02
手渡された生徒手帳を震える手で受け取ると、同じ様に震えた声で瀧が言葉を発した。
「ついにこのボクが…高校生…!!」
瀧本人の実力で合格したのか、はたまたヒル魔が脅迫手帳を使用したのかは不明であるが、瀧は中途入学試験をクリアし無事泥門高校の生徒になれたのだ。
さっきまで震えてた癖に、瀧はいつも通りのテンションに戻ってクルクルと回り始めた。
「アハーハー!みんな協力ありがとう!!」
心底嬉しそうに上機嫌でポージングを取る瀧の後ろで栗田と鈴音が彼を祝して紙吹雪をピラピラ振り撒いていた。
鈴音もなんだかんだ言って兄の事を心配していたので、本心は嬉しいのだろう。
だがなんだか素直に喜べない者たちもいた。
「なんかこいつの礼はバカにされてる気がするな」
「黒木何もしてないじゃん」
「…ちょっとは付き合ったろーが」
怪訝な表情を浮かべる三兄弟、そしてセナすらもちょっと引いている状況で黒木が毒を吐いたのでとある理由で少々苛立ちを内に秘めていた秋も毒を吐いてみた。
実際瀧の勉強に積極的に力を貸したのは雪光とまもり、そしてセナとモン太である。黒木らは問題をアメフト関連に変換する為に導入され突っ立ってただけである。
無事泥門デビルバッツのタイトエンドという立場を勝ち取った瀧。ならば2回戦に向けて早速ミーティングである。
「よーし2回戦!夕陽ガッツ戦のミーティングだ!!」
ドン、とヒル魔が大量の資料をテーブルの上に叩きつける様に置いたので、一同は自ずとその資料へ視線を向けた。
「またすげぇ資料だな…」
今回の資料はやけに多かった為戸叶が微妙な表情を浮かべてそれに手を伸ばした。
先程と同じとある理由でヒル魔に激怒されたお陰で夕陽ガッツの選手一人ひとりの情報等の偵察内容を事細かくまとめさせられた秋が、ゲッソリした様子でボソリと呟く。
「…大変だった」
いつも無駄に元気な秋がなんだかやけにゲッソリしてるなとは思っていたが、この業務をやらされていたのだと内心気の毒がりながら、セナは資料をペラペラ捲った。
「夕陽ガッツって、どのくらい強いんですか?」
「月刊アメフトにはDランクって書いてあるけどな」
セナの疑問に答える様に、モン太が同じ様に資料の一冊である月刊アメフトのトーナメント表ページに記載された夕陽ガッツの評価を読み上げた。
ちなみに泥門デビルバッツのランクはCである。太陽スフィンクスと引き分け、NASAエイリアンズには1点差。この事から所謂ダークホースの様な扱いだ。
「瀧が加わった今、客観的に見て泥門の勝率は99%ってとこだな」
「おおおおお!!」
ヒル魔の発した勝率を聞くと一同は思わず歓声を上げた。
「良かった〜〜!」
「初めて格下相手か」
「余裕じゃん!」
セナや十文字、モン太が口々に感想を述べる中秋は神妙な面持ちを浮かべていた。
それもその筈、今朝この話題で散々ヒル魔に激怒されたからだ。
一気に緊張が解けて朗らかな雰囲気になった一同に、ヒル魔は静かに告げた。
「1%、負けるんだぞ」
決してヒル魔は100%でなければ慢心などしない。強敵相手にも1%でも可能性があるなら喰らい付く男だ。
限り無く100%に近いだけで勝率は100%ではない。たった1%だとしても夕陽ガッツに敗北すれば泥門デビルバッツの秋大会は終わる。
誰も次の試合で何が起きるかわからないのだから。
▪︎
「まだメール来てんのかよ」
その日の放課後。
三兄弟と並んで帰路に就く秋は険しい顔をして携帯の液晶画面と睨めっこしていた。
この絵面はここ数ヶ月で何度も見ていた為、三兄弟は彼女が何をしているのかすぐにわかった。
未だ続くNASAエイリアンズのホーマーからの求愛メールである。もうエイリアンズの偵察をヒル魔から指示されていない為こんなに毎度律儀に返事をしなくていいのだが、無視するのは中々心に来るものがある。
呆れた様子の黒木に、秋は険しいままの表情で返答した。
「どこから情報掴んでんのか知らないんだけど、1回戦突破おめでとーって」
液晶画面を埋め尽くす英文を見せられた黒木と戸叶は目がチカチカする思いをした。
十文字はなんとか読み解こうと目を細めたが、彼が英文を解読する前に秋がワットとのツーショット写真にスクロールしてしまった。
「もっと文章あるだろ」
「まだ翻訳中。あとこの写真」
「意味深だな」
「どんな意味だよ」
戸叶の発言に黒木が軽く突っ込むと、彼はカッカッカッといつもの調子で軽く笑った。
まぁついでにパンサーの動きなども知れたら、という言い訳を胸にこうして液晶画面と睨めっこする日々なのだ。
そんな秋に対して、十文字が言った。
「お前、あんなに嫌がってた癖に意外と真面目だな」
エイリアンズとの試合前はデートは嫌だ!と散々喚いていた癖に、メールは頭を悩ませつつ返事している。
十文字から見た秋の性格上のイメージだが、ホーマーからのメールは3回に1回くらい返事して適当にあしらっていそうだ。
故に、こんなに毎度毎度顰めっ面で時間を割いているのが意外だったのだ。
十文字の言葉に秋は液晶画面から目を離すと拳を握り締めた。
「しょーがないじゃん!こーいう感情向けられるの初めてだからどーしたらいいかわかんないの!」
心からの叫びだろう。
自分たちも恋愛うんたらのイロハはわからない為、三兄弟は何も言えなくなった。