02

秋は全速力で走っていた。
先程帰宅するという名目で通ったばかりの裏門を通ると、彼女はアメフト部の部室へ一直線に向かった。

「ぐえッ…!」

部室の引き戸を引こうとしたが、どうやら既に鍵が掛かっていた様で変な体制になってしまった。勢い良く扉を引いた為だ。
伸び切ったことで変に痛くなってしまった脇腹を摩りながら、秋は思考を張り巡らせた。
もしかしたら雪光がまだ校内にいるかもしれないと考え、態々ひと声かけに来たのだ。
部室にいないとすれば次に考えられるのはグラウンドだ。と、思われる。

「よし!」

グラウンドへ向かおう!という訳で即実行しながら、秋はグラウンドへ向けてまた全力疾走した。


▪︎


グラウンドへ向かったもののそこには誰もおらず、秋は肩をガックリと落としてしまった。
きっと雪光は既に帰ってしまったのだろう。
秋がトボトボとグラウンドから立ち去り裏門へ向かっていると、高学年用の通用門に向かって歩く見知った男子生徒を発見した。
彼女はパァッと一気に表情を明るくした。

「雪光先輩だー!!」

それは秋が現在探し求めていた人物である雪光であった。
秋が駆けながら大音量で雪光を呼んだので、遠巻きにいる彼も彼女の存在に気付いた様だった。

「加賀さん…?どうしたんですか?」

目の前で息を切らす秋に戸惑いつつ、雪光はそう彼女に尋ねた。
尋ねられた秋は荒い息をなんとか最小限にする為に目一杯息を吸い込むと、フィーッと息を吐き出した。そしてある程度喋れれようになると目の前で困惑気味の雪光へ言った。

「雪光先輩に、一声かけようと、思って…!」

秋の言葉を聞くと、雪光は彼女が何の為に自分を探していたのかを理解した。

「…そっか」

言って、また悔しくて涙が溢れそうになってしまった。
つい先程も、直接ではないもののセナとモン太に元気付けられたところだ。
後輩にこんなに気を遣われるなんて、なんと情けない先輩なんだ、と。
そんな雪光の心境に気付くと秋はやばいやばい、と少々焦って頭を働かせた。

「ヒル魔先輩は!めっちゃわかり辛いと思うんですけど、雪光先輩の事ちゃんと評価してますからね!」

何を言おうと考えてはいたが、実際言葉にすると難しいものだと秋は思った。
三兄弟に、言われて楽になる言葉は何かと尋ねたが、あまり参考になる返事は返ってこなかったので自分で考えたのだ。
秋は雪光が何を言われたら気持ちが楽になるのかはわからない。観察力や洞察力が優れていると自負はしているが、雪光とは3ヶ月程の仲である。
ならば中学の頃からの仲であるヒル魔の思考を伝えよう!と考えたのである。

「だけどあの人は現実主義だし、とにかく勝つ事に凄い執着してるから……えーっと…」

言いながら、あれ?これって雪光を元気付けられてる?と秋は思考の迷子に陥った。
これでは雪光がレギュラー入りしたら勝てないと言っている様なものでは?と秋の言葉は段々と尻窄みになっていってしまった。
それに気付くと、雪光は彼女に寂しそうな笑顔を向けた。

「……気を遣わせちゃったね、ごめん」
「いや!ええーっと、勝ちに執着してるのも雪光先輩の為ってのもあるだろーし!それに!昔からヒル魔先輩は使えないって思ってる物を手元に置いとかない人だ、ってのは知っといてほしくて…!」

秋自身もそうである。
中学の頃から彼女はヒル魔に迷惑を掛けまくって来たし、自分で言うのもなんだがやりたい放題しまくって来た。
しかしヒル魔は、例え迷惑を掛けられても秋を"使える物"として認識し手元に置いていた。

「あ!いや!雪光先輩のこと、あたしが物って思ってる訳じゃなくて!ヒル魔先輩がね!これはあくまでヒル魔先輩目線の話で…!」

あまりにも必死に弁明するもんだから、雪光はクスリと笑ってしまった。

「ヒル魔くんに本当にそう思われてるんだったら、嬉しいな」
「そう思ってます!ただ今はまだ身体能力的に難しいって判断しての結果だと思います。だから、惜しかったって考えてください!」

雪光学という男はは17年間机にしがみついていたのだ、身体能力が劣っているのはいくらもがいたってどうにもならない。
せめて1年早く始めていれば、と散々悔やんだ。けれどどれだけ後悔したって突然筋骨隆々になれるわけでもないのだ。

「それに雪光先輩、初めて会った時よりも筋肉付いて来てます。だから、先輩のペースで力付けて行きましょう!」
「…そうだね」

実際今日の部活で40ヤードダッシュも5秒6と、自己ベストを更新した。この4ヶ月の努力で0.5秒も縮めたのだ。
やっと心の奥のつっかえが取れたような気分になった雪光が微笑んでいると、秋はハッとして挙動不審になり始めた。

「け…けど、さっきのはヒル魔先輩には内緒で…!あの人自分の本心言いふらされるの嫌いですから…!」

中学からの仲でカメラアイ、そして観察力洞察力が優れたマネージャーがここまで狼狽えるのだから、ヒル魔が自分を"使える物"と認識しているのは本当の事なんだろうなと雪光は改めて実感した。

「大丈夫、言わないよ」

努力は裏切らない。
雪光はまだアメフトを初めて4ヶ月だ。
伸び代しかないのだ。


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