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40日以内にテキサスからラスベガスまで歩いて移動するという、地獄のトレーニングが始まった。3年分の特訓を40日で行うというのだから、デス・マーチという名前の通りの地獄だ。
ポジション別練習しながらひたすらマラソンをするということで、バックスチームはヒル魔に追い掛けられ悲鳴を上げ走り去って行ったところである。
さて、バックスチームのモン太と雪光がランニングということは、ラインチームのトレーニングとは如何なるものなのか?

「どしたどしたぁ!!そんなんじゃ10年かかってもラスベガス着かねえぞ!!」

西海岸まで走るガソリンなんざねぇ。というどぶろくの発言により、ラインチームはデビルバット号を物理で押しながらラスベガスへ向かう事になっていた。なんという無茶苦茶であろうか。
運転席でハンドルを握るどぶろくの怒号が響き渡るも、デビルバット号はほとんど動かなかった。

「…地獄だー」
「秋ちゃん。水、買いに行こう」

マネージャー陣と(建前上)主務のセナは給水係という任務を任された。
というわけで、暫く動かなさそうなデビルバット号を後にしてまもりに連れられるまま水を買いに赴く秋であった。


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荷台の上に座るケルベロスをセナと勘違いしたままのまもりは、現在どぶろくの代わりにハンドルを任されている。セナはどぶろくの指示で石蹴りを行いながらラスベガスへ向かった様である。というわけで、荷台の上には現在どぶろくとケルベロス、秋がいた。

「やる事ないし暑いー…」

流石はアメリカだ。日差しがカンカンデリである。水を購入する際に手に入れたキャップ帽を装備しなければ頭皮が持って行かれるだろうな、と秋は思った。
空を見つめ気怠げにボヤく彼女の脳天を、唐傘を装備するどぶろくがど突く。

「イッタ!なにすんですか!」
「だったら水でも掛けてやれ。熱中症対策だ」
「これもうお湯になってない?」

ぶつくさ文句を垂れながらも、促されるままどぶろくから手渡された酒瓶の中の水をライン組にぶち撒ける。
炎天下の中汗だくでトラックを押し続けていた5名は、ぬるくなった水を浴びると少しだけ疲労回復した気分になった。

「わ〜〜!汗かいてたから気持ち〜!」
「フゴッ!フゴッ!」

実際、炎天下に水浴びするなら冷水よりぬるい水の方が身体への負担が軽いらしい。流石はどぶろくコーチである。
水を浴びたラインチームの師弟組は大変素直に喜びを表現したが、三兄弟は疲労回復して文句を垂れる元気が戻ったらしい。

「加賀テメー…!こっちのが暑ちーんだから文句垂れてんじゃねーぞ…!」
「お前の能天気な顔見てると余計に疲れんだよ…」
「同感」
「ひどい言われ様なんだけど!?」

まぁ確かにトラックを炎天下の中押し続けている余裕のない状態で、何もしてない奴が暑いだなんだと文句を垂れればイラっともするだろう。
しかし秋は言い返す選択をとった。

「そんな事言うなら水かけてやんないぞ!」
「マネージャーはマネージメントしろ」
「イッタ!みんな酷い!」

言い返す事を許さないどぶろくにまたしても脳天をど突かれる。
しかし過去デス・マーチで選手生命を絶たれているどぶろくだからこそ、ここはキチンと選手たちを守りたいのだろう。自分でやれよという心の声を飲み込みながら、秋はマネージャーとしての振る舞いを半強制的に自身の脳へインプットして行くのだった。


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バックス組と合流し夕食も終えたデビルバッツ一行。夕食を取っている間にすっかり日も暮れ、辺りは真っ暗になっていた。

「超回復…!?」

荷台の上から身を乗り出し蛇に威嚇するケルベロスを応援していた秋は、どぶろくの言葉をおうむ返ししたその声で振り返った。
どぶろくトレーナーの超回復講座が始まった。

「お前ら、今筋肉痛だろ?筋肉の繊維がズタズタにブチ切れてんだよ」

それを休ませると、治る勢い余って前より増える。これを超回復という。
彼のわかりやすい説明を聞くと、へぇ〜とセナが至極感心した様に相槌を打った。筋トレの仕組みを理解したメンバーに、どぶろくは更に補足した。

「だからトレーニング後は、最低24時間は休んで超回復させねえと意味ねえのよ」
「つっても秋大会まで40日だ。毎日休んでちゃラスベガスに着かねえ」
「じゃあ…」
「どうすんスか?」

モン太が問い掛けると、ヒル魔は無言で何かを取り出すとバックス組に投げ付けた。なんだこれは?と一瞬戸惑った彼らだったが、それが夜間作業などで使われる頭に装着するヘッドライトだと気付いた。
しかしコレがなんだというのだ?そんなセナとモン太とは違い、頭の回転が速い雪光はヒル魔の返答の予想をして冷や汗をタラリと流した。

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