01
6月5日。早朝。加賀秋は部屋に引きこもり、ゲームの全クリを目指した後寝落ち爆睡をキメていた。
月刊アメフトの企画の為に来日するNASAエイリアンズ。と対戦する為の日本代表決定戦が数時間後に南神奈川の県立太陽高校であるというのに。
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『テメー!何処にいやがる!!』
案の定寝坊をした秋の携帯は集合時間の5分前から鬼電で鳴りまくっていた。親にうるさいと叩き起こされ電話に出たら、電話越しでも怒鳴られて寝起きから不機嫌である。不機嫌になる資格はないが、彼女はそういう性質である。
「…寝坊しましたァ」
言いながら欠伸をする。電話越しで血管が切れるブチブチブチィ!という音が聞こえた気がして、それを合図に秋は携帯から耳を遠ざけた。
『さっさと来やがれ!この糞ビンボー!!』
ブチリ、とヒル魔に通話を一方的に切られた秋は暫くぼうっとした。
思い立ったが吉日!と昨晩RPGゲームの全クリを目指したのが凶と出たのだ。意外にも彼女は多趣味であり、ゲームから漫画、小説もそこそこと幅広く手を出している。これが彼女の世渡りの仕方だ。多趣味であれば色んな人間と交流が持てるし、まず友好関係が広がる。友好関係が広まれば自身にとって不利益を被る事は少なくなる。
遅刻という不利益は被ったが。
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しかしながら休日に態々起床して、常に金欠な状態で泥門駅から南神奈川駅に実費とはかなり厳しい。後で徴収しなければ、と不満そうな顔を浮かべつつまもりから送られて来た県立太陽高校への道の詳細を確認しながら秋は電車に揺られた。
不思議なことに南神奈川へ近付けば近付くほど暑さが酷くなり、到着した南神奈川駅はセミが鳴きまくる灼熱の大地となっていた。
「まだ6月なんですけど…」
脳死させてなんとか暑さを誤魔化しながら歩くこと約数十分。泥門デビルバッツ新米マネージャー加賀秋、棒アイス片手に県立太陽高校へ重役到着である。
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「すげー!こんな点数取ってんのはじめて見たー!」
寝坊遅刻をして来た癖に全く悪びれていない様子の秋が泥門チームのベンチへ顔を出すと、ヒル魔のお怒りが下った。
「懐かしいなぁ、試合に遅刻して来る秋ちゃん」
「えぇえ…加賀さんってずっとこんな感じなんですか…?」
怒りのランボーを喰らいながらも必死に謝罪を口にしまくる秋と、それを食い止めようとするまもり。その景色をにこやかに見守る栗田の発言にセナが引き気味に問い掛けた。
「うん。あ、でもヒル魔も秋ちゃんの性格はわかってるから、本気で怒ってる訳じゃないよ!」
「いや、多分絶対きっと本気で怒ってます…」
セナの言葉に栗田はフフフと微笑んでみせる。
仕置き終えたヒル魔は、落ちたアイスを悲し気に見詰める秋に何か一言告げるとさっさと離れて行った。
どうやらヒル魔たちの関係性は自分には全くわかり得ない、不思議で独特なモノなのだろう。セナは深く考えない事にした。それよりも試合に集中だ、と。
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前半終了で13-12。現在太陽スフィンクスに1点差で負けている。
この点数差だとどうやらハァハァ三兄弟、特訓の成果は出たらしい。頑張ったね〜と感心した様に頷く秋へ、まもりが録画していた試合動画を見せてくれた。
「前半、三兄弟くん達頑張ってたのよ!特訓のお陰だね!」
「頑張りましたからねぇ…結果出て貰わないと困りますよぉ…」
「それからアイシールドくんやモン太くんとも連携プレーしてて…!もう、秋ちゃんにも見せたかった!」
まもりの言葉に隣にいる雪光もウンウン頷いて見せた。のだが、このやり取りで秋は妙な違和感を覚える。何故まもりはアイシールド21の事をセナと呼ばないのか?と。
そこで先ほどしばかれた後のヒル魔の一言を思い出す。
"余計な事言わずに前半の録画でも見とけ"
ピーン!と来た。
秋がアイシールド21に勢い良く顔を向けると、彼は驚いた動きを見せた。そうして自身の横で前半戦の説明を嬉しそうにするまもりを、彼女にバレない様に指差し、その指をアイシールド21に向けると彼は意味を察したのかウンウンと必死に頷いた。
「なるほどねぇ!」
「え!」
思わず大きい声で納得してしまい、謎のタイミングで謎の相槌を打つ者になってしまったが、これでヒル魔に再びお仕置きを受ける事はないだろう。
「あ、すんません。あまりにも興奮して!」
「ビックリした〜」
「ここの連携プレーなんかも凄かったですよね!」
雪光の興奮気味の言葉に、すげー!と返す。
アイシールド21という存在は知っていた。ヒル魔から春大会や秋大会に出場するであろう高校の情報は貰っていたのだから、自ずと泥門デビルバッツの情報も目に入るだろう。
情報だけだと脚速いんだ〜、くらいにしか認識していなかったが、姿を見たらすぐわかった。彼女の眼を通せば別に普通であって、それこそ大概の人間関係なんかもすぐ把握できる。
小早川セナがアイシールド21だと言う事が。そして泥門デビルバッツのメンバー殆どがその事実を知らないと言うことも。
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アナウンスと共に後半戦が始まった。
太陽スフィンクスには隠し球があったらしく、コーナーバックに鎌車という浮かれポンチが導入された。自分のことを古代の戦車なのだと必死にアピールしていた鎌車。どうもハイテンションのただのバカに見えるが、彼はきちんとやる事はやる男であった。
「パス失敗!」
戦車バンプ。自身で名付けたのであろう技を繰り出し、鎌車はモン太のキャッチをしっかりと妨害して来たのだ。
身長もほぼ190あり、体重も軽そうだが意外とパワータイプの珍しいコーナーバック。
「バンプってテクニックだ。こっちのパスのタイミングが合わなくなる」
モン太が走り出すと同時に胸を両手でドンと突いて、パスルートの妨げを行うと言う事だ。走って逃げろ、と言いたいところだがモン太にはスピードは無い。悲しい事に泥門デビルバッツは一芸バカの集まり。そんな器用なことができる訳がない。
鎌車の加入で早くも太陽スフィンクスにタッチダウンを許してしまう。その後キックも決められて20-12。8点差を付けられてしまった。
「うちはキック入らないから、同じタッチダウン数だと負けちゃうんですね…」
雪光の言葉にまもりが何かに気付いた様にハッとした。
「そっか…わかった。泥門が攻撃型な理由」
「ヒル魔さんの…好みでしょ…?」
まもりの呟きにセナスタイルで返事をしたアイシールド21にアイコンタクトを送る。さっきあんなに焦ってた癖に墓穴を掘るな、と。ヤバイとセナが思わず口を両手で塞いだ。
「泥門はね、ロースコアゲームだとキック差で負けちゃうのよ」
タッチダウンで6点、そしてキックで1点。
敵さんはタッチダウン1回で7点取るが、泥門はキックは取れないしプレイで2点加点を狙っても確実に取れる訳では無い。と、なるとタッチダウン1回で6点しか取れない率が高い。これが勝敗をかなり左右する。
「でも点の取り合いならキックの点差をタッチダウンの数でカバーできる」
少し考えた末に雪光が確かに、と呟いた。
キックと言えば。秋が思い出したのは泥門デビルバッツのかつてのキッカーだった。