07

翌朝、ベン牧場を後にした泥門デビルバッツのメンバーはどぶろくのデコトラで空港へ向かっていた。
窓側の助手席でボケーッと外を眺める秋を、まもりはチラリと盗み見る。
昨晩、散歩します!と別行動をするまではいつも通りだったが、部屋に戻って来た秋は少し可笑しかった。眠くなっただけなのかと考えてそのまま就寝したものの、起床後も普段お喋りな彼女は未だにボケーっとしている。

「秋ちゃん、大丈夫?」
「…え?あ、めちゃくちゃ元気です!」

彼女は嘘が下手である。
絶対何かある、と普段は超が付くくらい鈍感なまもりですらそう思うほど嘘の元気である。
まもりの表情を見ると、すぐに嘘が見抜かれている事に気付き秋は苦笑いした。

「いやー、ちょっと考え込んでまして」

苦笑いのまま、ヘヘヘと声に出して笑う。
しかし何を考え込んでいたのかは言うつもりはないらしく、大丈夫ですよーなんて気の抜けた返事をするだけだった。
そんな秋の様子を運転しながら横目で観察していたどぶろくが話を振った。

「お前が考え込むなんざ、嵐でも来るんじゃねぇか?」
「失礼な!毎日いっぱい考えてるのに!」

失礼過ぎる発言であるが、まもりもどぶろくの意見には少し賛同してしまった。
中学生の頃から殆ど変化の無い秋に心配の方が勝ったがそれも彼女の良さだろう。と、どぶろくは思った。
ちなみに秋が毎日考えている事は、ゲームしたいとかアメフト部をどれだけサボれるかとかである。そんな彼女が珍しくそれ以外の事で考え込んでいるので、嵐は来るかもしれない。

▪︎


「日本へお帰りですか?」
「ええ、2泊の合宿だったんです」

先に入ってろ、とのことでマネージャー2名だけが機内に乗り込んでいた。キャビンアテンダントに話しかけられてスマートな英語で返事をするまもりのその横で、既に着席した秋が窓の外を見つめていた。
窓の外、何故か滑走路で我らが泥門デビルバッツのメンバーが集合しているではないか。秋の横に腰掛けたまもりが、窓の外の光景に対して不思議そうに声を上げた。

「何してるのみんな…??」

真っ当なリアクションである。
ヒル魔と栗田、どぶろくと向かい合うように他のメンバーが立っているが、その間のアスファルトには乱雑な線が引かれていた。
声は聞こえないが秋はわかっていた。デス・マーチに参加するメンバーを絞っているのだと。
秋は未だに悩んでいる。昨晩デス・マーチの話を聞いてからずっと考え込んでいたのだ。夏休み中デス・マーチに参加するか、それとも日本で楽しくハッピー夏休みライフを過ごすのか。
秋からしたら夏休みを満喫したいのが本音だ、だがしかし、ヒル魔たちにとってクリスマスボウルへの最後のチャンスだと言われたら協力しないというのもどうにも引っ掛かるところがある。

「…バンジージャンプの契約書、みたいな感じなんじゃないですかね」

今し方まもりの口から出た疑問の返答らしき物を返してみると、彼女は更にわからないという顔で秋へ顔を向けた。

「バンジージャンプ??」
「地獄行きの」

本気で意味がわかってなさそうなまもりのオウム返しに、秋は小さく返事をした。
そんなやり取りをしていると、窓の外に動きが見られた。モン太が線を超えたのだ。
線を超えたモン太が何やら長い事叫んでいる。

「なんか演説…??」
「どぶろく先生に自己紹介してんじゃないですか?」

まずは1人目。次は誰があの線を超えて行くのだろう。大吉は行きそうだな、なんて秋が考えていると2人目はまさかの雪光。
雪光は想定内であったが、あの運動神経でデス・マーチをやり遂げられるのか些か不安である。
その後黒木と戸叶が飛行機に乗り込もうとしたのを十文字が引き留めた様に見えた。そうこうしてるうちに三兄弟、大吉が線を踏み越えラインの5名がデス・マーチに参加する決意を固めた様だ。

「…まじかぁ」

窓の外をまもりと一緒に凝視していた秋が悲痛な声を漏らした。
最近の十文字の様子だと、彼だけは参加しそうだなとは思っていたが、まさか黒木や戸叶が参加するとは。完全に予想外であった。
はぁあああ…と盛大なため息を吐き出すと意を決して秋は立ち上がった。

「秋ちゃん?どうしたの?」

あのやる気のない黒木と戸叶が参加するというのなら、この悩み散らかした二つ目の選択肢を受け入れるしかないだろう。
突然立ち上がり、頭上の荷物入れから自身の荷物を下ろし始めた秋の行動にまもりは戸惑いつつ尋ねた。
諦めた様な、けれどどこか吹っ切れた様な様子の秋はぶっきらぼうに言い放った。

「まだ日本、帰れなさそうですよー」
「え!ちょ…!え!?」

自分の荷物を回収すると、機内の出入り口へ向かって歩いて行ってしまった秋。
後輩の謎行動、ほぼ同時に窓の外のヒル魔がショットガンを空中に撃ち込んだ事により理解が追い付かず、まもりのリアクションは図らずとも大きい物となってしまった。

「どういうこと!!?」

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