03

そして2回戦当日。

「今日はまた、すごい人ですね…!」

試合会場前に着くと辺りをキョロキョロ見渡しながらセナがそう呟いた。
逆シードではない殆どの高校にとっては今日が初戦という事になる。今日は前回から勝ち上がった残り32チームが一斉に戦う為、会場に向かう公共交通機関は人がごった返していたのだ。

「お客も多い筈だよ。この会場だけで今日4試合もあるしね」

会場に入ると、どこか圧倒された様に観客席を見上げた雪光が告げた。
しかもその4試合を行うチームが安定人気の王城、西部、柱谷。そして今お騒がせな泥門なのである。
客席数が要りそうな試合を大会場にまとめたらしい。そりゃあ客数も初戦とは段違いだろう。
泥門デビルバッツvs夕陽ガッツの試合は11時からの第二試合の予定である。
会場の人の多さに泥門が少々ビビり気味な中、一際大きな声が響いた。

「打倒泥門!ガンガン行くよー!!」

それは夕陽ガッツのマネージャーである紺上の声であった。
秋が夕陽高校に偵察へ行った時と同じ様に、紺上は"努力"と書かれた鉢巻を額に巻いていた。良い意味でも悪い意味でも熱苦しい夕陽ガッツの気合い入れを遠くから観察していると、バスケ部助っ人の佐竹が唐突に声を上げた。

「あれは…ッ!!」
「え、佐竹くん何か知ってるの?」

佐竹はどうやら紺上に反応した様で、セナは不思議そうに尋ねたのだが彼がそんな大層な情報を持っている訳がなかった。

「今時ブルマですよ!!」
「なんてことだ!まだそんな桃源郷の様な高校が日本に…!!」

バスケ部助っ人佐竹洋平、サッカー部助っ人山岡健太。彼らは生粋のスケベである。
彼らの魂からの興奮は誰にも理解されなかった。

「キーマンは左端の奴だ」
「また、すげぇナチュラルに無視したな…」

徹底したヒル魔によるスルー。泥門デビルバッツ我らが主将は、夕陽ガッツのとある選手を指差していた。

「夕陽ガッツ主将の熱海。クォーターバックとしての運動能力はまぁ、下の上ってとこだな」
「やっぱそんなもんなのか」

熱海大介。秀でた才能は無いが、責任感の強い熱血漢だ。
ヒル魔の簡潔な説明を聞くと、モン太が野球部に在籍していた頃聞いた噂という物を話し始めた。

「夕陽高校って言やあ、高校野球やバレーとかで有名でよ。アメフト部の夕陽ガッツは熱血軍団で部員は頑張ってんだけど、みんな名門の野球部とか行っちまうからさ、人が集まんなくて弱小って話よ」
「弱小だ?あんま舐めてんじゃねーぞ糞猿」

モン太の話を一通り聞くとヒル魔が怪訝そうな顔をして苦言を呈し、それに続く様にどぶろくが続けた。

「奴ら3年間ずっとアメフトやってんだ。基礎トレの密度ならテメーらも負けてねぇが、3年の経験値を舐めちゃいけねーよ」
「…はい!」

1%負けるんだぞ、と過去ヒル魔に言われた事を再度思い出し、どぶろくの言葉にセナは返事した。
と、セナが密かに気合を入れ直したところでヒル魔が何故かずっと手に持っていたショットガンをさーて、なんて言いながら秋目掛けて投げ付けた。彼女はウギャ!なんて悲鳴を上げた。

「試合前にプレッシャー掛けてみても損はねぇ」
「流石ヒル魔先輩。スポーツマンシップが皆無ですね」

投げ付けられたショットガンをなんとかキャッチし、両手に抱えながらやぶへび発言をした秋はヒル魔にしっかりと睨み付けられて押し黙った。
手ぶらになったヒル魔はそのまま夕陽ガッツ選手らの元へ向かい、いつもよりフレンドリーに熱海へ声を掛けた。

「おぅよろしく!熱海先輩って言ったかな?」

その声色を聞いた泥門メンバー数名は鳥肌が立ったのだが黙っている事にした。
ヒル魔に声を掛けられた熱海は振り返ったのだが、彼は如何にも生真面目そうな男である。

「お互い"人生最後の秋大会"ってわけだ。"負けたらもう死ぬしかない"って土壇場だな!!」

どこ相手でもとことん手抜きせずキンチョーを煽るヒル魔。その様子を後ろから見ていた泥門メンバーはあからさまに表情を引き攣らせてドン引きしていた。
ヒル魔のプレッシャーを掛ける攻撃は更に続く。

「網野戦のビデオ研究して来てんだろうが…悪いがこっちにはプロでスカウトされた男が隠し球でいてな」

プロでスカウトされた男。
その発言に夕陽ガッツの選手たちは堪らず顔を見合わせた。のだが、その渦中の男"瀧夏彦"も堪らず声を上げた。

「アハーハー!僕の事だねっ!!」

ビシッ!と脚を大袈裟に組んで高らかにアピールする瀧に、妹である鈴音は兄を鎖で縛る事を本気で考えずにはいられなくなってしまったのだった。

「…ブラフや心理戦は、デビルバッツ流なんだね」

と、ここで主将の熱海ではなくランニングバックである2年の南風原忍が口を開いた。

「全力でかかってくれて嬉しいよ。…なのに僕らときたら夕陽ガッツ流を見せられもしない…!」
「南風原!!」
「でも熱海さん…!!」
「監督が決めた事だ!もうゴチャゴチャ言うな!」

少々の言い合いの末熱海は南風原を置いてその場を立ち去ってしまった為、彼はその後を追いかけて行った。
何やら部内で意見が分裂しているのか、夕陽ガッツ内で何か問題が起きているのだと誰が見ても明らかだった。
ショットガンを抱えながらその様子を見届けていた秋は、夕陽ガッツのデータを頭の中で振り返ってみた。
やる気や経験値はあるが実力が見合っておらず、他の部活動との実績差が目立っている夕陽ガッツ。熱海の"監督が決めた事だ"という発言も気になる。
秋は自身の野次馬根性がムクムクと肥大するのを実感した。

「えー、気になるー…!」

しかしその野次馬根性は最近ハマっている"推し方"により簡単に上書き保存されてしまったのだった。
そう、第一試合は王城ホワイトナイツvs三閣パンクスの試合なのだ。



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