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簡潔に言うとデス・マーチというのは、徹夜して2日分トレーニングを行い2倍超回復させる地獄のトレーニングなのだ。
まぁ40日で強くなろうとしているのだから、こんな無理は当たり前であろう。と、ヒル魔やどぶろくは言うが正直秋は引き気味であった。
2日徹夜して、その後1日休みの繰り返しを行う。そんなプログラムなんか出来るのか、なんだったら誰か過労で死ぬんじゃないかと。

「きっちりアイシングしとけよ。腫れひかねーぞ!」
「ヒャーー!冷たくて気持ちいい!」

冷えポイが大量に詰め込まれた箱からどぶろくがアイシングを次々と取り出し、疲労と筋肉痛で苦しむ選手たちに手渡して行く。
憧れのまもりにアイシングをされてデレ顔のモン太を横目に、秋はヒル魔を視界に入れた。

「きっちり24時間後に出発すんぞ」

そう言うとトランクを持ってデビルバット号の裏へ消えていったヒル魔。

「ヒル魔さんだけは全然平気そうだ…」
「大変な筈なのに…。パスルートに沿ったショットの練習しながら、重い荷物抱えて指示出して…」

ヒル魔だけピンピンしていると判断したセナがボヤくと、雪光が信じられないといった風に呟いた。さすが!なんて感心するセナとモン太であったが、秋は別の意味でヒル魔に感心していた。
あんなに余裕なさそうなのに、あそこまでハッタリをキメられるんだなぁと。
そんな風にしみじみ思っていると、まもりが周りに気付かれない様にヒル魔を追い掛けて行った事に気付いた秋。

「…!!」

あまりの衝撃で顔を勢い良くそちらに向けてしまった。
彼女の特性は野次馬パパラッチである。何を思ってまもりがヒル魔を追い掛けて行ったのかは定かではないが、十中八九彼の疲労に気付いてアイシングでもしに行ったのだろう。あのヒル魔を!あのまもりが心配して!
こんな特大スクープ撮り逃す訳にはいかない為、秋は即座に立ち上がりパパラッチを決行することにした。

「秋、何処行くんだ?」
「夜の散歩!」

突然立ち上がってご機嫌ムーブをかます秋に気付いたどぶろくが尋ねるが、彼女はテキトーに嘘をついて誤魔化した。
まもりとヒル魔の関係に迫る!だなんてモン太が聞いたら発狂するだろうな、なんて思いながらデビルバット号の裏へ向かい物陰から2名の様子を伺う事にした秋であった。


▪︎


パパラッチをしていたというのに、期待していた事態に全くならず肩を落としてしまった翌日。なにやら昨晩、秋が爆睡している間にライン組に動きがあったらしい。三兄弟、主に黒木と戸叶のやる気に変化が起こっている気がした彼女は、荷台の上でどぶろくにコソコソと尋ねた。

「あの2人、何かあったんですか?」
「ん?あ〜…昨日脱走しようとしてな」
「えー!なにそれ!マジですか!!」

ナニソレ楽しそう!と先輩2名の恋愛騒動?が不発に終わりしょげていた秋のパパラッチ心が息を吹き返した。
声をおさることを忘れ、どぶろくにグイと一気に近付き話を急かした。

「それでそれで!?」
「…なんでお前ぇ楽しそうなんだぁ?」
「なんですかもうー!あたしが野次馬パパラッチなの知ってるじゃないですか!」

興奮気味な秋のその言葉に、そういえばそうだったと過去の記憶を思い出す。中学時代も、何か揉め事や問題が起これば基本的に秋は話を聞きたがったし、何だったらどぶろくの借金事情も事細かに聞いて来たし。やれやれといった感じに一息吐くと、どぶろくは昨晩の出来事を端的に解説した。

「そんで、まぁ。ヒル魔たちは今年で最後のチャンスだが、お前らは来年でもいいんだから無理すんなって言ったら…」
「言ったら!?」
「やる気になったらしい」
「えー!そんだけ!?」

さっきまでの瞳の輝きは一気に不満気に濁った。つまんなーい!とぼやき始めた秋は昨晩の出来事から興味が薄れたらしい。どぶろくとの会話を終了させると徐ろに立ち上がり、その辺にあったペットボトルの水をトラックを押すライン組に撒き散らした。
自発的にマネージャー業を唐突に行った秋にどぶろくは少し驚き、そして水を掛けられたライン組も少なからず驚いた。秋は、おっしゃー!と唐突に叫ぶと言葉を続けた。

「あたしもやる気スイッチ入れる!!」

ヒル魔や栗田、ムサシ。そしてこの泥門デビルバッツのメンバーとクリスマスボウルを目指してみる。
泥門デビルバッツが何処まで勝ち進めるかわからないが、後悔なく、且つ後味良く余生を過ごす為。加賀秋が泥門デビルバッツのマネージャーとして頑張ってみることを決意した瞬間である。

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