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「ヒミツだぁ!?テメー!偵察すんならもっと情報搾り取りやがれ!!」

偵察から戻った秋が、巨深ポセイドンの隠し球と接触したが情報は回収できなかった事を伝えるとヒル魔は激昂した。

「仲良くなった方がいいかなー!って思ったんですよー!もー!なーんですぐ怒るんですか!」

しかし秋も逆ギレで対応した為、暫くの間泥門デビルバッツの面々は2名の言い合いが終わるのを待つ運びとなった。


▪︎


さて、時刻は15時。第四試合の始まりである。
この後は先程秋が偵察の為に控え室前で話を盗み聞きした柱谷ディアーズvs水町のいる巨深ポセイドンの試合。
しかし何やらテレビクルーも入場シーンに特殊加工を入れるだとか言っているし、実況の真田がツナギに衣装チェンジをしていたりだとか、明らかに会場の雰囲気が違っていた。

「来たぁー!!」

途端、興奮を隠しきれない栗田が柵に体重を任せ意気揚々と飛び跳ねた為、彼の体重を支えきれなかった柵がひしゃげた。儚い運命である。

『いよいよ本日最終ゲーム。やって来ました東の古豪!今日も野太い声援浴びて、背中で語る男の履歴!』

やはり実況の温度差も先程までの試合と違った。これはもはや実況ではない。前口上である。
入場する柱谷ディアーズの選手たちを映すモニターには、カメラクルーが先程話していた特殊加工が差し込まれていた。

『山本鬼兵と!柱谷ディア〜〜〜〜ズ!!』

ザッパーン!!と彼らの背景には波の特殊加工、そして同じく波の効果音。
そして野太い鬼兵コールが観客席から響き渡った。

「「「鬼・兵〜〜!!」」」

なにこの世界。と全く理解していない人々が顔を引き攣らせ、この事態に驚愕していた。
柱谷ディアーズの山本鬼兵は小学生時代から前衛一筋のベテランアメフト選手である。身長167cmと小柄ながら、その技術は関東圏で名を馳せている程の実力者。
何年もラインをやっている者たちから絶大な人気を誇っている有名人なのだ。

「すっごい人気だねー。鬼兵先輩」

柱谷ディアーズのベンチ近辺に出来た長蛇の列を眺めつつ、秋は感心した声を漏らした。どうやらこの列の人物全て鬼兵のファンらしく、皆が皆彼にサインを求めている。
そりゃあこの人気だ。演出も無駄に凝るのも理解できた。

「世界一むさ苦しい行列かもしれねぇな…」

鬼兵のファンは全て男であった。しかもスマートな男はおらず、皆ガタイの良い筋骨隆々な者たちばかりだった。
素直な感想を口にした戸叶に、並んでいるのは全てラインの連中であるとヒル魔が補足した。

「てめーらも。サインはどうだっていいが、鬼兵のライン技術はよく見とけよ。経験値の固まりみてーな奴だ」

ヒル魔の言葉を聞くと、秋は過去見返した鬼兵の試合動画の映像を頭に思い浮かべた。確かに、長年アメフトを続けているからか体格のハンデを感じさせないプレイをしていた。
鬼兵のテクニックを見てもアメフト始めたての三兄弟が今大会中にすぐ覚えられるかはわからないが、まぁ見るに越したことはないか、なんて秋が意外にも真面目な事を考えているその横では瀧によるサイン会が開かれていた。

「アハーハー…アリエナイ…僕の所には一人も来ないってのに…」
「まだサイン会待ってたの!?」

しかしサイン会に来る者はいなかったらしい。そりゃあ長年のアメフト経験からファンが沢山いる鬼兵と今日がデビュー戦の瀧である。しかもほとばしるほどのバカ。比べるのも烏滸がましい。
そうこうしている間に、鬼兵のサイン列に並んでいた栗田の番がやって来た。

「おう栗田」
「はは…はい!」

サラサラと手慣れた様に色紙にサインを描く鬼兵は、緊張でソワソワする栗田にトーナメント表があるかどうか尋ねた。

「俺らが当たるのは次の次。準々決勝で勝負だな」
「鬼兵さんと…勝負…!?」

今からのvs巨深ポセイドンとの試合に勝てば、柱谷ディアーズが次闘うのは賊学カメレオンズか筑付スーパーイーグルス。
そしてそれも倒せば柱谷ディアーズの次の相手は泥門デビルバッツなのだ、と鬼兵は説明した。
が、それは次泥門が闘う毒播スコーピオンズを倒せればの話である。栗田はクネクネしながらネガティヴ発言を繰り出した。

「い、いやでも柱谷はすごい強いからいいけど…!うちはホラ!まだ次の相手を倒せるかどうかが…!」
「倒せるかどうかじゃねーよ、倒すんだよ!」

爆速でヒル魔からの指摘が入る。

「なぁに。緒戦じゃ泥門負けっこねぇよ」

栗田のネガティヴ発言を鬼兵が否認した。
その言葉に表情をパァッと明るくする栗田を視野に入れつつ、鬼兵の言葉選びや表情、風貌が18歳のそれではないなと秋は益々思った。オッサンでしかない。
そんな失礼な考えを持っている者が泥門デビルバッツにいるとはつゆ知らず、鬼兵は言葉を続けた。

「さっきの夕陽戦観て確信した。お前らは強い!」
「おお〜〜〜〜〜!!」
「すげぇ!泥門、鬼兵お墨付きだ!」

鬼兵の言葉にセナとモン太は分かりやすく喜ぶ。あの鬼兵がそんな発言をするもんだから、観客もザワザワと騒がしくなった。
フッと自嘲気味に笑うと、鬼兵は語る。

「俺もなんのかんので今年でもう最終学年よ…。古豪とか言われながらよ、王城黄金世代の前にずっと後一歩で優勝逃して来た…」

柱谷ディアーズは例年、都大会の優勝候補に名を連ねる強豪であった。しかしここ2年は王城の黄金世代を相手に苦戦していたのだ。
鬼兵も今年で3年生。ヒル魔たち同様、今回がクリスマスボウルへの最後の挑戦だ。
静かに語る鬼兵を見物しながら、十文字はポツリと彼への感想を呟いた。

「貫禄がすげぇな」
「アレで高三か」
「男、って感じだよな」
「老けてるよねー」

十文字の感想を聞くと戸叶、黒木も各々の感想の様な相槌を溢し、そして秋も同じく感想の様な相槌を溢した。
しかし彼女の今し方吐いた言葉は三兄弟に賛同されなかったらしい。

「え、なに」

一気に3つの視線を独り占めした秋は不思議そうなリアクションをした。
大田原も老けてるだろ、とは誰も言わなかった。
そんなやり取りを観客席で行っていると、鬼兵は試合の準備の為栗田達に背を向けた。

「俺にとってもこの大会がラストチャンスだ。容赦はしねぇぞ、栗田!」

最初から最後まで抜かりなくシブさ全開の鬼兵の言葉に、栗田ははいぃ!なんて興奮気味に返事をするのだった。


▪︎


第四試合の柱谷ディアーズvs巨深ポセイドン。

『し…試合終了ーー!!』

試合結果は想定外の物となった。
14対31。巨深ポセイドンの圧勝である。
山本鬼兵率いる優勝候補の強豪校がまさかの初戦敗退。

「よーーオッサン!」

全く予期していなかった事態に項垂れる鬼兵に、水町が明るい態度で声を掛けた。

「こりゃ確かに、巨像とアリの戦いだったな!」

ユニフォーム姿の水町は、鬼兵を挑発する様に無情にもそう言い放ったのだった。


20260725

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