには監督のアポロが、黒人の青年に球拾いの指示を出している映像が映し出されていた。
アポロを指差してプリッツをポリポリ食べる秋が一言。
「アポロめっちゃ悪い顔してるー」
「どうしようもねぇ糞クズ野郎だ。パンサーを球拾いに使ってやがる」
「パンサー?」
「誰それ?」
セナとモン太が首を傾げる。
本名パトリック・スペンサー、通称パンサー。「無重力の脚を持つ男」と呼ばれるアメリカンフットボール選手である。
▪︎
NASAエイリアンズ戦が近付くにつれ、ホーマーからのラブメールは過激になって行く一方であった。好意を持たれているのは悪い気はしないがヒル魔との板挟みである。やりにく過ぎる。
「ケルベロスなんとかして〜」
「珍しいな。頭抱えて」
太陽戦で引き分けだった為に豪華になったケルベロスの小屋。その前で頭を抱える秋の独り言に食い付いた男が1名。泥門アメフト部の恒例行事になっている増築工事を担っている、通称・大工のおっちゃんであった。
「板挟みって奴です。ヒル魔先輩とホーマーによる!」
「ホーマーって誰だ?」
「NASAエイリアンズのクォーターバックですよー」
秋の返答を聞くと彼は成る程なと察して昼寝をするケルベロスの前でしゃがみ込むと、荒っぽいイビキをかくケルベロスを手馴れたように撫でる。一瞬殺意を剥き出しにしたケルベロスであるが、撫でる人物を確認すると再び眠り始めた。かわい〜、と秋が一言。
「それで、そのクォーターバックがどうしたんだ」
「あ!それが、聞いてくださいよー!」
彼に促されると、ホーマーによる猛烈アプローチとヒル魔からの指令で板挟みになっている事を伝えた秋。所々日々の鬱憤により過度な悪口になっていたが、ケルベロスを撫でる彼は全く気にせず彼女の話を聞いていた。
「酷くないですかー!もーホントいつも人使い荒いですよあの人は!」
プンスカ怒る秋を見た彼が、フッと笑った。
「無理矢理転校させられたって聞いたが、案外楽しくやれてるみたいじゃねぇか」
「全然聞いてない…!」
娘が父親に日々の愚痴を溢すも、父親は娘の成長を喜んじゃってどこか噛み合わない。2名の空気感はどうも親子の様な関係性であるが、この関係は最近始まったものではなかった。
ふー、と軽く溜め息を吐き出すと秋が言った。
「まぁ、なんだかんだ楽しくやってますけど」
「お前は何処行っても馴染めるからな」
「そりゃあ…人生、楽しまないと損ですからねー」
後悔なく生きる為に日々楽しく!そのせいで寝不足で遅刻などするが、これが彼女の考えである。
秋のその言葉を聞くと彼はケルベロスを撫でる手をピタリと止める。暫しの沈黙の後、彼はそうかと相槌を打って立ち上がった。
「お前も、無理ない程度にやれよ」
彼はそれだけ言うと秋に背を向けた。じゃあなと一声かけて立ち去ろうとする彼の背中に、今度は秋が声をかけた。
「黒木と戸叶から聞きましたよ。タバコの話」
大工のおっちゃんが朝練のランニング後に未成年喫煙をかましていた黒木と戸叶を何故か叱ったのだと。彼らのタバコを辞めさせる為に自身のタバコすら焼却炉にぶち込んだのだと。アメフト部の増築工事が目的で来ている彼が、何故そんな事をしたのか。彼の表情を見た秋は、なんとなくわかってしまったのだ。
「ムサシ先輩も、楽しまないと損ですからね」
武蔵厳。60ヤードマグナムの都市伝説を持つ彼が、アメフトに未練がある事に。
2025/05/25