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「え!あのデコトラ売り払ったんですか!」

心底驚いた様子で、秋がホテルのロビーで声を張り上げた。
朝食なのか昼食なのかわからないが、兎に角一食目の食事を済ましたばかりの彼女はまもりと鈴音に連れられ服飾店へ向かっている最中であった。

「そうなの、ヒル魔くんがね」
「流石ヒル魔先輩、相変わらずな暴君振り!どぶろく先生日本に連れて帰る気ですかね?」

秋の読みはどうやら当たっているらしく、まもりは困った風に頷いた。
話によれば、ヒル魔は泥門デビルバッツメンバーの飛行機代とどぶろくの借金代を今晩のカジノで稼ごうとしているらしい。
服飾店への道中その説明をされると、秋はあからさまにテンションが上がった。

「よっしゃー!じゃあカジノでボロ儲けしましょー!特技活かせそう!」

そのテンションのまま目的地へ向かって一人駆け出してしまった秋。その背中を追い掛けながら、鈴音は小さな疑問点をまもりに投げ掛けた。

「アッキーの特技って?」
「秋ちゃん、カメラアイっていう瞬間記憶能力者なのよ」

人は見かけによらないな、と鈴音は思った。


▪︎


服飾店に入るなり、まもりと秋が着用するドレスを鈴音が吟味し始めた。
まもりも秋も正直ドレスはどれでも良いと思っていたのだが、彼女らがドレスを手に取る度に骨格がどうの、パーソナルカラーがどうのと口を挟むので中々決まらずドレス選びは難航していた。

「まもり先輩なら何でも似合うでしょー!」
「ダメ!まも姐のルックスの良さを際立たせないと!」

かれこれ入店してから40分以上は経っている。
高級感のある店内で、店内の客は富裕層ばかり。そんな中女子高校生がワチャワチャとあーでもないこーでもないとドレスを取り出しては戻し、を繰り返しているのだ。あの秋ですら居心地が悪いと感じ始めているのだから、まもりの心労は計り知れない。

「ね…ねぇ鈴音ちゃん?そろそろ決めない?ヒル魔くんたち怒っちゃうかもしれないし…!」
「そーだよ!鈴音は知らないだろうけど、ヒル魔先輩怒ったらヤバいんだからね!」
「だってカジノ行くのは今晩なんでしょ?だったらまだ大丈夫だって!」

言いながらも鈴音の目線は両手に持った赤いロングドレスと、ワインレッドのロングドレスへ向かっていた。

「ねぇアッキー、まも姐ならどっちかだと思うんだけどどうかなー?」
「じゃあこっち!はい決定!」
「そうね!秋ちゃんはこれなんて似合いそうね!」
「はい!決定ですね!」
「やーー!ちょっと待ってよ!」

長い熟考の末鈴音が選んだまもりのドレスは黒ラインが施されたワインレッドのタイトドレス、そして秋に選んだのは黒いホルターネックのミニ丈ドレスだった。
その他イヤリング等のアクセサリーも選抜し、長い長い買い物を終えて女子部屋に戻って来た3名であるが、しかし瀧鈴音のコーディネートはまだ終わってはいなかった。

「まも姐はアップスタイルにしよ!アッキーは巻き髪ハーフアップ!」

カジノは24時間営業だがどぶろくの借金である2000万円を稼ぐ時間、そして帰りの便の時間も考えればドレスアップでこんなに時間は割けない。
のだが、アドレナリン全開の鈴音の勢いは止まることを知らない様だった。

「こっちは自分で出来るから、秋ちゃんの方からやってあげて?ね?」
「じゃあアッキー!そっち座って!」
「もうテキトーで良くない!?」
「良くない!!」


▪︎


ヒル魔に準備が遅ぇ!と散々怒鳴られた秋は、バチバチにコーディネートされた状態で不服そうな表情を浮かべていた。恨めしく見詰める先は目線を全く合わせてくれない鈴音、そしてモン太や夏彦にドレスを褒められまくるまもりである。
なんという待遇の差だろうかと彼女は世の中を呪った。せめて誰か自分のドレスにも触れてくれないか。

「加賀、お前キャバ嬢みてーだな」

秋のドレスに触れたのは、彼女が救いを求めて視線を向けた栗田ではなく三兄弟であった。
男子諸君もスーツに着替えており、バッチバチのカジノスタイルである。
白スーツの十文字、黒スーツの黒木、白スーツのジャケット無しが戸叶。しかし首元の金のネックレスが彼らのガラの悪さと相まってVシネマに出て来そうな風貌になっていた。

「それって褒めてんの?」
「弄り80の褒め20」
「なら褒め言葉として受け取るわ!」
「四捨五入したら0だぞ。ポジティブだな」
「だな」

反応してもらえただけで気持ちが幾分か楽になったのだろう。
ほぼ弄りで構成された黒木の言葉に素直に喜ぶ秋に、十文字と戸叶は呆れた表情を見せた。


▪︎


「今日のカジノで、テメーが日本に戻る為の2000万稼いで帰る」

ホストなのかと問いたくなる程のド派手なスーツに身を包んだヒル魔が、カジノへ入店早々そう豪語した。
2000万なんて金額がそう簡単に稼げるとは到底思えないが、このヒル魔のことだ。簡単に稼いで来そうである。

「よっしゃ!俺らも手伝うぞ!」
「賭け金あったかな…?」

どぶろくの借金返済についてはヒル魔に絶対的信頼を抱いてしまってはいるが、かと言って見てるだけというのも頂けない。
ということで、泥門デビルバッツの面々もカジノで賭けて2000万の手伝い兼帰りの旅費を稼ぐ為に各々ゲームを始める事にしたのだった。

「2人合わせて…」
「1$…」
「少なっ」
「秋はどうなんだよ!」
「所持金無し!」
「ええ…!」
「無いのかよ!」

なけなしの1$を握り締めルーレットへ向かって行ったセナとモン太の背中を見届けると、秋は考えた。
彼女の特技はカメラアイを活かした記憶力。それが発揮出来そうなゲームはブラックジャックである。しかし所持金0では特技が活かせない。

「ということで、まずは偵察!」

簡単に稼げそうなゲームがあれば誰かにお金を借りて一回やってみよう!の精神である。
まずはルーレットに向かったセナとモン太がどうなっているか偵察しに向かった秋であった。


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