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「宿代ってどうしたんですか?」

久々の風呂にホッコリとしつつ、濡れた髪をタオルで拭きながらセナはふとヒル魔に尋ねてみた。
サンアントニオ市のモーテル。ラスベガスへ向かう道中、丁度街に辿り着いたデビルバッツ一行は何日かぶりに風呂に入れてご機嫌であった。
セナの問い掛けに、ヒル魔は無言で脅迫手帳を取り出したので彼は一気に顔色を変えた。

「あ…いや、もうわかったんでいいです…」

ヒル魔にとっては愚問でしかなかった様である。ススス、と視線をヒル魔からずらして逃げ腰になったセナであったが、その背後から栗田がバスルームからひょっこりと顔を出した。

「そうだ、ヒル魔。全体練習ってしなくていいの?」
「先に個々の能力つけなきゃ、全体練習も糞もねぇだろ」

ベッドに座るヒル魔はプレーブックファイルと雑に書かれたファイルを取り出しながらそう言うと、バチンと音を立ててファイルに付いていたクリップを外した。

「プレーブックは日本に戻ってから数日で叩き込む!」

バサバサバサ!とカードサイズの何かが大量にベッドの上に落下した。一枚に一つ作戦が書いてあるプレーブックだ。まぁ簡単に言うと作戦カードである。

「こんなにあるの!?」
「お、これ。NASA戦でやったスイープだ」

驚くセナとモン太の横から、戸叶が一枚の作戦カードをヒョイと捕まえた。そこには箒に乗って飛ぶ不気味なキャラクターが描かれており、ご丁寧に作戦の動きも記載されている。

「なんでイラスト入り…?」
「全プレー覚えさす時間なんざねーんだ。イメージと結び付けて脳にすり込んどけ!」
「漫画っぽくて覚えやすいんじゃね!とね!」

セナの疑問にヒル魔がイラスト入りの理由を説明すると、そのサイドから秋が上機嫌に加わって来た。その瞳は何故か爛々と輝いていた。

「つーかこのキャラクター見覚えあんな」

作戦カードを凝視しながら戸叶が言い出すもんだから、数名の視線が彼の持つカードに集まった。戸叶が持つ作戦カードを覗き込んだ黒木が、あ〜と納得した風に声を漏らす。

「遊戯王のキャラじゃね?」
「パクりか?」
「少しだけ弄ってんな、これ」
「失敬な!パクりじゃないから!」

何故か秋が即座に訂正者に回ったので、作戦カードに視線を向けていた数名が彼女を見た。その必死さに、主にパクり疑惑を口にしていた三兄弟が何かを察して作戦カードの山へ向き直った。

「ちょっと似てるキャラとかいるじゃん!色んな漫画に!」
「おーおー、こっちのはボーボボのキャラかぁ?」
「パクりじゃないってば!態々探すな!」

作戦カードの山から探し出した一枚のカードを取り出して、態々秋に見せ付ける様に言い放った黒木に彼女がわかりやすく憤慨する。その一連の流れを見ていたモン太が、流れを絶つようにふと尋ねた。

「これ秋が描いたのか?」

黒木の手から作戦カードを奪い返そうとぴょんぴょん飛び跳ね奮起していた秋が、モン太の言葉で勢い良く彼を振り返った。

「そーなの!よくぞ聞いてくれた!」
「すげーなお前!なんか色々カッコいいプレーあるし!」

そうである。何故か作戦カードお披露目で上機嫌だった理由はここにあるのだ。秋は一応カメラアイという個性でアメフトの諸々を記憶している為、作戦カードの製作をヒル魔に強要されていたのである。多趣味であるのもこのイラストに上手い事貢献していた。しかし故にパクり疑惑が出てしまったのだった。
と、キラキラとカッコいー技で上機嫌になったモン太たちにどぶろくが言葉を挟んだ。

「そんな色んな攻撃パターンできんのか?」

その意味深なフレーズに作戦カードに夢中だった皆がどぶろくへ視線を向けた。

「お前らタイトエンドもいねーんだろ?」
「タイトエンドって、何だっけ…?」
「壁になったりパス捕ったり…作戦によって役目が変わる何でも屋さんね」

アメフトのポジションをあまり理解しきれていないセナの質問にはまもりが答えた。
タイトエンドに求めるのはワイドレシーバーよりも大柄で、力もあり脚もそこそこ速くパスキャッチもできる者である。まもりの言う何でも屋という表現はかなりしっくり来る、非常に高度なポジションである。

「タイトエンド次第でプレーに変化が出て、敵を翻弄できるって寸法よ!」

そう語るどぶろくであるが、タイトエンドは彼の現役時代のポジションでもある。
どぶろくの言葉にセナとモン太が嬉しそうに顔を見合わせた後、もう一度彼へ向けて言った。

「じゃあタイトエンドがいれば…」
「カッコいい技出来るってわけッスね!?」
「ブロックにパスにと、何でもこなす奴じゃなきゃなれねーがな!」
「だからアメリカで育てさせてたんだよ!」

ご陽気に語るどぶろくの勢いは、ヒル魔が構えたマシンガンによりなくなった。怯えつつカーテンの裏に逃げるどぶろく。
その一連の流れをそのままにしつつ、今まで黙って話を聞いていた栗田が補足した。

「泥門の中途入学枠ってのが一人分だけあるの!」
「今んとこ第一候補は刺青チームのリーダーだな」
「サイモンか。しかしやつぁビーチフットに本気だしな…」

サイモンとはアメリカ滞在初日に出会ったビーチフット、TOO TA TTOOのリーダーである。彼らを育てていたどぶろくがカーテンから顔を出して呟いた。

「まぁ、アメリカ横断中にもっといい奴が見つかりゃ別だがな」

サイモンが泥門に入ったら、日本語から覚えないといけないなぁなんて秋は思った。


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