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網野戦の翌日、秋はしゃりしゃりと長野産のリンゴを噛み締めながら私立夕陽高等学校に向かっていた。
このリンゴは網野サイボーグスと泥門デビルバッツの面々が試合をしている真っ只中に、何故か長野へ旅立ってしまった瀧からのお土産である。
万年金欠の為基本貰える物は遠慮無く貰う女なので、部室に転がっていたリンゴを幾つか鞄にぶち込んで来たのだ。
夕陽高校の最寄駅からしてなんだか昭和感のあるノスタルジックな雰囲気である為、秋が歩きながらリンゴを齧っていてもあまり違和感がない。
キョロキョロと辺りを見渡しながら彼女は独り言を吐き出した。
「なんか全体的に昭和感あるなー」
泥門のマネージャーとして次に戦う相手である夕陽ガッツの偵察にやって来た訳だが、果たして意味があるのか。
夕陽ガッツ。部員数15名という、泥門デビルバッツと殆ど変わらない人数で成り立っているアメフト部だ。
野球部やバレー部の話はよく聞く強豪校だがアメフト部の話はあまり聞かないし、態々偵察に行かなくてもいいのではないか?と秋は考えていた。
「何アレやばー!」
私立夕陽高等学校の校門の前に到着すると一際目を引く銅像があった。
二宮金次郎像を模した物だろうが、あからさまに背中に背負った物質量が違う。大量の薪を背中に背負い暑苦しい表情をした"根性"と描かれた銅像が校門にデデンと鎮座しているのだ。
チーム名やチームマスコットからしても何となくわかってはいたが、どうやら全体的に"ど根性"をモットーに動いている学校なのだろう。
しかしアメフト部の練習を偵察してみると全体的にバランスは整っているがパッとした選手がいない、という印象であった。
ちなみに、マネージャーの紺上も選手たちと同じメニューで訓練している事に秋は若干引いた。
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一方で泥門デビルバッツの次の課題は瀧夏彦の中途入学問題であった。
秋が夕陽ガッツの偵察を終え泥門に戻って来ると、グラウンドにいたのはどぶろくとライン組のみだった。
「おう、遅かったな。偵察どうだった?」
「ただいまでーす。なんか簡単に言うと暑苦しかったですね。あたしは嫌いじゃないけど。他のみんなは?」
ガシャーンガシャーンとライン組がブロッキングスレッドに突撃する音が響くグラウンドで、秋はどぶろくに尋ねた。
「まも姐ちゃんと雪光は瀧に授業教えてる最中だが…セナたちは知らんな」
どうやらヒル魔が不在な為セナとモン太は自由に行動しているらしい。が、何故ライン組だけが練習中なのかは誰のせいなのかすぐにわかった。
「秋ちゃん、おかえり!偵察ありがとう!」
「フゴ!」
「栗田先輩、大吉ー!ただいまー!!」
ブロッキングスレッドから離れた栗田と大吉が秋の元へ歩み寄って来た。それに笑顔で返答しながら秋は考えた。
きっと、瀧くんが頑張ってる間に僕らも練習しようよ!とか栗田が言い出して、大吉が賛同したのだろう。そして2名がやると言い出したらどぶろくが放っておく訳もなく、三兄弟は練習するハメになったのだろうな、と彼女は推測した。
秋が戻った為一旦練習が止まった事で、黒木の表情が朗らかになったのでこの推測は殆ど合っているのだろう。
「ヒル魔先輩は?」
「偵察の報告?うーん…僕も知らないんだよね…」
「瀧のテスト範囲でも調べてんですかね。まぁ明日でも大丈夫ですけど」
今し方仕入れたばかりの夕陽ガッツの情報を報告したかったのだが、いないのなら仕方がない。
ヒル魔もいないし秋も帰って来たし、セナもモン太もどこに居るのかわからないし、という事でライン組の練習は終了する事になった。
「お前帰って来んの遅ぇよ…!」
帰り支度を始めたライン組とどぶろくの目を盗み、黒木が秋へコソコソとそんな悪態をついた。
苛立ちを隠す気のない黒木の表情に秋は目を泳がせた。彼女が予定よりも遅く泥門に帰って来たのには理由があったからだ。
「な、なんで。別に何時に帰るとか言ってないじゃん」
「おっさんが言ってた予想の時間より1時間も遅れてんだよ。お前が全然帰って来ねーから練習が伸びただろーが…!」
「そんなのあたしのせいじゃないし!」
「お前が帰って来たら終わらすって話だったんだよ!」
そもそもライン組だけが練習しているだなんて秋は知らないし、なんだったらいつもの部活はもっと遅い時間までやっているのだからこんなに文句を言われる筋合いは無い。
と、強く言ってやりたい気持ちはあるが、しっかりと寄り道をして帰りが遅くなった秋はあまり強く出れなかった。
夕陽高校の近辺にある昭和レトロな駄菓子屋西日で遊び散らかした事実がある以上、今下手な事を言ってしまえば後々何を言われるかわかったもんじゃないからだ。
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そして運命の中途入学試験日当日。
あのほとばしるほどのバカがテストだなんて落ちる一択でしかないだろうと考えていた秋や三兄弟だったが、なんと雪光が一役買ったらしい。
どうやら瀧は九九も出来ない程の根本的バカであるが、何故かアメフト関連に結び付ければ勉強ができる様になるのだとか。
そんなバカな、と思い実際にアメフト関連の計算問題を雪光が瀧に出題すると、なんと彼は爆速で回答したのだ。
「えーー中途入学試験。5教科500点満点で、200点が合格ラインと思ってください」
というわけで、中途入学試験で使う教室にはヒル魔以外のアメフト部部員が揃っていた。
なんだったら教室の外からは泥門デビルバッツのチアガール達がポンポンを持って応援しているし、教師もこんな試験初めての経験であろう。
教師は意味不明な現状に戸惑いながら、恐る恐る尋ねた。
「…そろそろ始めても良いかな…??」
「待って!あと10分あります!」
「ギリギリまで覚えさせんスから!」
どうやらセナとモン太も瀧の勉強に付き合っていたらしい。
摩訶不思議な現状にあの瀧ですら戸惑っている様子であったが、雪光は淡々とテスト問題をアメフトに置き換えて説明していた。
「栗田くんをセンターとすると、黒木くんのところの角度は…」
果たして天下一品のバカ、瀧夏彦は中途入学試験に合格し泥門デビルバッツの選手入り出来るのであろうか。
必死に瀧の頭に知識をぶち込んでいる雪光たちを横目で観察しながら、秋は落ちてもヒル魔が何とかしそうだなぁなんて野暮な事を考えた。