02
「あ、やーっと繋がった!セナ、今ど…」
「糞チビ!てめぇ!何処いやがる!!」
何十回目かの発信でやっとセナが電話に出た為、歓喜して話し始めた秋の手から乱暴に携帯を取り上げたヒル魔は電話口へ荒々しくそう言い放った。
セナから現在の居所を聞き出したヒル魔は、今し方取り上げた携帯を秋へポイと投げて返した。彼女はわたわたしながら携帯を受け取るとそれを耳に再び当てがった。
「あ、セナ?今何処いんの?」
『え…えーっと…!バス間違えて長野ツアーのに乗っちゃって…!』
「マジで!?めっちゃいいな!まぁヒル魔先輩がなんかすると思うから、頑張って会場着いてね!」
『本ッ当にすみません!賊学の人が迎えに来てくれるみたいなんだけど…ッ、み、皆んなにも伝えといて下さい…!!』
「OK!でも焦って怪我でもしたら殺されるからねー!」
秋が小さな悲鳴を上げたセナとの電話を切ると、丁度ヒル魔も誰かへの電話を終わらせた様だった。
「賊学バイクで迎えに行かせたが…まぁ試合開始にゃ間に合わねーな」
「ええええ!!」
長野ツアーのバスからは下車したらしいが、賊学バイクが迎えに行って戻って来ると考えるとかなり時間は掛かるだろう。
セナが間に合わないと聞くと栗田を筆頭にモン太や大吉、石丸が悲鳴の様な声を上げた。
しかしヒル魔はこんな時でも通常運行である。
「いねぇって情報与えるこたぁねぇ」
「ウワァ無理ありすぎ…」
アイシールド21を模した風船をベンチにセッティングし始めたヒル魔だが、あまりにもフワフワしていて不自然である。網野サイボーグスの連中がこれをアイシールド21だと勘違いしてくれる様なアホ揃いであって欲しい。
「そんなぁ!網野相手にどうするの!?」
「ビクつくな糞デブ!アイシールド抜きの攻撃パターンもある!」
スタミナ温存でベンチで休む時もあればケガで退場もあり得る。常にフルメンバーで試合を行える訳ではないのだ。
「その瞬間に負け決定か?そんなんでトーナメント勝ち上がれるわけねーだろ!」
ヒル魔のごもっともな言葉に、栗田も漸く納得した様だった。確かに、と吃りながらも彼は頷いた。
泥門デビルバッツはデス・マーチを完走したのだ。アイシールド21が居なくても大会荒らしの網野サイボーグスと戦える筈だ。
すると網野サイボーグスの観客席が、ナース服を模した姿のチアリーダーが登場した為ドッと沸いた。
「さぁー!皆さん!一緒に網野サイボーグスを応援しましょう!」
折角栗田のビクつきがやっと収まって来たというのに、ここまで盛り上がられてしまうと流石の泥門デビルバッツ側もアウェイを感じてしまう。
「盛り上がってますね…」
「チキショー!負けてんなよ泥門生!!」
網野サイボーグス側の応援席の盛り上がり様に少々気負けしている様子の雪光、そして泥門側の応援席へ圧を飛ばすモン太の姿を認識すると、妙なテンションの秋が声を上げた。
「甘いな網野サイボーグス!そっちのチアには色気が足らんぞ!!」
「秋、何言って…」
ビシリ!と網野サイボーグスのチアリーダー達へ人差し指を向けて言い放った秋に、不思議そうな顔をしてモン太が問い掛けたところで言葉を止めた。
ドン!ドドン!!という爆音に妨げられたからだ。
「やーーー!!」
派手な爆音や紙吹雪と共に泥門デビルバッツチアリーダーが登場した。泥門らしいド派手な演出で現れた赤と黒を貴重とした衣装に身を包んだボンキュッボンのチアガール達。
「どこからあんなにチアリーダー集めたの??」
「アメリカで調達」
どうやら鈴音以外のチアガール達はヒル魔がアメリカで勧誘した女子たちらしい。
明らかにほぼ外国人で構成されている為か、キャプテンである筈の悪い意味で鈴音が浮いていた。
「ほら!こっち、負けてないよー!!」
キャプテンがいまいち色気が無い、という心無い声が客席からチラホラと聞こえて来た事に気付くと、鈴音は躊躇いなくその客らへ手に持っていたボンボンを投げ付けた。
▪︎
「チャンスだ」
観客の声援が響き渡る中、十文字が言った。
「アイシールド21が来るまで…。あんだけ特訓した、俺らの力証明するチャンスだ」
十文字が力強く言い放つと、それを受け少々驚いた風な反応を見せた黒木と戸叶が口角を上げた。
「…ハッ!」
「すっかり俺ら、スポーツマンになっちまってまぁ…」
黒木が言った様に、彼らは4ヶ月前まで素行の悪い不良であった。
それが何の因果かアメフト部へ入部する運びになり、ましてやデス・マーチでアメリカ横断まで成し遂げてしまった。
呆れや照れ混じりに自身の変化に苦笑していた三兄弟は視線を合わせると、互いに拳をぶつけ合い気合を入れた。
その様子を横目で見ていた秋は、コソコソと三兄弟の元へ近寄ると彼らの腕をベシベシベシとしっかり叩いてみせた。
「イッテェな!なんだよ!」
「ただの気合い入れ!」
「お前な…。試合前に叩くなよ」
「ヒル魔の受け売りか」
「じゃあ頑張ってよー!スポーツマンたち!」
文句を垂れる三兄弟を華麗にスルーし、通り魔の様な気合い入れ終えた秋はベンチへ着座し網野サイボーグスの選手らへ視線を向かわせた。
『いよいよ始まります、全国高校アメフト選手権一回戦!泥門デビルバッツvs網野サイボーグス!』
網野サイボーグス3年の胸肩厚、名前の通りボディービルダーの様な肉体を持っている。それはもう18歳とは思えない程だ。
170センチ未満の選手もいるが、全体的に網野サイボーグスの選手は体格が良い。だがその肉体は人工的過ぎて謎の不気味さもあった。
「網野、なんかあんまり好かないんですよねー」
網野サイボーグスの選手たちへ視線を未だ向けながら秋が一人ゴチると、ベンチに腰掛けていたどぶろくがそれに返した。
「そりゃあな。毎年違うスポーツで優勝取りに行ってる大会荒らしだ。注目度はあれど、俺からしても好意的には見れねぇ輩だ」
「まぁ、そーいうのもありますけど。人工的に作られた筋肉って感じで、あんまそそられないんですよねー」
秋のその発言を聞いたどぶろくは思わず彼女の顔を凝視してしまった。彼だけでなくまもり、鈴音、雪光までもが思わず秋へ視線を向ける。
しかし彼女はそれに気付いておらずツラツラと喋り続けた。
「やっぱ膨らましただけじゃ、鍛え上げたホンモノの筋肉には勝てませんからね!」
帰国してここ数日、偵察等のマネージャー業を率先して行っていた秋には少々の変化が起きていた。
アメフトには未だハマってはいないものの、各校の選手たちの情報を記憶しまくっていた彼女は違う方面にハマり始めていたのだ。
「例を挙げるなら王城の大田原先輩!あの筋肉は見れば見る程スッゴイですよ!」
王城いる時もっと記憶しとけば良かったー!と興奮気味に語る加賀秋は、通称"筋肉フェチ"と呼ばれるフェティシズムを発症させていたのだった。