04
"歩幅は小刻みに、姿勢は低く、そして尻を突き出す"
現在8対0で網野に先手を取られてしまっている泥門。キックオフを終え次の攻撃が始まるのだが、SET中の泥門ライン組の様子が先程と全く違う物となっていた。
軽トラを乱入させるというどぶろくの荒療治が、怒りと焦りで頭がいっぱいになっていた彼らの熱を取り除き冷静にさせたのだ。
「ケツを爆発させろ!全身でぶちかませっ!!」
しゃがんだ状態から一気に股関節を伸ばし相手を押し上げる。ヒップ・エクスプロービョンというアメフトの基礎動作である。
ゲームが始まった途端、今までの試合の流れが変わった。
「!!」
「っしゃ!」
黒木が青柳を張り倒したのだ。思わず秋も拳を握り締める。
泥門ラインがついに網野の壁をブチ破ったのだ。
「おりゃあああ!!」
「見たかこのメガネ!!」
栗田と大吉は普通に喜び、そして三兄弟は尻餅を付いた青柳を煽り返すかの様な発言と共に3名で拳を合わせた。青柳は勿論、彼らにもスポーツマンシップは無い。
尻餅を付く青柳の肩をポンと叩き、うっかり手を抜いたなと胸肩は言っていたが、そう言われた彼は信じられないと目を見開いていた。
胸肩は手を抜いた等と言っていたが、青柳はその後も大吉に横から飛びつかれ倒され、十文字に不良殺法を受けブロックを妨害された。
「ナゼだァアァア!!?」
そしてブチギレた。
「見ィろ!この筋肉!負けるはずないんだ泥門如きに…!!」
自身の前腕部に力を入れ、青柳は眼を血走らせて悲痛な声を上げる。
青柳卓は網野高校に入学するまで痩せ細った貧弱な身体をしていた。
それが網野高校に入学し、スポーツ医学によりアメフトラインマンとして肉体を強化したのだ。
彼は網野のスポーツ医学は絶対だ、と絶対的に信頼していたのだ。
それなのに何故自分より筋肉の小さい泥門ラインに通用しなくなってしまったのか。それが心底理解できないのだ。
「ちゃんと週2回ジムで鍛えたんだ!栄養剤だってあんなに飲んだ!数字で勝ってるじゃないか!僕らエリートがこんな愚民どもに…ッ」
「エリートさんよ」
頭脳の差、筋肉の差は圧倒的なのに。何故なのだと理解が追いつかず声を荒げる青柳へ十文字が声を掛けると、彼の喚きはピタリと止まった。
跪き唖然と三兄弟を見上げた青柳へ、十文字は続けた。
「確かに俺らは能率の悪いバカだ。網野みたく試験管で培養した立派なガタイじゃねぇや」
そう言うと十文字はフゥ、と息を軽く吐き出した。
「でもお前ら。どぶろくみてぇなバカの時代遅れのスパルタ特訓で、トラック押しながら40日間歩けるか?」
「……!?」
十文字がどぶろくに意識を向けその言葉を吐いたのだ。その僅かで細微な言動に気付いた秋は、同じくそれに気付いたらしく横で口角を上げるトレーナーの脇腹を肘でつついた。
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その後は着々と泥門の攻撃が続き無事タッチダウン。その後のボーナスもしっかり取り同点に追い付いた。
格下だと舐めていた泥門にしっかりと押され始めた現状に、感情が無さそうなマシーンガイと周囲から認識されていた胸肩が鼻水を垂らし、そして網野サイボーグスはタイムアウトを取る事となった。
前評判を覆し網野サイボーグスのラインを圧倒した事にご機嫌を取り戻したヒル魔が、栗田以外のライン組の尻をゲシゲシと蹴り散らかす。
「イ…ッ!」
「ハァアアア!?」
「黙ってキックは!」
「褒めてる時!」
初めての事でシンプルな暴力だと認知し反応した三兄弟たちに、モン太と栗田が補足した。
昔からヒル魔の言動は分かりにくい様で、慣れれば分かりやすい。
その様子を優しく見守っていたまもりがどぶろくへ顔を向けた。
「どぶろく先生がトレーナーでいてくれて、ホントに良かった…」
まもりの言葉にどぶろくや秋が彼女へ視線を向けた。
「ヒル魔くん1人じゃ大変過ぎて試合中のアドバイスなんて、ああやって蹴ったり怒鳴ったりだけになっちゃうし…」
「…そうだな。奴ぁ1人で背負い過ぎだ。もう2人や3人のデビルバッツじゃねぇ。そろそろ仲間ァ頼ってもいい頃だ」
どぶろくも、昔からヒル魔の主将としての立場を気に掛けていたのだろう。中学の頃から栗田は彼に頼りっぱなし、ムサシはいなくなり、秋は兎に角手が掛かる。
ヒル魔の家庭環境は不明だが、ごく普通の家庭ではないだろう。その為か彼は人前で決して弱音を吐かない。誰にも頼らず、1人で抱え込む。
信頼している筈の栗田にもムサシにも本音を出さないし、ヒル魔の心境をある程度認知している秋にも決して曝け出さない。
ヒル魔へ視線を向けていたどぶろくは隣に座っていた秋の頭を軽く小突くと口角を上げた。
「まぁ。やっとやる気出したコイツだけじゃ不安しかねぇからな」
「なんですかもー。頑張ってんのに!」
「まも姐ちゃんも色々サポートしてやってくれや。奴の彼女として」
「はい…」
瞬間、秋と鈴音がまもりへバッと振り返った。そしてその殆ど同じタイミングでまもりの持っていたボールペンがバキッ!と音を立てて粉砕した。
その表情は女神と称される女子がするモノではなかった。
過去最高に崩れた表情を顔に貼り付けたまもりが、今のどぶろくの発言を訂正した。
「"マネージャーとして"頑張ります…!!」
「ん?何だ、俺ぁてっきり…」
「なになに!楽しそう!何の話!?」
「続けましょー!続けましょーこの話!!」
「2人とも!や・め・て!」
鈴音の恋バナ好きセンサーと秋の野次馬パパラッチが作動したのを察知し、未だ崩れたままの表情のマネージャー姉崎まもりはこの"アリエナイ"話を強制終了させた。