03

秋が久々の対面である若菜を大笑いさせてしまった事態から数分後、彼女らが久しぶり〜なんて軽い話を済ませた頃には知らず知らずのうちに泥門プラス王城の面々で4つのグループが出来上がっていた。

「やーー!久しぶりに会ったんだし、色々話しなよ!"恋バナ"とか!」
「鈴音がしたいだけでしょ!」

まずは鈴音率いる女子グループ。
鈴音のせいか恋バナを重点的にする傾向がある。

「あれから20年か…」
「そうだな、あっという間だ」

そしてどぶろくとショーグンの二本刀グループ。
本人たちも無意識でハードボイルドオーラを作り出している。

「バリスタってのはあれだ、新生王城ディフェンスの作戦だったっけか?」
「さあ?西洋の古代兵器じゃないかな」

ヒル魔と高見によるお互いの手の内を探るグループ。
カマの掛け合い、そして探り合いを意図して行っている頭脳派2名による小規模戦争である。

「カルビ500人前!先に完食した方が勝ち!!」
「負けた方が今日のメシ代全部奢りだオラァ!!」
「おう!望むところよ!!」

残りのメンバーがぶち込まれた、人数が多ければ多いほど良い大食い対決グループ。
後先考えないバカが大半を占めている為、何の為にこんな戦いをしているのかはわかっている者は少ない。
さて、各グループ紹介が済んだところで秋が配属されている女子グループにフォーカスを向けるとしよう。

「若にゃんは、選手で誰か付き合ってるとかあるの?」
「選手で付き合ってる人とか、そういうの無いですよー!」
「え、小春。桜庭先輩に興味ないタイプなの?」
「全然!もちろん、ファンクラブあるくらいだし格好良いとは思うけど…」

そう言って大食い対決で肉をひたすら口に放り込む桜庭へ視線を向けた若菜。しかしその眼差しには一切の恋情が無く、どちらかと言えば虚無に近かった。鈴音は冷やかしたが秋はそうみたいだねーと相槌を打った。
きっと今まで桜庭ファンに絡まれたり謎の因縁をふっかけられたりして苦労したのだろうな、と秋は瞬時に察したのだ。

「桜庭先輩が同じチームだと大変そうだわー」
「!秋ちゃん、わかってくれて嬉しい…!」

秋の言葉に若菜はその瞳に涙を潤ませた。
部活生とマネージャーの恋愛劇なんて学生ではあるあるに分類される。例え王城ホワイトナイツの部活内がそういった浮ついた状態でなくとも、マネージャーは若菜しかいないし、彼女は一見押しに弱そうが故に攻撃対象になってしまうのだろう。
若菜から得られる恋バナが無さそうだと判断すると鈴音は次のターゲットにフォーカスを定めた。

「それより私ね!まも姐がちょっとだけ怪しいんだよね!」
「何そのアンテナ…」

アホ毛がピンピンと動くという妖怪ぶりを見せ付けた鈴音。恋バナに飢え過ぎて人では到底手に入れられない能力を得てしまったのかもしれない。
しかしこの話題は秋にとっても注目度の高い物であった。

「わかるー!なんかありますよね!心境の変化ありますよね!わかりますよあたしそーいうの!」
「やーー!アッキーがそう思うなら確定ってこと?!」
「違うから!ホントに無いから!」
「え!誰ですか?チーム内ですか?」

全てわかる訳ではないが、まもりの対ヒル魔への感情が変わって来た事に秋は前々から気付いていた。
今までが"嫌い"とか"セナを苛める悪い男"という印象だったのが、"リスペクトできる"や"心配対象"と仲間として変化しただけなのだが、この先の未来どう変化するかわからない。
絶対的女神であるまもりが何処の馬の骨とも知らない男とくっ付いたり等するよりも、長い付き合いでよく知った悪魔とくっ付く方が幾分マシだと秋は思っている。その為こんな話題は見逃せないのだ。

「ホントに違うから…!もう!秋ちゃんはどうなの!」
「まも姐ってば気が早いー!アッキーはメインディッシュなんだから!」
「鈴音ホントそれやめて!」
「秋ちゃん彼氏いるの!?」
「いない!!!」

夏休み明けに鈴音からしっかり洗礼を受けている秋は話題をストップさせたのだが、若菜が驚いた様に声を荒げたので彼女はまたしても大声を出してしまった。
秋はハッとしてまた両手で口を塞いだ。
何も無いならそこまで必死に否定しなくても、と若菜が面食らっていると秋はガタンと音を立てて椅子から立ち上がった。

「焼肉加勢してくる!」

そう言い捨てて大食い対決グループへ駆け足で向かって行ってしまった秋を見届けると、鈴音は残念そうな声を漏らした。

「あーぁ、逃げられちゃった」

夏休み明けから1ヶ月程。
秋と黒木の関係は特に進展を見せてはいないが、今日一日で恋愛脳鈴音として見過ごせない箇所がいくつかあったのだ。

「…秋ちゃん、好きな人がいるんですか?」

大食い対決グループの席に加入し、焼かれた肉が大量に積まれた皿をモン太に押し付けられる秋へ視線を向けながら若菜がそう尋ねた。
まもりは分からないと困った様な表情を若菜に向けたが、鈴音は意味深に笑って見せた。

「多分、お互いに気付いてないんだと思う」
「え!」

鈴音の言葉にまもりが心底驚いた様に声を漏らした。
無意識だろうがなんだろうがあの色気より金目の秋に好意を抱き、且つ彼女の方も好意を抱いている。だなんて、まもりの脳内では心底信じられない事であった。

「そっかぁ」

鈴音の言葉に、若菜は実に嬉しそうに笑った。
しかしまもりは未だ信じられなかった。だってあの秋だ。彼女は高校生の身でヒル魔に多大な借金をし、後先考えないで暴走してしまうまだまだ幼い女の子なのだ。
男女問わず友達も多い秋はきっと何も考えていない筈だ、とまもりは口を挟む事にした。

「秋ちゃんはきっと、そういうのは考えてないと思うけど…」

鈴音の事だから全て恋愛ベースで見てしまっているだけだ、とまもりは話を収束させようと試みた。
すると、まもりの言葉を聞くと鈴音は眉を下げて微笑んだ。

「今は、ね」
「…??」

鈴音の意味深な発言に、まもりはまた困った様な笑顔を見せた。
そんな様子を視界に入れていた若菜は、秋へまた顔を向けた。
嫌がる黒木の口に肉を大量に突っ込んで大笑いしてる彼女の姿を見て、若菜はまたしてもクスクス笑った。

「秋ちゃん、泥門にいる方が楽しそう」


top