06
「しっかりアイシールド守れよ。これがダメなら攻め手ねーんだ」
後半戦がまもなくスタートするアナウンスが会場に響く。準備を始めたヒル魔が、三兄弟や大吉に発破を掛けた。
先ほどシャトルパスを止めようと自身で考え動いた際は失敗してしまった。見返してやりたい、しかし失敗したらどうする。そんな焦りが募り思い詰めていた十文字に、明るく声を掛けたのは秋だった。
「見返すチャンスじゃん!」
思わずハッとして彼女へ視線を向けた十文字に、ヒル魔がにニヤリと笑って続けた。
「あぁ、勝負所だ。ラインの見せ場だぞ」
十文字は考えた。見返すならここしかない、と。
月刊アメフトの記事、そして自身の肉親の心無い発言に十文字は憤怒していた。十文字にとって大事な友人である黒木と戸叶が、落第だクズだと罵られているだなんて、彼にとっては屈辱でしかなかったのだ。
「アイシールド…先輩??」
「へ??」
このスイープを成功させ、黒木と戸叶の落第の評価を払拭させる。そう決意した十文字がアイシールド21に初めて自分から話し掛けた。威厳も無く間抜けな声を出した彼は、自分が1年生だと吃りながら伝えた。
アイシールド21が1年だろうが2年だろうが、どっちにしろ敬語なんか使うつもりはないので十文字にとっては関係なかったが。
「てめーはすげーよ。少しでも隙間作ってやれば抜いてっちまう」
だが、体格差や筋力差がある中敵に突っ込んで行くその天性の才能は、素直に尊敬していたのだ。
「それに比べて俺らはまだまだ実力足んねぇ。アメリカの奴らぶっ倒したりはできねぇ」
しかしこのアメリカ戦で決意したのだ。黒木や戸叶は落第なんかではない、役立たずのクズなんかではない。それを証明するんだと。
頼む、と十文字はアイシールド21に頭を下げた。
「黒木や戸叶や…俺らがなんとか一瞬でもブロックするから…抜いてくれ」
▪︎
NASAエイリアンズvs泥門デビルバッツ。泥門の攻撃から後半戦がスタートした。
実際に物理で練習していないままのお披露目であるが、果たしてエイリアンズのマッスル筋肉共に対抗できるのか。
ベンチ組が手に汗握る緊迫感の中、アイシールド21を囲みながらライン組がフィールドを駆け出した。
『これは…!スイープ!』
エイリアンズも流石、経験豊富なだけ即座に対応してきた。向かって来る小柄なゴンザレス(弟)には、同じく小柄な大吉がぶつかって行った。
しかし大吉は本場アメリカの筋肉にいとも簡単に弾き飛ばされてしまう。
『ダメだぁ!マッスルバリヤー健在!!』
ライン組のブロックが上手くいかなかった為にアイシールド21の走りは止まってしまった。
が、倒れ掛かっていた大吉の視線にゴンザレス(兄)と自身が尊敬する栗田が押し合っている姿が飛び込んできた。
彼は一瞬で考えた。ゴンザレス兄弟、そして栗田と大吉の大小ペア対決を。師匠と慕う栗田は張り合っているのに、その弟子である自分は負けてしまうのか、と。
「フゴ〜〜〜ッ!!」
師匠が誇りたくなる弟子にならなければ!そう奮闘すると、大吉はゴンザレス(弟)に再び飛び掛かった。
ゴンザレス(弟)と力比べをする中振り返ると、倒れてる黒木を鼓舞する様に嘲笑を浮かべる。
「ハァアァアアア!!?」
馬鹿にされることに酷く敏感な黒木が、怒りのあまり衝動的にブロックに舞い戻った。
そうして、粘りを見せた泥門ライン組のお陰でやっとマッスルラインにわずかな隙間が出来た。
そこを見逃さず、アイシールド21がすかさず潜り込んだ。
『10ヤード前進!泥門ファーストダウン!」
その後アイシールド21は倒されてしまったが、審判の判断でまた4回の攻撃権を得ることが出来た。
「「やったーッ!!」」
「ナイス!ライン組〜!!」
まもりと雪光が歓喜のハイタッチをかまし、その横で秋が声を荒げる。
試合開始からエイリアンズの攻撃を防ぐ事ばかりしていたが、やっと泥門の押せ押せムードがやって来たのだ。
2チームの実力差は、アメフトをよく知らない観客ですら把握できるレベルであった。かなり泥門が劣勢である中、初めての押せ押せムードである。観客からはアイシールド21、略してI•Cコールが鳴り響いた。
そこで更に、解説の熊袋の声が会場中に響く。
『いや!今のはブロックした4人も褒めてあげないと!』
『イエス!パワー差ある中でよく頑張った!』
彼らの発言をキッカケに十文字や大吉、そして黒木や戸叶を褒める声が観客席から響いた。頑張った石丸は誰にも全く触れられていなかったが。
「なんだ、褒められててんぞ」
「ハ!」
照れ臭そうに会場を見上げる黒木と戸叶を見つめる十文字の表情は、付き物が落ちた様にスッキリしていた。
どうやら月刊アメフトで2名をこき下ろしたのは解説の熊袋だったらしい。マイク越しに聞こえた彼の謝罪に秋も何故か誇らしげだった。
勝ちさえすれば誰もが認める。それがアメリカンフットボールなのだ。