02
「そんな恐れ多い事、出来る訳ないでしょ…!!」
声をなるべく抑えながらであったが、悲鳴の様な怒号を浴びせられたモン太は思わずぶったまげた。
そのあまりの必死さに、近くにいた三兄弟もバッと秋を振り返る程であった。
「な…なんだよ急に…」
「急じゃない…!モン太が変な事言うからでしょ…!」
「はぁ?俺、別に変な事なんか言ってねぇだろ?」
あまりにもびっくりしたもんだからモン太はバクバクとする自分の心臓を押さえながら秋に文句を垂れたのだが、文句返しされてしまった。
肉を食しワイワイと賑やかな焼肉ミロタウロス店内の一角。特上肉を美味しく堪能していた数分前の秋とは打って変わり、現在の彼女は借りてきた猫の様に大人しかった。
秋の意味不明な挙動に、モン太は益々意味不明MAX!と言わんばかりの顔をした。
「大田原先輩と話さねぇのか?って聞いただ…」
「そ・れ!!」
モン太が発した言葉を覆い隠すかの様に馬鹿デカボイスを吐き出した秋は、ハッとしてすぐ自分の口を両手で塞いでうずくまった。
正真正銘の挙動不審である。
そんな様子の秋をモン太と同じく怪訝そうな顔して見ていた十文字もあまりの彼女の可笑しさに口を挟むしかなかった。
「加賀、お前どうした。より一層可笑しいぞ」
うずくまり何も言わなくなった秋の様子に眉を顰める十文字。その肩をニヤニヤと口角を上げる黒木がポンポンと叩きながら言った。
「可笑しくもなるだろーな。キモオタクだからな」
「うっさい黒木!!」
十文字に向けて言っていたが、黒木の言葉は明らかにうずくまる秋に向けた物だった。途端にうずくまっていた秋が上半身を起き上がらせ黒木に怒声を浴びせた。
怒声を浴びせられた黒木であるが、全くビビっていない様子である。
「あんな会場で大騒ぎしといて、本人目の前にしたらコレかよ」
黒木を睨み付けていた秋であったが、この発言により、ついにウグッと押し黙った。
一体全体何事かと説明すると、つい数十分前を遡る。
泥門デビルバッツが打ち上げ会場として選んだ焼肉ミロタウロスに、なんと王城ホワイトナイツの面々が来店しバッタリ出会したのだ。
そしてかつての二本刀であるどぶろくとショーグンが再会した事により、2名は積もる話を解消させる為カウンターに並んで着席しハードボイルド空間を作り出していた。
お互いの監督、トレーナーが仲良く話しているなら!と、泥門と王城は隣同士の席でワッチャワチャと焼肉を頂いてる真っ只中という訳である。
「…会場とサイズ違うし」
ニヤつく黒木の視線から逃れる様に俯いたまま、ボソリと秋は言葉を吐き出した。
十文字は呆れ、戸叶は既に飽きたのか焼肉を焼く事に尽力を注いでおり、そしてモン太はキョロキョロと事態を把握しようと秋と黒木を交互に見やっていた。
モン太の発言によりこんな事になっているので、彼なりにどーしたもんか!と頭を捻らせているのだろう。
「ってか、別に大田原先輩と仲良くなりたい訳じゃないし…」
「はぁああ?あんな騒いでた癖にかよ?」
「あんたにはわかんないでしょーけどね!推しってのは遠くで見ときたいモンなの!」
「わかんねーよ!メンドクセーな!」
泥門の面々も王城の面々も、何事かとチラホラ2名の様子を伺い始めていた。
しかし秋の推し語りは止まらなかった。
「あんたには謙虚さってモンがないわけ!?」
「お前ぇも謙虚さねーだろーが!」
「ありますー!ホントはまもり先輩も遠巻きから眺めてるだけで幸せなんだから!同じチームで先輩だからお話出来て……いや、それはそれで幸せだけど!推しってのはね!本来あたしが近付いたらイケナイの!!わかる!?黒木にはわかんないでしょーねー!!」
あまりにも力強い"推しへの接し方"説明に、流石の黒木も、勿論話を聞いていた他の面々も引き気味であった。
途中から聞いていた者からすると、まもりを推し過ぎて錯乱する秋という認識になったであろう。
今の今までワイワイとしていた店の一角であったが、秋の魂の叫びによりシーンとしてしまった為注目の的になってしまった彼女は羞恥心で冷や汗をダラダラと流し始めていた。
モン太のふとした疑問から大騒ぎに発展した秋による"大田原先輩推し問題"の終止符を打ったのは、意外にも王城ホワイトナイツのマネージャーである若菜小春であった。
「…ふ、ッふふふ…!あははは…!」
まもりと鈴音と同じテーブルを囲っていた若菜は、我慢しきれないと言った感じで吹き出すとそのまま笑い出した。
普段温厚で大人しめな若菜がこんなに盛大に笑うなんて意外であったので、秋の大絶叫に驚いていた王城メンバーの視線は気が付くと腹を抱えて笑う彼女へ向いていた。
大田原だけでなく若菜も同じ空間にいた為余計に気まずさを感じていた秋は、何故か大笑いする彼女に呆気に取られていた。
すると、若菜の横に座っていた鈴音が秋へ視線を向けた。
「もー!アッキー!騒いでないで早くこっち来なー!」
「小春ちゃんが、久しぶりに秋ちゃんと話したいんだって。おいで?」
女子ーズが秋へ声を掛けた事により、皆がそれぞれ中断した会話を再開させて行った。居た堪れない空間は無くなったし、まもりにおいで?なんて言われた手前すぐにでも飛んで行きたい気持ちはあったが、秋の脚は若菜小春という存在の為微動だにしなかった。
「……わっ」
棒立ちで若菜たちに顔を向ける秋であったが、その背中を黒木が小突いた。
「さっさと行けよ。待望の対面だろ」
呆れた様な、面白がってそうな、けど少々優しさも含まれた様な黒木の表情を受け取ると、秋は照れ臭そうに彼から一瞬視線を逸らした。
「うっさい黒木」
吐き出した言葉の割に嬉しそうな表情を黒木に向けた秋は、駆け足で若菜たちの座るテーブルへそのまま向かって行った。