01
夏休みが明け、新学期。
帰国便の機内でしっかり爆睡してしまった秋の睡魔は昨晩しっかり機能せず、彼女は帰宅後夜更かしに精を出してしまった。
そして案の定彼女は2学期早々遅刻を決めた。
「あ・の!糞ビンボー!!」
遅刻だけでなく夏休みの宿題もしっかりやって来なかった秋は、放課後に居残りで反省文を書かされていた。故に部活に未だ顔を出していない。
ブチギレるヒル魔に怯えつつ、セナやモン太は後々起こるであろう秋への裁きに震え上がる事しか出来なかった。
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机にひたすら向かい続ける事が苦痛と感じるタイプの秋が、長い事座りっぱなしで反省文を書かされていたという。
そうなれば彼女のメンタルは相当削られているだろう、とまもりは心配していたのだが見事に予想的中であった。
「テメェ!いい加減にしやがれ!!」
「ヒル魔先輩…!もう…!あたしもう今世分反省しきったから…!」
暗い顔でグラウンドにトボトボやって来た秋は、怒鳴り散らかすヒル魔にわかりやすく怯えて半泣きになったしまった。いつもなら仕方ないじゃん!とか言い返す秋がこんな感じなのでヒル魔もやり難いと感じたのだろう、ブチギレ顔で舌打ちをキメると準備を急かすだけして彼は部活に戻って行った。
泥門デビルバッツの部活見学の為に態々来ていた鈴音が、どんよりした雰囲気を醸し出す秋へいそいそと近付いて尋ねた。
「なになに、アッキー反省文書かされてたの?」
「そのワード使わないで、トラウマ確定してるから」
「えー?反省文?」
鈴音がしたり顔で繰り返したその言葉に、秋はより一層顔を青くした。
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秋が反省文を書き終えて部活にやって来てからかなりの時間が経っており、時刻は既に9時を回っていた。
本日の練習はヒル魔の指示で終了したが、部室に戻り着替えたら秋大会のレギュラーメンバー発表が行われる。
ヒル魔や栗田、アイシールド21などの主力メンバーのレギュラー入りは確定であろうが、雪光や瀧なんかは期待や不安であからさまにソワソワしていた。
「今から呼ぶ奴は全員、攻撃と守備の両面で使う」
段ボールに入っていた泥門デビルバッツ選手のミニチュア模型たちを、栗田が卓上へ広げた。
そのひとつ、自身の模型を掴むとヒル魔はドンとテーブルの上に置くと告げた。
「まずクォーターバック、俺!」
言わずもがなである。そしてすかさずヒル魔がキッカーも兼任する事を補足した。
セナが少々悲しそうな表情を見せるも、モン太が彼に小さく何か言ってみせた。
彼らはムサシに戻って来て貰おうと奮闘していたらしいので、彼が戻らない事について思う事があるのだろう。と、秋はそう自己完結させた。
「次!ライン5人!」
此方も言わずもがなラインの主力である栗田と小結、そして三兄弟の5名。そしてランニングバック2名はアイシールド21と石丸だと発表されたので、陸上部である筈の彼は微妙な顔をした。
「すごい普通に部員としてカウントされてるな…」
「逆になんか凄いですよ、石丸先輩」
「それ喜んでいいのかな…」
秋の素直な感想に、石丸は更に微妙な顔をした。
陸上部のエースである石丸は優し過ぎ、そして影が薄過ぎる為にいつもこんな扱いだ。彼の口癖は、いいよいいよである。
「で、タイトエンド!」
そしてついに中途入学枠のポジションであるタイトエンドの発表になった。
瀧兄妹を筆頭に、セナも表情が固くなった。
鈴音によると、瀧は小学生の頃からアメフトがしたくて仕方がなかったが入る学校にアメフト部が無く、高校はアメフト部がある所を受けたものの頭の悪さで全て不合格だったらしい。
今年の泥門は定員割れで全員合格になっていたが、瀧へ補欠合格の知らせが来た頃には彼は既にアメリカに飛んでいたとのこと。
並外れた行動力はあるが、やはり昔から運が悪いらしい。
「瀧、夏彦」
しかしついにその運の悪さに彼は実力で打ち勝った。
ヒル魔の口から飛び出た瀧の名前を聞くと、鈴音が誰よりも先に歓声を上げた。
「やーーーー!!」
いつ準備していたのか、飛び跳ねる鈴音の後ろで栗田が合格おめでとう!という文字が中に仕込まれたクラッカーを響かせた。
「やった!!」
「一緒にアメフトやれるね!」
「…ア、ハーハー…!100%って言ったろッ?」
セナや栗田が歓喜の声を上げると、ビシバシ!と効果音が付きそうな程の決めポーズを取り、瀧は喜びを表現した。そんな兄を鈴音はハイハイとあしらったが、彼女は同じくらい嬉しそうな顔をしていた。
クォーターバックもキッカーもラインもランニングバックも、そしてタイトエンドも決まった。
次が最後、レシーバー2名だ。
「雷門太郎!と、もう1人は…」
モン太も泥門デビルバッツの主力選手である。ここまでは当然である。
セナや栗田やまもり、雪光を気に掛けていた者はチラリと彼へ視線を向けた。
何故なら雪光にレギュラー入り出来る可能性があるのは、最初からこのポジションだけだからだ。
ガリ勉の運動神経が無い2年生。しかしアメフトに掛ける熱意は栗田や大吉に並んでおり、その熱意通り雪光はデス・マーチも完走した。
入部してから4ヶ月間、彼はひたすらにアメフトに向き合った。
「バスケ部助っ人、佐竹と山岡を交代で使ってく」
彼は向き合ったのだ。ただ懸命に。
しかし雪光学の名が呼ばれる事はなかった。
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レギュラー落ち。
しかも正規部員が助っ人にレギュラーを奪われるだなんて、その悔しさはマネージャーである秋には計り知れない。
「全然疲れてねぇな」
「やっぱ俺ら、体力増えてんだな!」
「だな」
レギュラー発表後、三兄弟と秋は並んで帰宅中であった。
デス・マーチ後、帰国してすぐの部活だ。
夏休み前の部活後は毎度疲労感に脅かされていたというのに、自らのビフォーアフターに感激している三兄弟。
その横を歩く秋の表情は、珍しく暗かった。
「こんだけ体力付いてたら試合も楽勝だな」
「初戦相手、何処だ?アミノなんとか?」
「網野高校だろ。大会荒らしの」
あー!それそれ!と十文字の指摘に賛同した黒木は、チラリと横を歩く秋へ視線を向けた。
いつもなら誰よりもうるさい女が静か過ぎて、なんだったら気不味さを感じていたのだ。
「「「……」」」
それは黒木だけでなく、十文字も戸叶も同じであった。
3名はチラチラとお互いに目線を合わせた後、一斉に秋へ視線を向ける。
「…?」
すると、突然黙りこくった三兄弟に漸く気付いた秋がふと視線を持ち上げて不思議しうな顔をした。ので、黒木は思わずどデカいため息を吐き出してしまった。
「え、なに?」
「それはこっちの台詞だっつーの!」
「えええ、マジでなに?」
本当にわかってなさそうな秋の態度に、十文字が言い放った。
「アイツの事気にしてんだろ」
アイツ、が誰のことを指しているのかはすぐに分かった。何故なら秋の頭の中はそればかりだったからだ。
触れてやらない方がいいのかもしれない、けどせめて声くらいかけた方が良かったのかもしれない。と色んな考えが頭の中を右往左往。
何が最善だったのかがわからないのだ。ただひたすらに、名前を呼ばれなかった時の雪光の表情が頭から離れない。
「…あんたらがレギュラー落ちたら、なんて声掛けられたら気持ち楽になる?」
少々考えた後秋が意を決して三兄弟に問い掛けると、彼らは顔を見合わせた。