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9月11日、日曜日。
全国高等学校アメリカンフットボール選手権の開幕日である。
午前中から部室に集まり、全員で会場入りした泥門デビルバッツの面々は緊張した面持ちをした者ばかりだった。
「いよいよだな!!」
「緊張してきた〜」
「大会前のこの感じはいいよな、なんかこう…血が冷たくなるっていうかさ」
「あれ?なんか前も聞いたようなセリフが…」
春大会でも同じセリフを口にしていた石丸になにやらデジャブを感じてしまったセナ。その様子を横目に見ていたヒル魔が、地味にお気に入りらしいな、なんて棘のある茶々入れをした。
「ヒル魔先輩のお気に入りはー?」
「知るか」
「あたし的には"YAーHAー!"って奴だと思ってますけど!」
「てめーは"お金貸してくださーい"って奴だな」
「違いますけどね!!」
ヒル魔をヘタに茶化すと倍返しで返って来るのは分かっているのだが、どうも怖いもの知らずの秋は軽口を叩いてしまうのが性分なのだ。
そんな横では鈴音が表情を曇らせるセナとモン太を似た様に茶化していた。ビビってんのー?と絡まれたモン太は眉をキリッとさせて言い放った。
「漢が開会式ごときでビビるかよ…!」
「足、足」
ビビっていないと豪語するモン太であったが、しかし彼らの下半身は非常にガクブルしている。まるで産まれたての子鹿だ。
しかし足どころではなく全身が震えている男が泥門デビルバッツの中に1名いた。
「そっそ、そうだよ!み、みんな頑張ってたもん…!神様がちゃんと見ててくれれば…」
それは案の定栗田であった。
震えるどころか全身汗だく、そして顔は青白くなっている。
そんな彼は、震える手で大きな身体とは不釣り合いなサイズの紙をポケットから取り出してみせた。
「今朝うちのお寺のおみくじ引いて来たんだ…!」
まさかの神頼み。
泥門デビルバッツの皆が彼の手の中にあるおみくじへ視線を向ける。
折り畳まれたおみくじをペリペリ栗田が開くと、そこにはデカデカと"大凶"の文字が書かれていた。
「大凶だった…」
「アチャー」
「また余計なことを…」
死んだ目の栗田が泣きながらで大凶であった事を報告すると、秋は頭を抱えどぶろくは呆れた顔をし、そしてヒル魔はデデデデデ!と無言で大凶のおみくじを撃ちまくった。
穴だらけになった大凶のおみくじは宙に舞い、そのままヒラヒラと揺らめいた後に地面に着地した。
▪︎
『さぁ、いよいよ始まりました秋大会!各校マネージャーの先導で入場です!』
ロッカールームで各選手が着替えを終えた後、ついに開会式が始まった。
トレーナーや各学校の関係者用の席に座っていた鈴音は、アナウンスを聞くと不思議そうに隣に座る秋へ尋ねた。
「アッキーは出なくていいの?」
「先導のマネージャーは1人だけだ」
「そ。それにまもり先輩が出た方が華やぐしね!」
「それ自分で言うんだ…」
各校の旗を持ち選手たちより前を歩くのなら美しいまもりのが適任だと力説し、微妙そうな反応んする彼女へ先導の役目をお願いしたのである。
程よく面倒事を押し付けた様に見えるかもしれないが、秋としては本心であった。
網野サイボーグス、柱谷ディアーズ、西部ワイルドガンマンズ、そして我らが泥門デビルバッツが次々に紹介され会場に入場して行く。
「ウケる。うちだけめっちゃ問題児って感じ!」
入場して来た泥門デビルバッツの面々の仕草に秋が思わずケラケラ笑った。
ヒル魔はご機嫌にマシンガンを乱射し、モン太や黒木のお調子者たちは拳を突き上げている。
他のチームが普通に入場した手前、かなり目立っていた。
先陣のまもりや大人しい組はかなり肩身が狭そうであった。
「泥門らしいっちゃらしいがな」
トレーナーのどぶろくがフッと笑ってそう言ったので、秋も鈴音も賛同した。
そして何かと泥門デビルバッツと関わりのある王城ホワイトナイツが紹介された。
瞬間、ジャリプロ桜庭のファンである女子の大群が黄色い声を上げた為、その爆音に秋たちは咄嗟に耳を塞いだ。
「やーー!すっごい人気!」
「学校でも凄かったよ、桜庭先輩の人気!あたしは全然良さわかんないけど!」
「学校?どゆこと?」
「あたし元王城生徒!」
秋の発言に鈴音だけでなくどぶろくも目を丸くした。
そういえば王城から勝手に転校させられたんだった、と言った本人もちょっとビックリしたくらいだ。
秋大会が始まり、勝ち進んで行けば自ずと王城とぶつかるだろう。王城マネージャーの若菜と関わる未来もそう遠くないんだろうなぁ、と秋は複雑な心境になってしまったのだった。
▪︎
ひょろっちかった爽やかイケメンくんが、ガッチリ体型の坊主の髭ズラになって再登場。
追っ掛けの女子たちは余りの衝撃で黙り込んでしまっていたが、逆に子供受けは良かったらしい。
ジャリプロ桜庭の変貌にはかなり驚いたが、秋はどちらかと言えば変貌後の桜庭の方がカッコいいと感想を述べていた。
「ひゃあ!混んでるね!」
混雑するバス乗り場に着いた栗田の第一声である。
泥門デビルバッツと網野サイボーグスはこれから第二会場に移動し、試合が行われる予定だ。
開会式後にまとめて移動している為、第二会場向けのバスは大変混雑していた。さながら民族大移動である。
どうしたもんかと泥門デビルバッツの面々が顔を見合わせていると、地図が載ったタイムテーブルを見ていた雪光が言った。
「どうしてもバスって距離でもないですけどね…」
「なら行こうぜ!体あっためがてら走った方がいいっスよ!」
「えー!走んのー!?」
雪光の発言に、モン太がノリノリでそんな提案をしたので秋が不満を口にした。
しかし意外と皆乗り気だった為に、彼女も泣く泣く彼らの後を駆け足で追い掛けるしかなかった。
▪︎
「何やってんだあの糞チビ共!!!」
セナと瀧が第二会場へ向かう道中で逸れてしまった。
2人がいない!と話し合いをする中、あとアイシールドくん、と補足するまもりには全員が微妙な顔をするしかなかった。
開会式では携帯の電源をオフにする様に言われてた為、電話も繋がらない状況だ。
「やっぱりだ…!あの大凶のおみくじ当たってたんだ〜…!」
「大丈夫ですよ栗田先輩!自分達が流石に迷子だって自覚してすぐ電話して来ますって!」
すっかり青ざめた顔で、栗田がそう溢したので秋がそれを元気付けようと携帯を彼に見せ付けてそう呼び掛ける。しかし栗田のネガティブな思考はそう簡単に変わらない。大凶のおみくじ効果がかなり効いてしまっている様だ。
兎に角セナと瀧の行方は、彼らと連絡が取れない限りわからない。
その為秋がセナへ、そして鈴音が瀧へ電話を掛け続ける事になった。