06

泥門デビルバッツにマネージャーが増えて1週間とちょっと。ほぼ毎日対賊学との強化訓練の補助を行っていた秋であったが、ここまでで彼女の特技であるカメラアイという物を、デビルバッツのメンバーは一度も見たことがなかった。
わざわざヒル魔が転校までさせたのだから相当な能力なのだろうが、今のところ加賀秋の印象は金欠でサボりたい欲が強い問題児でしかない。散々な言われようだがその通りなので致し方がない。

「加賀さんのカメラアイって、どんな物なんですか?」

部活後、帰宅の準備をゲッソリとする秋へ雪光がふと質問を投げ掛けた。
カメラアイ。瞬間的に見た情報を記憶する能力である。
まだ秋が転校して来てまもない為、雪光からすると彼女は何の変哲もない一般の元気な生徒にしか見えていなかった。彼なりに言葉は選んでいる。

「あ、ヒル魔先輩説明してなかったんですか?」
「ええっと、僕が少しだけ説明したんだけど…」
「コイツはあんまわかってねェ」

秋ちゃんが凄いことはわかるよ!ヒル魔の棘の付いた一言に栗田が反論したが、余りわかっていないのは明白であった。
棘だけ吐き出すとヒル魔はパソコンをカタカタさせながらプクーと風船ガムを膨らませてしまったので、説明するのは秋になった。

「んー。簡単に言うとめちゃくちゃ眼がいい、みたいな…」
「確か栗田くんも前にそう言ってたね」
「秋ちゃんからそう聞いてたからね!」

得意気に相槌を打った栗田に秋の顔がにこやかになる。栗田先輩癒しや〜!と朗らかになる彼女へ雪光が更に問い掛ける。

「カメラアイというと、名前の通り場面場面で記憶する感じですか?」
「そんな感じですかね〜。ただ映像としても記憶に無条件で入っちゃいます」
「なるほど。写真としても映像としても脳に記憶されるんですね…」

なるほどを小さく連呼する雪光への印象は、ド真面目であった。
ここで頭悪い代表、と言うには代表を担える逸材が多過ぎて1位になり切れない男が口を開く。

「オイオイ、秋!それってすげぇテストとかで便利じゃねーか!」

バナナ片手に会話に加わって来たのはモン太である。

「フハハ!故の!勉強なんざしたことありませんー!」
「うらやMAX!」
「どうだ!羨ましがれー!」

そのせいでヒル魔の下僕となった女であるが、瞬間記憶能力とキャッチ能力に全て機能が持って行かれている2名はそこに気付いていない様だ。その横でセナは引き攣った笑顔を浮かべていた。
次の疑問が思い付いたのか、雪光がモン太と盛り上がる秋に再び質問を投げ掛ける。

「記憶した物はずっと脳に残るんですか?」
「あー。まぁ、今まで見たの全部すぐ思い出せるけど、あんま思い出したくないのもありますね」

ヘラヘラと笑って言った秋だったが、人間生きていれば思い出したくもない過去だってあるだろう。雪光は自身の興味本位で彼女の思い出したくないであろう記憶がフラッシュバックする危険性を感じ、質問を終えることにした。
小さくすみませんと謝罪を口にした雪光に秋はビックリした様に声をあげた。

「え!なんで謝るんすか!殆どヒル魔先輩から受けた仕打ちですよ!」
「中学の頃からヒル魔、秋ちゃんに容赦なかったもんね…」

関係ない素振りでパソコンをカタカタさせるヒル魔を指差す秋と、ショボショボな微笑みを浮かべて相槌を打つ栗田に雪光は面食らった。あ、そんな感じのノリで大丈夫なんだ!と。

「ひどい事されたらちゃんと言ってね?」
「まもり先輩優しい!」
「ヒル魔くん?秋ちゃん女の子なんだからね!」

泥門デビルバッツの母、まもりがヒル魔に注意するも無視。ちょっと!聞いてる?!彼女の注意はひたすらにスルーされ続けた。
ちょっとひとりで塩らしくなってしまった自分が恥ずかしくなった雪光に、栗田が補足する。

「でも秋ちゃん、色んな事を覚えるだけじゃなくて僕たちの変化にもすぐ気付いてくれるんだ!」
「あ…あぁ、記憶しているから変化にも敏感なんですね!」
「すごい!じゃあマネージャーにピッタリじゃない!」
「そー!そー!人間観察が趣味ですからね!そのおかげであたしヒル魔先輩のハッ」

ダララララ!と部室内に銃声が鳴り響いた為室内全員がピシリと固まった。ヒル魔の手にはいつの間にかマシンガンが握られていた。
すんませぇん…。と力無く謝罪した彼女の声を聞くとヒル魔がようやく口を開いた。

「ベラベラくっちゃべってねェでさっさと帰れ!」

悪魔の、鬼の形相によりこの場はお開きとなった。
ヒル魔先輩のハ。が一体なんだったかわからないが、十中八九ヒル魔が余り公言したくない中学時代の話であろう。部室を追い出された泥門デビルバッツメンバーは、ヒル魔にもそういうのがあるんだ、と謎の親近感が湧いたそうな。


2025/05/21

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