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全国高校アメフトトーナメント3回戦当日。
秋は栗田からヒル魔の伝言を聞き、使わなくなった口紅を数本持って会場に来ていた。

「まもり先輩めっちゃ似合う!大人っぽい!」

秋は普段からメイクが濃いが、まもりは天性のモノを持っている為リップクリームなどしかその唇に乗せた事がないらしく、本日が記念すべき口紅デビュー日であった。
ひたすら褒めてくる秋に戸惑いながらも、普段より濃い口紅を唇に塗った彼女へ困った笑みを向けた。

「秋ちゃん、色々持ってるのね」
「試しに買ったんですけど、付けてみると似合わないなーって思ってお蔵入りしてたんですよ。まもり先輩に似合って嬉しいです!」

ヒル魔からの借金でコスメも買ってるのか、とまもりは微妙な心境に陥った。
秋は気になった物を衝動買いする癖があるのだが、今回はそのおかげで口紅を提供して貰えたのだ。金使いの荒さは後日指摘しよう、とまもりは決意した。

「…テメーら、何してやがる」

離席していたヒル魔が戻り泥門選手ら全員の顔を見ると、今にもキレそうな様子でそう口にした。
口紅をつけているのは秋やまもりだけではなかったからだ。
しかし本人たちも何故口紅を塗っているのかはよくわかっていなかった。
何故なら、ヒル魔が"次の独播戦に口紅つけて"だって!と栗田から伝言を伝えられただけだから。

「え…?だって栗田さんが…」
「ヒル魔先輩からの伝言だって…」

なんだったら昨晩ヒル魔に指示を受けた栗田から電話を受けた秋は、みんなの分あたしが持って行きますねー!とそこで連絡を勝手に終了させていた。
今朝会場に到着しヒル魔が離席している間、秋が口紅を皆に配り、そして栗田がヒル魔からの伝言だと言って皆に口紅をつける様に指示を出したのだ。
その為意味もわからず皆の唇は華やかになってしまっていたのだった。
事態を瞬時に把握したヒル魔は、どこかの血管をブチリと切れさすと怒声を上げた。

「今日の試合に"口紅つけろ"じゃなくて"持って来い"っつったんだよ!!」

口紅をつけた栗田をボールの様に蹴り飛ばしながらブチギレるヒル魔と、吹っ飛ばされた師匠を必死に追い掛ける口紅付きの大吉。そして瞬時に危機を察し口紅付き三兄弟の背後に隠れ、栗田に全責任を押し付け責任逃れを図った口紅付きの秋。
いつも通り泥門デビルバッツのベンチ側は大騒ぎとなった。


▪︎


独播スコーピオンズvs泥門デビルバッツの試合がまもなく始まる。
月刊アメフトに記載されている独播スコーピオンズの今年の成績は10勝1敗。王城や西部の様な強豪とは当たっていないが、数字で見ればかなり高い成績である。

「秋、お前独播のビデオ観てたんじゃねーのか」

試合前に独播スコーピオンズの一回戦ビデオや選手名簿などをまとめたファイルを見ていた筈の秋は、現在何故か巨深ポセイドンのファイルを凝視していた。
今から独播スコーピオンズとの試合があると言うのに。どぶろくは怪訝そうな表情を浮かべて秋へ声をかけたが、彼女はあっけらかんとした態度で返事した。

「もう観終わりましたー」
「観終わった、っつってもお前…。今の相手は巨深じゃなくて毒播だぞ?」
「あの感じならヒル魔先輩いたら余裕ですし、あたしは今の内に巨深徹底調査しとこーかなと」

左手で作ったグッジョブサインをどぶろくに向けた秋は、そのまま巨深ポセイドンのファイルに視線を向け続けた。


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「SET!HUT!」

泥門デビルバッツの面々は口紅を付けたまま試合を開始させたのだが、そのお陰で会場はざわついていた。しかし口紅をわざわざ持って来させ、尚且つ口紅を付けさせたまま試合開始させたのにはヒル魔なりの考えがあるのだ。
独播スコーピオンズのキャプテン金串佐助は、アメフトをやる上で選手たちが無意識にしている癖を見極めプレーを先読みしている様であった。
ヒル魔が用意させた口紅は、その対策なのである。

「うおお!前に突っ込んだ!」
「ラン潰せーっ!!」

どうやら独播、泥門の次の攻撃はランだと先読みしたらしい。
しかし残念ながら独播の読みは外れであった。
クォーターバックヒル魔がポーイと投げたボールはワイルドレシーバーモン太にスーパーキャッチMAXされてしまった。

「キシェエエエエ!!何かィイ!?猿にパス!?」

読みを思いっきり外した金串を筆頭に独播スコーピオンズの面々は、あまりの驚きに奇声を発した。
何故金串が泥門はランで来る!と思い込んでしまったかと言うと、それは泥門ライン組が付けている口紅が原因である。
ライン組5名が自身の唇に付いた口紅を指にベタベタ付着させている様を目の当たりにすると、アイシールド21とモン太は控えめに感想を漏らした。

「「セ…セコい、この試合…!」」

パスではなくランで突っ込む気なら、思いっ切りぶちかます為にライン組は自然と体重が指に掛かる。攻撃がランならばライン組の指先は血が集まってうっすら赤く変色するのだが、それを口紅を使って騙くらかしたと言う訳である。
巨深ポセイドンのファイルから目を離し、キレ散らかす金串へ視線を向けていた秋はほくそ笑んだ。

「ハッタリで生きてるヒル魔先輩に同じ土俵で挑戦すんなら、人間の域超えないとね!」

ヒル魔を相手にするなら彼と同じくらい頭がキレる者か、予想外な動きをする相当なバカか、将又カメラアイの秋か。
相当なバカでありカメラアイの自分はほぼクリアしている、と彼女は自負している。

「次は!当てるっつの!」

さて、こちらは独播スコーピオンズの金串、魂の叫びである。
作戦会議では次の攻撃が何なのか、パスならばモン太か瀧がパスターゲットだろうと、なんとか泥門の動きを予測しようと必死であった。
次の泥門の攻撃、独播は迷わず一直線に瀧に突っ込んで行ったのだがヒル魔が放ったボールは先と変わらずモン太の手中に収まった。

「キシェエエエエ!!!何かィイ!?猿にパス!!?」

先ほどよりも大きく奇声を発した独播スコーピオンズの面々。
どうやら金串、瀧のバカさ加減に勝手に騙されてしまったらしい。
そうして泥門が先にタッチダウンを済ませ攻守交代。今度は泥門デビルバッツが独播スコーピオンズの攻撃方法を読む番である。

「敵レシーバーの目を見てろ。目線がキョロキョロしだしたら、そいつが最初に見た地点を思い出せ。奴はそこで曲がる」
「最初?」
「最後じゃなくてですか?」

走るルートが決まっている人間が何ヶ所も見る意味がない為、キョロキョロする理由は最初に見た地点を誤魔化す為の動作なのである。
アイシールド21からのクエスチョンにヒル魔が分かりやすく答えた。
ヒル魔の言った通り独播スコーピオンズのワイルドレシーバー、蟷路は散々キョロキョロした後最初に視線をやった地点で曲がった。その蟷路に黒木が飛びつきボールを跳ね飛ばした為、独播の攻撃を防ぐ事が出来た。

「やった!」
「黒木ナイスー!」
「やーー!よく分かったねクロッキー!」

その後もヒル魔による心理誘導、洞察力のお陰で泥門は独播を凌駕し着々と得点を稼いでいった。
悔しそうに歯を食いしばる独播スコーピオンズの面々を反対のベンチ側から見ていたどぶろくが、酒を一口飲み込むと口を開いた。

「独播の連中。セコい読みで勝ち進んで来たはいいが、自分らが読まれるってのは考えもしなかったみてえだな」
「ケケケ!こんな小技、クセも消してねぇカスチームにしか通じねぇけどな!」

酷い言われようである。
まもりは微妙そうな顔をしたが、しかしアメフト強豪校は敵チームに攻撃の手の内を曝け出さぬ様に徹底している。
現在22対0。泥門デビルバッツが圧倒的有利である。

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