03
「ここに21入れたら?」
「いや、ここはデビルバットのロゴ入れたいの!21はここ!」
「あ〜じゃあ、こんな感じ?」
秋がシャッシャッとシャープペンシルで紙に描き込むと、指示した鈴音はそうそう!と喜んだ。
何をしているのかと言うと、泥門デビルバッツの応援グッズデザイン作成をしている真っ最中なのである。
新学期が始まって初めての土曜日。ヒル魔により泥門デビルバッツの盛り上げ隊長に任命された鈴音は、マネージャーである秋の家に早朝から突撃していた。
「本当アッキーって絵描くの上手だよね!作戦カード?って奴のイラストも描いたんでしょ?」
「多趣味だからね〜!だからこそヒル魔先輩にこき使われてんだけど」
デス・マーチの最中にマネージャー業を頑張ろう!と決めてからというもの、遅刻はするも秋の心境はかなり変わっていた。
今までの彼女であれば、土曜のこんな早朝からアメフト部の業務なんかやりたくない、なんて言って逃げ回っていただろう。
アメフト自体が面白いとはまだ感じていないものの、アメフト部のみんなは好きだ。故に、みんなが頑張ってる物を応援する!という思考に落ち着いたのだ。
その為に応援グッズのデザインも、なんだったら泥門デビルバッツのチアガール衣装のデザインまで担った。
「そーいや、チア衣装届いたんだって?」
「そっか、まだアッキー見てないんだ。反省文書いてたから」
「そのワード禁止!!」
鈴音が泥門デビルバッツの盛り上げ隊長兼チアリーダーに任命された事がきっかけで、ヒル魔からチアガール衣装のデザインを任された秋は、実は帰国便の中で衣装のデザインを済ませていたのだ。
それが新学期早々爆速で届いたのだ。早過ぎて普通なら驚くだろうが此方にはヒル魔がいるのだ、こんなの普通のことである。
「アッキーもチア衣装着て欲しかったなー」
「マネージャーなのに?…って、も?も、って何!え!まもり先輩も着たの!?」
秋が丁度反省文を書かされていたあの日の放課後、鈴音は届いたばかりのチアガール衣装を身に纏いセナたちにお披露目していたのだ。
流石に部活中は制服に着替え直していたのだが、どうやらチア衣装を着た際にまもりも巻き込んだらしい。
その事実を知ると秋はフローリングに倒れ込んだ。
「まもり先輩のチアガール見たかった…!!」
「やーー。そんなに??」
「だってまもり先輩だよ!?クッソー!めっちゃ悔しい!もしかしてモン太も見たの!?」
「うん」
「先越されたー!!」
床をバンバン殴り悲鳴の様な声で悔しさを叫ぶ秋のその姿に、鈴音は少し考える素振りを見せるとにんまりとした。
「アッキーってまも姐のこと好きなの?」
「そりゃあ皆好きでしょ!まもり先輩だよ!?あたしの女神だよ!?」
「そーいうんじゃなくて、恋愛的に好きなの?ってコト!」
熱烈信者の如くまもりを語っていた秋は、瞳をキラキラさせた鈴音のこの発言に思わず目を丸くした。
そうして鈴音が発した言葉の意味を理解すると、ケラケラと笑い出す。
「そんな訳ないじゃん!まもり先輩は言わば"推し"って奴!あんなに綺麗な人見た事ないし!」
「やーー!なるほどねー!じゃあアッキーは"男の子"が好きなんだ!」
鈴音の言葉に秋の笑顔がピシリと止まり、目付きが鋭くなった。
「鈴音、あんたが何言いたいのか分かった!」
「流石カメラアイ様!で、実際どうなの?クロッキーといい感じなんじゃないの?!」
「そーいうのじゃないってば!黒木はただ気が合うだけ!」
「クロッキーはそう思ってないかもよ!」
秋がアメフト部に入部してから早3ヶ月。入部当初や入部する前は三兄弟を許すまじフォルダ入りさせていた秋であったが、実際関わってみるとアメフト部で一番気が合うのはフォルダ入りした三兄弟であった。
当初はやる気のない同士の仲間意識、そして合宿を終えてみると適度にアホな会話が出来て趣味も一緒。その中でも黒木が一番気が合った。
だからと言って恋愛に発展する予定はない。
「ないってば!黒木、あたしの事貶しまくるんだよ?」
「好きな子程苛めたくなっちゃうタイプかもよ〜!クロッキーって素直じゃなさそうじゃん!」
「はーい、そうですかー!じゃあ続きやるよ!」
「やー!アッキーってば照れてるー!」
「照れてない!呆れてんの!」
カメラアイの秋は人間の些細な変化はすぐに気付ける。
出会った当初よりも、当たり前だが三兄弟との親密度は上がっている。しかしその中でも黒木とは関わる頻度が高かった為に、親密度で言うと黒木が一番高いと認識していた。
あまり考えない様にしていたが彼女も気付いていたのだ、三兄弟の中で黒木が自分に絡みに来る頻度が高い事に。
恋愛脳の鈴音の茶化しをスルーしながら、秋はシャープペンシルを必死に動かして一切合切を考えない事にした。
▪︎
9月8日。朝練の為部室へ集まった泥門デビルバッツの面々は、神妙な面持ちでカレンダーに向かっていた。
キュッ、キュッとカレンダーの7日、つまり昨日の余白にばつ印を書くとゴクリと生唾を飲み込んだ。
「ついに…」
「ついに秋大会まで、あと3日…!!」
秋大会の初戦は9月11日の日曜日、明々後日である。
初戦の網野高校との勝負で負ければ敗退となってしまう。ヒル魔たち2年生のクリスマスボウル行きがどうなるかは明々後日で決まるのだ。この状況で平然な気持ちでいられる奴がいるわけが無い。
「ハッ!見ろ!記録達成だ!」
「なんで!クッソー!あたしもやる!」
平然な気持ちでいられる奴はいた。少数ではあるが。
黒木と秋は今話題の携帯ゲームで白熱している真っ最中であった。
「お前らよく遊んでられんな」
そこに呆れた様子の十文字と戸叶が彼らを茶化しにやって来た。
「だって網野相手だよー?余裕っしょ!」
「ハァ?相手は大会荒らしって聞いてんぞ」
「あー!落ちた!」
「ヘタクソ!」
「雑魚だな」
「あんたらが話し掛けるからでしょ!」
「話し掛けたのは十文字だろ」
「おい、聞いてんのかよ」
ゲームに夢中!という態度の秋にイラついた様子の十文字にやっと気付くと、彼女はやっと彼の方へ視線をやった。
「網野に偵察行ったんだけど、あいつらワンパターンなんだもん。こっちは地獄生き延びたメンツだよ?」
だから余裕!と補足すると、秋は再び携帯ゲームへ意識を向けて、そして奇声を発した。
「ヘタクソ!!」
「うっさい!」