06
馬に乗ったどぶろくがドンドン太鼓を叩きながら走り、並走する様にジョギングをするインディアン一行。インディアンランニングと言ったものの、別段特に変わった様子は見受けられない為にセナたちは戸惑いを隠せていなかった。
「インディアンランニングって…仮装してジョギングするだけ…?」
「こんなんで爆裂突破力つくのかよ」
どぶろくはヒル魔や栗田を育てたトレーナーらしいので、そんな訳はないのだろうけれど。疑問で頭がいっぱいなセナとモン太がジョギングしながらヒソヒソ話をした。
と、酒瓶を持った秋がどぶろくの元へ駆けて来た。
「どぶろく先生、はーい」
「おーう、沸いたか」
沸いた。そう、秋がどぶろくに手渡した酒瓶の中身は、グリルの上でアチアチにされた熱湯であった。素手で持てない程の熱さ故に、秋もどぶろくもキッチンミトンを装備している。
アチアチの酒瓶を片手に装備したどぶろくは、両手をポケットに仕舞い気怠げに走る黒木へ声を掛けた。
「おい、列の一番ビリ!」
言うや否や、どぶろくはそのアチアチの熱湯をあろうことかザバッと黒木の脳天からぶっ掛けた。
「先頭までダーーーッシュ!!」
「ず熱っぢィィイ!!」
あまりの熱さと驚きで黒木は飛び跳ねながら全力疾走。適当にジョギングしていた時とは打って変わり先頭に躍り出た。しかしヤケドは確定だろう。
そして第二陣、次のビリは栗田であった。
「次は栗田!テメーがビリだ!ダーッシュ!」
「ひゃあああ!!」
黒木同様、熱湯を掛けられた栗田は悲鳴を上げつつも先頭へ。
ビリになったら熱湯を掛けられる!瞬時に察知したメンバーは即座に先頭へ先頭へと駆けて行った。そしてまたビリは黒木になってしまった。
「うわ!また俺の番!?」
熱湯をお見舞いされた黒木が再度先頭へ。それを見ると、前にグルグル回ってくのか!とモン太がやっとインディアンランニングの意図に気付いた。
そして雪光も何かを思い出したらしい。
「思い出した!インディアンランニングって…」
何故知っているのか不明だが、ランニングを続けながらも雪光はインディアンランニングについての博識ぶりを披露し始めた。
「インディアンランニング。先住民の儀式。最後尾の者はただちに先頭へ走り出るというルールの下、全員が精魂尽き果て倒れるまで走り続ける耐久レース。現在ではファルトレクトーレーニングの一種として活用され、有酸素運動と無酸素運動を交互に行うことで、心配機能の強化、及びスピードの向上、瞬発的なパワーの発揮といった効果が得られる」
早過ぎ、且つ難しい言葉が次々と雪光の口から飛び出たもんだから走り続けるデビルバッツの面々は混乱するしかない。みんなが意味をほぼ理解していないとすぐに把握すると、雪光は即座に補足した。
「つまり爆裂突破力がつく」
「さ、さすが…」
「最後だけわかった!」
結局よくわからなかったが、とにかくインディアンランニングを続ければ爆裂突破力が付く!というわけである。言葉を選ばなければ、バカは何も考えずにとにかく走れというわけでもある。
一番永く走った者には景品としてバナナが授与されるということで、俄然燃えて来たバカ改めモン太であった。
▪︎
夕刻。地面に這いつくばってゼェゼェ肩で息をするインディアンたち。
「なんだ、もうくたばったのか。根性無しどもが…」
呆れた風に辺りを見渡し、どぶろくがため息混じりに毒を吐く。
結果、一番永く走り続け商品のバナナをゲットしたのはケルベロス。食べやすい様に皮を剥いて次々にバナナをケルベロスに渡す秋は安定の写真を撮ってご機嫌そうであった。
「アヂャーー!!熱湯だった!」
酒と熱湯を間違えて飲んでしまったどぶろくの姿を視界に入れるが、ツッコむ体力もない地面と友達のデビルバッツメンバー。
「シャッターチャーンス!」
代わりに元気な秋が携帯で連写するという対応をしていた。
こうして彼女の携帯フォルダには熱湯に怯えて走り続けるインディアンたち、バナナを食すケルベロス、そして自ら熱湯を飲み吹き出すインディアンの写真が新たに加わったのだった。
ホーマーに送る自慢写真のレパートリーが増え散らかしている。
▪︎
昨日のバーベキュー程豪勢ではないが夕食も入浴も済ませ、部屋に戻るまもりと別れた秋。2泊3日のアメリカ合宿だとまもりから聞いていた為、本日がアメリカ滞在最後の日である。
と、認識しているが引っ掛かることがある。
栗田ほど長くはないが、秋はヒル魔と3年程関わって来たのだ。秋大会は1ヶ月後。クリスマスボウルにこの泥門デビルバッツで行くと決めているヒル魔が、こんな生温い合宿で満足し帰国する訳が無い。
というわけで。
「マジで馬小屋で寝てるんだ…」
男女で待遇の差が凄まじいのだと改めて実感しつつ、男連中が宿泊している馬小屋に突入してみる事にした秋。
ヒル魔に本当に明日で帰るんだよね!?と事実確認をする為であるが、なんだったら自分だけは日本に帰してくれと直談判する目論見である。
「・・・ーーーでどこまで伸ばせっか…」
「泥門の部活は、2年の秋大会で終わりだ」
と、勇足で馬小屋に向かってるいた秋のその足は、微かに聞こえたヒル魔の言葉によりピタリと止まった。
何かを吹き出す音が聞こえた後、ヒル魔の声が続けた。
「最後のチャンスまで一月ちょい。40日で俺らを最強チームに仕上げろ」
「バカ言ってんじゃねぇ!たった40日で…」
「デス・マーチをやる」
さっきまでの秋の勢いは、馬小屋の中の会話内容によりすっかり無くなっていた。
デス・マーチ。死の行軍と書いてデス・マーチである。
中学の頃に聞いていたので覚えている。大学時代にどぶろくが行った、その名の通り地獄のトレーニングだと。どぶろくが選手生命を断たれたキッカケであるとも聞かされていた。
「………」
彼女にとってアメフトは未だに小さい物である。ただ、3年というそこそこ長い年月関わって来たヒル魔たちはそれなりに大きい物になっている。
少し考えた後、秋はクルリと後ろを振り返ると来た道を引き返した。