04

「す…すげぇ…」
「……」

王城ホワイトナイツを応援する客席からの王城コールが鳴り止まない事、そしてその熱量、応援の人数が春大会の時と全く違う事にセナたちは驚嘆していた。

「大田原先輩、今日もいい前腕…!」

そしてここ最近筋肉フェチにより一層磨きの掛かった秋も、大田原の前腕筋を爛々とした眼で記憶していた。
どうやら大田原の太い腕の筋肉にトキメキを感じるらしいのだが、三兄弟は信じられない物を見る眼差しでそんな秋へ視線を向けるのであった。
月刊アメフトへ視線を向けていたまもりに、モン太がスススと近付き尋ねた。

「あの王城の相手の三閣パンクスって強いんスか?」
「Bクラスだって」
「結構すごいんだ」

まもりの返答を聞き感心した風にセナが言った。
月刊アメフトのトーナメントチーム紹介には、三角ラインが強力な太陽の姉妹校と書かれていた。方や王城はAランクである。
するとまもりが何かを思い出した様に、あ!!と突然声を上げたので話に加わっていない泥門メンバーも彼女を思わず振り返った。

「春大会の時ホラ、トレーニング室で見た新聞…!王城に一点差だったとこだ…!!」

春大会では7対6で、三閣パンクスはあの王城ホワイトナイツに一点差だったのだ。
春大会の時にアメフト部に在籍していなかった面々は、少し感心した様に三閣パンクスの選手等へ視線を向けた。
そんな中フィールド近辺では三閣パンクスの角監督が挨拶と称して王城ホワイトナイツの庄司監督へ嫌味を炸裂していた。

「パンク…?」
「怖っ!」

そんな折、鈴音とセナは三閣パンクスの選手等の風貌に意識を向けていた。
パンクスという名前の通り、選手等はヒル魔とは少し違った悪魔の様な派手な風貌であった。タトゥーや無駄に空いたピアス、モヒカンの者までいる。ビビりのセナからすると恐ろしいという印象しかなかった。
が、そんな風貌にしていてもヘルメット被ると意味が無いね、と鈴音は冷静に指摘していた。

「…お前、アイツの何処でテンション上がってんだ?」

双眼鏡持参で思いっ切り身を乗り出して大田原を観察する秋。彼女のその熱量に引き気味な黒木は、呆れた様にそんな質問を投げ掛けた。
途端、秋は双眼鏡から目を離し黒木をグワン!と音が出る程の勢いで振り返った。

「はぁあ!?ラインマンの癖にあの凄さわかんないの!?身長194cm!体重131kg!ベンチプレスは140kg!更にあの巨体で40ヤード走5秒4だよ!そしてあの鍛え上げられた前腕筋!!なんて素晴らしいバランス!最強!これで推さない理由ないでしょ!?」
「お、おう…」

"大田原先輩"を長々と語る秋のあまりの熱量に恐怖すら感じた黒木は、思わず彼女から物理的に距離を取ってしまった。
反射的に打った黒木の相槌を受けると秋はすぐにフィールドへ向き直り、大田原先輩頑張ってー!!と馬鹿デカい黄色い声を上げた。

「さっくらばーー!!」

秋の声援が彼女の口から放たれてすぐ、桜庭へのどデカい声援も観客席から放たれた。
その声が比較的高かった為ファンクラブ指定席に座る女子の物かと思ったが、どうやら桜庭へ声援を送ったのは少年の様だ。
開会式で現れたイメチェン後のジャリプロ桜庭。坊主に髭面。あれのせいで桜庭ファンクラブの指定席はほぼ空席になっていたが、どうやらイメチェン後は子供人気に火が付いたらしい。
ジャリプロ桜庭ファンクラブ指定席の空席具合へチラリと視線を向けると、秋は大田原へすぐ視線を戻して苦言を呈した。

「アレくらいでファン辞めるんだーって感じ。あたしなら大田原先輩の筋肉が萎んでも推し続けるね!」
「お前あんだけ筋肉筋肉言ってた癖に?」
「まぁ大田原先輩の筋肉が萎むなんて事は今後一生アリエナイけどね!」

真っ当な事を言っていそうで言っていない秋のその発言を聞くと、十文字は静かに毒付いた。

「ほとんど宗教だな」
「本当ハマるとキモいなコイツ」
「だな」
「なんとでも言いな!!」

三兄弟の暴言を受けつつも秋はひたすらに双眼鏡の中を覗き込むのだった。
そんな小うるさい三兄弟と秋のやり取り等一切合切スルーヒル魔は、静かに王城ホワイトナイツの選手たちへ視線を向けていた。

「ケケケ」

フィールドを見詰めるヒル魔が笑う。
王城ホワイトナイツは去年よりも弱体化し、"進と守備だけの王城"といった評判になっていた。去年卒業した黄金世代の穴はかなり大きいのだ。

「凋落の王家がどこまで強化して来たか、お手並み拝見と行こうじゃねぇか」


▪︎


「SET!HUT!!」

王城ホワイトナイツvs三閣パンクスの試合がついに始まった。
開始早々ライン同士が激しくぶつかり合うゴゴン!という派手な音が会場中に響き渡った。

「パス壁が…!」
「堅ぇ!!」
「流石ー!大田原先輩流石ー!!」

天才ー!かっこいー!前腕筋ー!と大田原への熱い想いをひたすら吐き出す秋の脳天を、うるせぇ!と黒木が引っ叩いた。
叩かれた秋と叩いた黒木の言い合いが始まってしまうのと、フィールド上でクォーターバック高見がパスを投げ放ったタイミングが丁度一緒であった。

「ひぃ!高っ!!」

セナの悲鳴の様な声が耳に入ると、軽い取っ組み合いになっていた黒木と秋もやっとフィールドへ顔を向けた。
セナの感想通り高見が放ったパスは恐ろしく高い物であった。
高見伊知郎はデータマンであり、その彼が放つパスは正確さがピカイチ。しかし今回高見が放ったボールの軌道は今まで見た事がない程高かった。

「…!!!」

192cmという長身が放ったボールは、同じく長身である186cmの手中に見事収まった。
王城ホワイトナイツの18番、桜庭春人の手中に。

「桜庭アァァ!!??」
「おおおおおお!!」
「うぎゃー!!」
「くそ高ぇえぇええ!!」

桜庭がとんでもない跳躍力で高見の放ったパスを空中でキャッチしたのだ。
今までパッとした活躍を見せなかった桜庭の急成長に、会場中が大騒ぎになった。
そして桜庭ファンクラブ指定席に座る数名の女子は、彼の大活躍に狂喜乱舞であった。

「「きぃあぁあああああ!!」」
「やっぱり!やっぱり桜庭くんカッコイー!!」

"やっぱり桜庭!"という自作したであろう横断幕を持って飛び跳ねるファンクラブの女子たち。1名は起き上がった途端桜庭を視界に入れるや否や気絶してしまったが。
応援している推しが活躍すればそりゃあ嬉しいだろう。
歓声が止まぬ会場の中、栗田が呆気に取られながら口を開いた。

「い、今のパスって…」
「……」
「2メートルは飛んでましたよアレ…!」

口をあんぐりと開け驚愕する栗田と、静かに一点を見詰め何か考えている様子のヒル魔に秋が興奮した面持ちで言った。
桜庭は自分と同じ程の、否、それ以上飛んでいた。
秋が発した2メートルという数字を聞くと、モン太は悔しそうに言葉を漏らした。

「俺じゃどうやっても届かねーな…。あの高さは…」

長身同士のあまりにも高いパス。
熊袋命名であるエベレストパスを対処しなくては王城ホワイトナイツと次ぶつかっても、泥門デビルバッツは苦労するだろう。

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