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デス・マーチ13日目、相変わらずバックス組の夏彦はハンデの鈴音を引っ張っており、そしてモン太と張り合い続けていた。
そうして延々と地味な絵面が続くライン組は現在、軽い登り坂に悲鳴を上げている真っ最中であった。

「重いぃぃいい…!!」
「少しでも登りになると地獄だな…ッ」

デコトラを押して平地を歩くだけでもかなりの負担であるが、ほんの傾斜道でもその負担は段違いとなる。
しかもこのデコトラにはまもりやどぶろく、秋、そしてケルベロスが乗車している。レディーの体重を換算するのはかなり忍びないが、まぁざっと見積もって150kg程プラスされているのだ。ハンドルキーパーまもり、トレーナーどぶろく、セナの変わり身ケルベロス、水掛け要員秋。今デコトラから降りなければならない人物選手権を行えば満場一致で秋が優勝である。
しかし彼女の神経は非常に図太いので、気不味さなど微塵も感じずにライン組にヤジを飛ばす事が出来るのだ。

「動いてないぞ!ファイト!」
「腕だけで押そうとすんな!ケツを前にガツーンと突き出せ!」

ヤジを飛ばすマネージャーには勿論、トレーナーらしく指示をするどぶろくにすら殺意が芽生えてしまう程の身体への負担。
しかしこの負担が少しでも軽減されるのなら、と珍しく三兄弟はどぶろくの言う通りにグイーンとケツを後ろに突き出し、そうして師弟コンビと共にガツンとケツを前に突き出した。
するとどうだろうか、先ほどまでジリジリとしか動きを見せなかったデコトラがわかりやすく前進した。

「おおおおお!」
「マジで動いた!!」
「何気にすげえんじゃねぇかあのオヤジ!」
「ただのアル中じゃなかったのか」

歓喜の声を各々上げたライン組に秋がやるじゃーん!と声を掛けたのだが、素直に受け取る師弟コンビとは違い、三兄弟だけは殺意を増殖させたのだった。


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デス・マーチ17日目。
ランニングとデコトラを押す、というチーム分けのせいでバックス組とライン組で距離がどうしても出来てしまう。その為、食事の際はデコトラの荷台に疲れ切ったライン組を捻じ込んでヒル魔たちの元へ向かわなければならない。
そのせいでついにデコトラのガソリンが尽きてしまったのだ。

「誰かに分けて貰うしかないね…」
「ヒッチハイクみてぇに適当な車止めっか」

こんな何も無い場所でガス欠なんて絶望感しかないが、泥門デビルバッツにはヒル魔がいる。
脅迫手帳もあるしきっとなんとかなるだろう、と言った皆の希望は見事に打ち砕かれた。

「車爆発する奴ですか!」
「ダメだよそんな危ない止め方ー!」

ワイヤーを使用したブービートラップという奴である。
ヒル魔式ヒッチハイク法の非道さに栗田が思わず静止してしまったが、代案として彼が行ったヒッチハイク法も中々に危険であった。

「フンヌラバ!」
「いやいや!それも危ないから!!」

走行する車に体当たりをするという栗田式ヒッチハイク法に、今度はセナとモン太が静止をかけた。
その後も夏彦式ヒッチハイク法、セナ式ヒッチハイク法、モン太式ヒッチハイク法も次々行ったが奇跡的な程の不発。
これではガソリンを手に入れる事が不可能だ、と悩みまくった結果、鈴音式ヒッチハイク法が提案された。

「やーー!これなら楽勝でしょ!」
「だ…大丈夫かなぁ…?」
「まもり先輩めっちゃイイ!セクシー!」
「もう!恥ずかしいから辞めて!」

その名も"北風より太陽作戦"。
女性陣3名が薄着でヒッチハイクをするだけであるが、これがまさかの一発成功。
流石に一台から全てのガソリンを抜くのは栗田やまもりが止めたので、味を占めたヒル魔の指示の下デコトラが満腹になるまで"北風より太陽作戦"が続行された。
元々薄着の鈴音と秋は全くダメージがなかったが、まもりはその晩恥ずかしさで暫く眠れなかったらしい。


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その後も竜巻に追われたりバックス組への水配達を秋が拒みどぶろくと揉めたりする等諸々あったものの、泥門デビルバッツのメンバーは着々とラスベガスへ近付いて行った。
そうしてデス・マーチ30日目、夕食時に疲労困憊状態で地面にへばり付く面々へどぶろくが語り掛けた。

「『100里を行く者は90里を半ばとす』つってな、こっからがホントの地獄だぞ」

どぶろくは続ける。90里までやったんだからもう良いだろう、という身体の呻き声とずっと戦う事になるのだと。

「俺が大学でやったデス・マーチも2000kmだったが、魔のラスト500kmで全員が脱落した」

どぶろくが身体を壊し、それがキッカケで選手生命が断たれたという過去のデス・マーチ。
途端、秋はゾワリと鳥肌が立ったのがわかった。
アメリカ横断だー!なんて楽観的にしかこの状況を見ていなかった彼女は、このデス・マーチという特訓が如何に恐ろしいかを痛感したのだ。
どぶろくが少し前に、秋の眼が肝要だと言っていた。相変わらず彼女はへー?くらいにしか思っていなかったのだが、現状を見れば納得するしかない。
全員ギリギリの状態である。今から24時間休んだとしても、身体面も精神面も心配でしかない。
泥門デビルバッツの面々がどぶろく同様身体を壊したりしたらどうしよう、という不安が秋を襲った。

「これ当時の写真な」
「あるんだ!!」
「どっから見付けてくんだお前は…」

珍しく秋がシリアスモードに突入したというのに、ノートパソコンをカタカタしながらどぶろく大学時代の写真を出して来たヒル魔のせいでその場の雰囲気はガラリと変わってしまった。
デス・マーチで過去身体を壊した張本人であるので仕方がないとは思うのだが、どぶろくが話すと何故かシリアスが全開になってしまう。
なんだか内心シリアスモードに入ってしまった事が恥ずかしくなり、秋は近くで倒れて息を切らす黒木の頭をベシリと叩いた。

「っで…!何、すんだお前…!」
「なんでもない!」

息切れしながらもしっかり睨みを利かして来た黒木に、秋は意外とまだみんな大丈夫そう!と再確認した。
その横では大学時代のどぶろくに興味津々なセナたちの会話が繰り広げられていた。

「千石大学アメフト部のショーグンとドブロク!二本刀って呼ばれたもんよ!」

現王城の監督であるショーグンとどぶろくは過去チームメイトであったのだと。
どぶろくが千石大学時代の武勇伝を語ろうと話し始めると、各々が夕食の準備に取り掛かろうとシフトチェンジし始めた泥門デビルバッツであった。
やはりおっさんの話は長いなと、黒木に喧嘩を売られながら秋は思った。

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