03
『青柳くん、黒木くんのブロックを軽々とブチ破り泥門のパスを投げる前に撃破だーッ!』
数分前に気合を入れていた泥門ライン組。否、ハァハァ三兄弟がメインで網野のラインである青柳に軽々と抜かれてしまった。
尻餅を付いていた黒木が、会場中に響き渡ったアナウンスを聞くと奇声を発してキレ散らかした。が、ベンチ側にもブチギレている者がいた。
「何やってんだこの糞ラインー!!」
ベンチから立ち上がり怒声を上げる秋。相変わらず試合中は何処ぞの悪魔の様な口調で選手たちへ罵声を浴びせるので、まもりも頭を抱えるしか無い。
そんなマネージャーズの言動を横で見ていたどぶろくは少々面食らっていた。
中学の頃アメフト部の試合に付き合わされていた秋は、助っ人がミスをしても心底どうでも良さそうだったからだ。
アメリカ横断中に秋のやる気が芽生え始めている事には気付いていたが、あの彼女が試合中にこんなに感情的になるとは少々感極まってしまう。そうそれはまるで父性。
『まさに作られたサイボーグボディー!』
『はい。ボクが取材した時も物凄い"マシーン"を感じました。』
青柳に押し負けた黒木を嘲笑した大吉にキレ散らかし乱闘をし始めた三兄弟。そして栗田がそれに身体ごとのし掛かりフィニッシュ、というお決まりパターンを行っている間にそんなアナウンスが入った。
網野サイボーグス。名前の通りサイボーグである。
くたばれ愚民共!なんて暴言を泥門へ吐き出す青柳に近寄ると胸肩は得意気に彼へ声を掛けた。
「数字通りだな。網野の筋力の敵ではない」
「いやいや胸肩さん、計算外でしたよ」
胸肩から視線を三兄弟へ向かわせると、青柳は彼らを煽る様に言い放った。
「泥門ラインの連中…こんなに弱いとは思いませんでしたァー!!」
スポーツマンシップとやらは何処へ。
煽り耐性の無い三兄弟は見事に喰らってしまった様だ。
デス・マーチで強くなった!という実感があるのに網野ラインに勝てない事に頭が追い付いていない為か、ハァハァ三兄弟という名の由来であるいつものアレも出せない程ブチギレている。
そして煽り耐性の無いマネージャーもブチギレていた。
「なんだあのキモヲタ!ちょっと、どぶろく先生!ライン組どうにかしてくださいよ!!」
ベンチに座るどぶろくの両肩を掴みぐわんぐわんと揺らしながら秋が憤るが、次の攻撃が始まってしまった。
結果は変わらず、泥門ラインは網野ラインに即押し負けすぐに尻餅を付いてしまった。
「あー!もう!何やってんのアイツら!」
その様子を秋に揺らされながら見ていたどぶろくが何かに気付いた様にふと呟いた。
「…あいつら大会初めてか」
「え?えぇっと、栗田くん以外は初めてですね」
「初めての大会で変に気合い入ってんのか知らないけど、動きグッチャグチャですよ!」
どぶろくの呟きに、彼の隣に座っていたまもりが答えると秋が今度は頭を掻きむしりながら悲痛な声を上げた。
そう。秋が言った通り、泥門ライン組は頭に血が上り過ぎていてデス・マーチで習得したブロックが出来ていないのである。
フゥ、と困った様に軽くため息を吐き出すとどぶろくは静かに立ち上がった。
「こりゃ、言葉で説明しても無駄だな」
どーするんですか!と間髪入れずに尋ねて来た秋に意味深な笑みだけ浮かべると、どぶろくは返答せずに何処かへ歩いて行ってしまった。
そんなどぶろくの背中に何処行くんですかー!と秋が尋ね、そしてまもりたちは不思議そうに顔を見合わせていると、フィールド上からヒル魔の怒声が聞こえて来た。
「この糞ライン共!さっきからブロック1秒も保ってねぇじゃねえか!」
ヒル魔にズババババと地面を蹴りまくられ砂を掛けられる栗田や大吉を気遣ってか、それともシンプルに不満を抱いているのか泥門の悪魔に歯向かう者が現れた。
「んな事言ったってボクは観に来ただけなのに、いきなり引っ張り出されて…ほらボクって運動30分しかもたないじゃないスか…」
「「「いや誰だよお前…」」」
それは泥門相撲部の臨時助っ人の重左武太。
ラインの人数合わせで観客席から引っ張り出された泥門生であった。
▪︎
「タッチダーゥン!!」
結局その後泥門ライン組は網野ラインを止める事が出来ず、タッチダウンを先に取られてしまった。
ベンチから秋の怒声が響き渡るが、顔を真っ赤にして憤怒する三兄弟にはその声が届かない。頭に血が上りまくっているせいで周りが見えていないのだ。
ベンチに座る雪光は顔を青くし、まもりは心配そうにフィールドを見詰め、そして秋は頭を抱えていた。
「ど…どうしましょう…!」
「何やってんのアイツら…!そんでどぶろく先生は何処行っ…」
どぶろくが立ち去って行った方角へ顔を向け、そこまで言い掛けた秋が言葉を詰まらせた。加えて彼女は自分の目を疑った。
何故ならフィールド上をどぶろくの軽トラが走っていたからだ。
え!?と彼女が悲鳴の様な声を上げると同時に、どぶろくの運転する軽トラは胸肩や青柳の目の前に急停車した。
これにはフィールド上どころか開場中の全員が驚愕した。
「大丈夫なのそれ!!」
「ハァアァ!?」
「…なんだ?」
仰天する秋や黒木たちとは反対に、ヒル魔のお陰でこういった奇想天外に慣れているのか十文字は眉を顰めただけだった。
泥門ライン組の空回りを何とかすべくとんでもない行動に出たどぶろくは、運転席から彼らを呼んだ。
「おい、ライン組!」
どぶろくはぶっきらぼうに指摘した。
5名共やる気が空回りし、大股で踏み出しているせいでバランスがガタガタになっていることを。
「体で思い出せ。デス・マーチの時、腕の力だけでトラック押してたか?大股でグングン踏み込んだか?」
どぶろくの言葉を聞いたライン組はデス・マーチでトラックを押したあの1ヶ月を思い出す為、この試合が始まってから初めて頭を動かしたのだった。