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蹴っていた石が走り屋バイクの集団にアクシデントで持って行かれてしまい、その為バックス組と別れてしまったのだと。その為にセナが後ろから追い掛けて来るという状態になったらしい。
そうして、どぶろくのカッコイイ〜場面を台無しにした女子とそこに一緒に現れた長髪の男は、逸れた際にセナが出会った日本人だとか。

「ケケケケ!素人がプロテストか!!」

夕食時、カレーを食すヒル魔が珍しく大爆笑していた。
なんでもこの蒸発した兄を探して妹が単身でアメリカまで探しに来た様で。兄が夏彦、妹が鈴音。そしてセナと遭遇したのはプロのアメフトテスト会場だという。ちなみに夏彦はポジションも何もわからないずふの素人だというのにプロテストを受けていたらしい。
ケケケと笑いつつもヒル魔はカレーを口に放り込みながら言った。

「まぁ合格の可能性も0%じゃねぇしなぁ!」
「テスト受けなかったら0だもんね!」
「僕は、合格率100%とみてましたよ!」

ヒル魔や栗田の言葉に間髪入れずご陽気な返答をする夏彦に、鈴音が肩を縮めて愚兄について謝罪を口にした。まぁ、もう第一印象ですぐにわかるだろうが…

「ケケケケケ!バカだ!バカがいるぞ!!」

バカ一直線である。ここまで清々しいバカも泥門には余りいないだろう。しかしこの空間でカレーを食している者はバカが大半を占めている。
そんなバカのひとりであるモン太が突然声を上げた。

「ああ!思い出した!!泥門の入試で…」

ビシリと夏彦を指差したモン太の回想が始まる。
泥門の入試会場で夏彦に声を掛けられたのだと。その回想の夏彦は、モン太に「第一印象ですぐわかった」なんて言って"サルでもわかる英語"という教材を渡されたのだという。
思い出しムカつきを起こすモン太の怒りをセナが鎮めた。

「いや、まぁ…悪気はないんだよ多分…」

昔からデリカシーがないんだな、とは思いつつも。
しかしモン太と同じ年の泥門試験を受けているということは、セナたちと同い年ということになる。

「あれ、てことは今高一?」
「私もね」

4月生まれの兄、3月生まれの妹なので2名とも高校一年なのだとか。
同い年なのに兄貴がアレなんだなー、と秋は思った。そして彼女の意識は横でカレーを無心で食す十文字へ唐突に向かった。

「ねー、十文字って兄弟いるー?」
「ハァ?いねぇけど」
「あ、そーなんだ。じゃあお揃いじゃーん、あたしもひとりっ子」

唐突に宣言された秋の家庭事情を十文字はスルーした。しかしスルーされた彼女は全く気にしていないらしく、次は黒木と戸叶へ視線を向けた。あんたらはー?という意味合いだと認識した黒木と戸叶は至ってシンプル、そして簡潔に兄弟構成を説明した。

「兄貴と弟」
「俺は兄貴2人」

面白い事に彼らの兄弟構成は、ハァハァ三兄弟という括りの中での立ち位置と同じであった。
十文字は長男、黒木は次男、戸叶は三男とヒル魔に勝手に呼ばれている。ヒル魔も彼らの兄弟構成をとある不思議な手帳のお陰で知っていたからそう呼んでいたのかもしれないが、秋はそこよりも違う場所に意識が持って行かれた様だった。

「女兄妹いないんだー。なんか黒木と戸叶はイメージ通りだわぁ」

十文字は妹とかいそうだったわー、なんて秋の発言に三兄弟がお得意のアレを披露した。
そんな何も実らない会話を行う4名の横では着々と瀧夏彦の話が進んでいた。

「…ダメですか、ヒル魔さん。瀧…くんにタイトエンドで入って貰っちゃ…」
「ダメだ」

セナが恐る恐る、夏彦を昨晩知ったポジションであるタイトエンドに推薦したがヒル魔に即却下されてしまった。

「一人分しかねェ虎の子の枠だぞ。こんな素人の糞アゴヒゲにホイそれと決められっか」

パスキャッチやブロックをこなす何でも屋であるタイトエンドに、何故セナがこんなバカを推薦しているのかは謎であるが、彼らが受けたというプロテストで何かがあったのだろう。
あまりにも真っ当なご意見過ぎて鈴音も、夏彦本人も何も言えなかった。

「ま、アメリカ横断終わるまで一ヶ月ちょい。デス・マーチ最後までついて来れたら、候補にだけは入れてやる」

兄妹2名をまるで気遣った様な物言いだが、発信源がヒル魔なのでそれは無さそうではある。遠巻きに見ていた秋は、安定の利用出来そうならするスタイルかーと内心思っていた。

「アハーハー!そのくらい、僕にとっちゃ朝飯前ですよ!」

天下無双のバカ・瀧夏彦は人差し指を振りながらそう宣言した。


▪︎


「死んでますかねー?」

デコトラの上、秋が唐突に物騒なことを言い出した。
言葉が足らなかったものの、彼女が昨晩から加入した夏彦のことを言っているのだろうと認識したどぶろくが返答した。

「こんくらいで死ぬ様ならそれまでだ」
「こんくらいーって言いつつもデス・マーチですからね。名前の通り死ぬ〜って奴ですからね」

そんな会話をしていると、何故だかバックス組と一緒に前方を走っていた夏彦が逆走して来た。
何事だとデコトラの荷台から身を乗り出した秋が夏彦の姿を見ると、驚いた様な声を上げる。

「えー!瀧、リタイア!?」
「アハーハー!まさか!走るだけなんて僕には簡単過ぎるからね!」

そんな強がりを言う夏彦が既に無理をしている状態なのは、秋には見てわかった。否、彼女だけではなく誰が見ても明白。
疲労困憊状態の夏彦は、何故かデコトラの助手席に座る妹へ向き直った。

「鈴音!ハンデになってくれ!」


▪︎


走るだけであんなにキツそうだった夏彦は、それからというものハンデを自分に与えながらアメリカの道を走り続けた。
紐を自分の腹に巻き付け、鈴音を引っ張りながらのランニングである。
怪我したら危ない!と否定的なまもりとは対照的に、鈴音な兄に引っ張られる状態でスケートを滑れるという非日常を楽しんでいた。
そんなハンデを賀しながらモン太と張り合い続けた結果は言わずもがな。

「なんでこの2人だけ今日こんなくたばってんだ?」
「自業自得」

本日のデス・マーチを始める際は元気であった筈のモン太と夏彦が、静かに地面に伏せていた。
どぶろくの疑問には鈴音が答えたが、秋は愉快そうな顔をしていた。

「モン太〜?余裕ない男はモテないよ〜?」

倒れ込んだモン太に近付き秋がそう言うと、彼はビクリと肩を揺らした。
自業自得だと言われてしまったものの、モン太と夏彦がここまで疲労したのにはバックボーンがあるのだ。
瀧兄妹がデス・マーチに参戦してすぐの休憩中、まもりが夏彦へアイシングを手渡した際に何故か彼がフランス語で感謝を告げたのだ。
まぁそれだけなのだが、まもりガチ恋勢のモン太はそれだけで夏彦を目の敵に認定してしまった。故に本日のランニングで張り合ってしまったと。

「何言ってんだ秋お前…!俺は超余裕MAXだぜ…!」
「何処をどう見たら超余裕MAXに見えんの」
「う、うるせー…!」

カメラアイである秋相手に疲労度の嘘をつく等笑止千万。
全てを見透かした様な視線を送る彼女にモン太は顔を背けるしか出来なかったのだった。

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