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アイシールド21の祝福すべき1回目のタッチダウン。それを喜ぶ歓声はピタリと止まった。

「パンサー…くん…?」

アイシールド21が立つ敵陣のゴールポストにパンサーが登り、彼を見下ろしていたのだ。
ベンチからその様子を見ていた秋が顔を青ざめて嘘でしょ、と声を漏らした。

「…一瞬で…アイツ、あそこに登ったんだけど…」

信じられないという顔でゴールポストを指差す彼女に、栗田も負けじと驚きを隠せない様子で尋ねた。

「今の一瞬で、ベンチからポールまで…セナくん先回りして…?」

何を思っているのかはわからないが、セナとパンサーはただ黙って互いに視線を交差させていた。
と、ピピピ!と審判が笛を鳴らしてパンサーを注意した為、彼らの対峙タイムは強制終了となった。
NASAエイリアンズの球拾いであるパンサー。彼が泥門にとって脅威の対象となった瞬間である。


▪︎


話を聞く限り、パンサーはその走りの才能をレイシストであるポアロにより潰されている。NASAエイリアンズは監督のイジメ被害によりパンサー以外が白人のみで構成されていた。唯一残った黒人のパンサーは、才能があるのに球拾いとして下僕の様に扱われている。
アイシールド21の走りを見て、きっとパンサーは本能で彼と戦いたくなったのだろう。故に本能的にゴールポストに登ってしまったと。

「パンサーが球拾いで助かりましたよー…」

ふぃい、とため息混じりで秋がそう言うと雪光が困った様に笑った。

「あんな脚が速い選手が今のエイリアンズに加わったら、シャトルパスに集中できないですよね…」
「ただでさえマッスルバリヤーで悩んでますからねー…」

言うと、秋はエイリアンズのベンチへ視線を向けた。葉巻を吸うポアロの表情的に、まだ余裕がありそうだった。この様子なら差別主義者の彼が黒人であるパンサーをラインバッカーとして選手に起用する事は無さそうであったが、それはそれでやったね!とはならない心境である。
しかし先程の出来事でセナもパンサーと戦いたい、なんて無謀な考えを持ってしまっただろうと秋は考えていた。

「やった!ホーマーくんのシャトルパス、ちゃんと対抗できてる!」

ホーマーの腕を狙ってブリッツを繰り出したモン太のお陰で、再びシャトルパスの妨害が成功した。歓喜するまもりの横で、得意げな秋がいた。

「腕狙えって指示した者の成果ですね!」

つまり自分である。
アイシールド21のタッチダウンのお陰でいつもの泥門デビルバッツらしい調子が出て来た。
そう思っていた矢先の出来事であった。
次もエイリアンズの攻撃なのだが、作戦会議を行わず彼らがバタバタとプレイを開始する準備を終わらせた。

「青!27!」
「SET!」

ノーハドルだ。
攻撃チームが作戦会議を行なっている際、守備チームは同じ様に作戦会議を行う。その作戦会議をさせず、泥門の指揮を崩す為にアポロが考えた手なのだろう。

「ブリッツ2人だ!真ん中の2人、ホーマーに突っ込め!」

即次のプレイが始まる為に、ヒル魔が泥門選手皆に伝わる様に口頭で次の作戦を告げた。

「そ、そ、そんな大声で…」
「時間ねぇんだからしゃあねーだろ!」

どうせ日本語じゃバレやしねぇ!焦るセナにヒル魔が怒声を浴びせたが、それを聞いたエイリアンズのワットがニヤリとほくそ笑んだ。

『ああ!ワットくん、フィールド中央に走り込んだ!』

攻撃開始と共にレシーバーのワットが駆け出した。どうやら彼は日本語を理解しているらしく、ヒル魔の指示を把握すると即座に対策を取ったらしい。
ブリッツ2人来ると言う事は中央がガラ空きになる。そこでホーマーからのパスをキャッチすれば…。そこまで考えてワットの思考が停止した。

「へ?」

ヒル魔の指示とは裏腹に、泥門チームはブリッツに1人も向かわず中央をガチガチに固めていた。これではホーマーもボールを投げられず、パスが失敗と終わる。
まんまとエイリアンズの皆さんがヒル魔のハッタリに騙されると、ご機嫌なモン太が声を上げた。

「おーっしゃ!作戦通ーり!」

バレるかも、とその横でヒヤヒヤしていたセナであるが、流石はヒル魔妖一と言うしかない。ノーハドルで来られた場合の作戦もしっかりと準備していたのだ。
エイリアンズがノーハドルして来た場合、口頭で告げたヒル魔の作戦は全てハッタリ。次の行動は"秘密のサイン"に従え!という作戦である。

『さぁ!追い詰められたエイリアンズ!この攻撃で失敗したら、攻撃権は泥門に移ります!』

まんまとヒル魔の術中にハマったエイリアンズ。向かいのベンチからアポロの表情を確認すると、まだ暫くは気付かないだろーなぁ、なんて秋はほくそ笑んだ。
そしてお次、ヒル魔が口頭でブリッツの指示を出したのはモン太だった。しかし演技の上手いヒル魔とは違い、モン太は大根であった。

「ええええぼくがつっこむのかー!たいへんだぞこれわー!」

モン太は棒読みだけに留まらず、秘密のサインをチラチラ見てしまうという汚点を晒した。
この酷い有り様に、今し方ほくそ笑んだ秋が今度は盛大に頭を抱えた。アポロにバレたっぽい。

「赤、35!」

ホーマーにベンチから指示を出したアポロ。エイリアンズの3回目の攻撃が開始すると、ワットが指示通り駆け出した。今度はシャトルパスを狙う為の準備である。
アポロの読みが正しければブリッツは0人。と言う事はじっくりと狙いを定めてシャトルパスを狙えると言う事だ。

「…って!めちゃめちゃ来とるー!!」

アポロの読みとは裏腹にブリッツは脅威の3名。ホーマーは大吉たちに薙ぎ倒され、敢えなくパス失敗となった。
ここで肝心の"秘密のサイン"答え合わせである。
サインはヒル魔が作った指の数。なんて事は全く無く、ベンチに座るマネージャー姉崎まもりが持つお菓子のプリッツの数であった。

「GYAHUN…!!」

知能戦勝負は、ヒル魔の勝利で無事幕を下ろした。


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