05
あの後ヒル魔がブラックジャックで2000万をいとも簡単に稼いだのでデビルバッツの面々はカジノを後にし、帰り支度に勤しんでいた。
あと1時間強で空港に向かわなければならないのだが秋は何故かヒル魔の部屋にいた。
「あたしもブラックジャックで無双したかったのにー」
彼女の目的は再びカジノへ行きブラックジャックリベンジをしたい、というものだった。
荷物を適当にバッグにぶち込み時短したらしく、さっさと準備しろ!というヒル魔のお叱りはかわしたところである。何故なら準備は既に済んでいるからだ。
ガシャガシャといくつもある機関銃を袋にぶち込んでいるヒル魔は不機嫌そうな顔を隠す事なく秋へ顔を向けた。
「テメーの頭の出来で賭け事なんざ出来るわけねぇだろ」
「記憶力には自信があったんですから!そこで負けたという悔しさがあるんですよ!」
生まれた頃から持っているこの瞬間記憶力。それで悩んだ事も勿論あるが、秋はこの能力を誇りに思っている。と同時に記憶力や洞察力等ではヒル魔に優っていると自負しているのだ。
だというのにブラックジャックではヒル魔に敗北している。
それもこれも、彼女がブラックジャックのルールをしっかり把握していなかったせいなのだ。ならばヒル魔からしっかりブラックジャックのルールを教えて貰えれば自分はヒル魔に勝てる、更には億万長者待ったなし!という考えに至ったのである。
「ヒル魔先輩!ちょっとブラックジャックのルールしっかり教えてくれないですか?!それなら勝てそう!」
お願い!とベッドの上で正座して両手を合わせる秋をヒル魔は無視することにした。
本当にお願いしたいなら床に跪くだろうに。
しかし彼女は諦めない。飛行機までまだ少し時間があるのならカジノに行けるだろう!と秋は懇願した。
「お願いー!!ヒル魔先輩への借金返せるかも!いくら借金あんのかかわかんないけど!」
これが彼女の第二の目的。
カジノは万年金欠女である彼女にとって大金を得られる絶好のチャンスなのだ。しかもルールさえ覚えられればブラックジャックで無双間違いなし!
ヒル魔の下僕としてこの数年動いて来たが、彼への借金を返し切れば秋は晴れて自由の身。
勿論最近やり切ることを決意したマネージャー業は続ける予定だが、ヒル魔の下僕で無くなれば自由時間も増えるだろう。と言うことである。
いよいよ鬱陶しさの限界が来たのか、ヒル魔は大きく舌打ちをすると秋へビシリと指を指した。
「テメーには向かねぇからさっさと諦めろ!」
「何でですか!あたしめっちゃ稼げますよ!」
言い切った後に、多分!と添えたものの、彼女はルールさえ覚えれば稼げる自信があった。
そんな秋の態度に、ヒル魔は再びチッと舌打ちをした。
「テメーみてぇなアホ面女がカジノで大勝ちしてみろ」
「アホ面ってなんですか」
「イカサマ疑われてサツに捕まるか、カメラアイがバレてどっかの組織に目ェ付けられて死ぬまでこき使われるだろうな」
ヒル魔先輩に丁寧に説明をされた結果、秋はブラックジャックで億万長者計画を諦めることにした。
「え、こわ。じゃあやめよ」
億万長者より身の安全である。
秋が態度をコロっと変えた為、ならさっさと出て行け!とヒル魔は彼女を部屋から追い出したのだった。
▪︎
ラスベガスの空港へ到着し機内に乗り込むと、飛行機が苦手な十文字は即座にアイマスクを装着し自己防衛に入った。
そんな十文字の肩に手を置きながら黒木と戸叶は、俺らがついてるぞ!と彼を元気付けていた。
そんな様子を前の席から聞いていた秋は、身を乗り出して彼らを茶化すことにした。
「相変わらず十文字って飛行機苦手だよねー」
「日本に着くまで俺に話しかけるな」
「オッケー!じゃあ後12時間話しかけない様にするね!」
「正確に時間を言うな!」
顔色が悪くなった十文字は配布されたイヤホンを耳に装着して完全防備スタイルに入ってしまった。
そんな彼の横に座っていた黒木が秋へ呆れた表情を向ける。
「お前面白がってんだろ」
「だってなんかイメージと違うからさー。十文字って怖い物無さそうじゃん?」
秋のその言葉に、戸叶が控え目にカッカッカと笑った。
中学の頃から十文字と一緒にいる彼でもその意見には賛同してしまった様だ。
「それはわかるな」
「でしょー?あんたらは苦手なのあったりする?」
「教えるかよ。お前変なことしそうだし」
「同じく」
この短期間であるが秋とよくつるむ様になった黒木と戸叶である。彼女の性格はある程度把握しているので、十文字程ではないが完全防備である。秋は、バレたかー!と楽しそうにリアクションをした。
「つーかテトリスやんだろ?そっちいたら出来ねーだろーが」
「え!やってくれんの!じゃあそっち行く!鈴音、あたし席移動するからこっち座っていいよー!」
丁度4名掛けの席だった為に黒木の横が空席であったので、テトリス後半戦開催の為彼の隣に移動する事を決定した秋。丁度横に座っていた鈴音に、今の今まで秋が腰掛けていたまもりの横の席を譲ると勢い良く立ち上がった。
手荷物を持っていそいそと移動していると、鈴音が意味深な眼差しを送って来ている事に気付いた秋。彼女はその意味を瞬時に察して眉を顰めた。
「なに、その意味深なアレは」
「…いーやー?」
下手な口笛でわかりやすく誤魔化すと、鈴音はまもりの横の席に移動して秋からの視線から逃げて行った。
自分から仕掛けといてなんじゃ!という秋の心境はあったものの、彼女にとってそれはテトリス後半戦よりも優先順位が低かったので今は放置する事にした。
黒木の横の席に移動した秋は、興奮気味に計画していたトーナメント方式を提案した。
「トーナメントしよ!戸叶もやるでしょ?」
鉄壁の防御な十文字を飛び越えて端に座る戸叶に声をかけたものの、彼は既に漫画を読み込んでいた。彼の返答は予想通り。
「俺はパス」
「えー!じゃあ黒木!2人でトーナメントしよ!」
「2人でどーやってトーナメントすんだよ」
「確かに」
▪︎
離陸から2時間ほど経った頃、睡眠を取る乗客用に機内の照明は薄暗くなっていた。
辺りからは既に乗客の寝息やいびきが聞こえて来ていたが、秋はテトリスに集中し過ぎてそれにあまり意識がいっていなかった。
すると彼女の右肩にズンと急に重みが落ちて来た。
「え、なに…」
それは今の今までテトリスを永遠に競っていた黒木の頭であった。
面食らった秋は思わず身体を退けぞろうとしたが、黒木の方のテトリス画面が少し前から操作されていない事に気付き彼が眠ってしまったのだと察して動きを止めた。
その延長線で十文字や戸叶へ改めて視線を向けると、彼らも同じ様に眠っている様であった。
「…寝ちゃったかー」
テトリスに白熱し過ぎていて全く気付いていなかったが、前の席に座るまもり等も眠っているのか声が聞こえない。横の席に座るセナやモン太も同じ様に眠ってしまっていた。
テトリス画面をポーズにしていた秋は少し考え込むと、中断していたゲームを再開させた。
カチカチと暫くリモコンを操作しているとその画面には大きくWINと表示された。
「はーい、あたしの勝ち」
対戦相手が寝ていようが容赦が無い。何故なら行きもこの帰りの最中でも、秋はテトリスで大いに黒木に負けていたのだ。
例え対戦中に黒木が寝落ちしていたとしても、これは正真正銘勝ちなのだ。
そして秋はなるべく肩を動かさない様に配慮しつつ携帯を取り出すと、左手でこの様子を自撮りし始めた。
テーマは"圧勝"。
これは秋の夏休み合宿フォルダ、記念すべき最後の写真となった。
20260508