07
普段カメラアイである秋は無意識の内に相手の変化や動向をその脳内に記憶し、そしてその根っからの優れた洞察力で相手の感情の変化等を判断する。
しかしこれは本当に意図せずやっている事で、野生の勘というものに近い。
泥門デビルバッツの司令塔であるヒル魔も同じ様な優れた記憶力、洞察力を持っているが、彼は秋とは正反対で非常に理性的である。その為、その旨を言語化して他人に伝える事が出来る。
「タッチダーゥン!!」
ドザァ!とアイシールド21が独播選手たちごとエンドゾーン内に倒れ込むと、けたたましくホイッスルが鳴り響いた。
泥門デビルバッツvs独播スコーピオンズ。後半は独播も粘ったものの結果は42対0であり、泥門の圧勝であった。
ヒル魔の洞察力が金串のそれを上回ったのだ。
これで泥門デビルバッツは8強入りとなる。
「ほらー!どぶろく先生!ね!やっぱ余裕だったでしょ!」
左手でビシビシとどぶろくの肩を叩く秋の右手には相変わらず巨深ポセイドンの資料が。試合中も彼女は巨深の動画やらなんやらを見返しており、時折客席に座る水町たちへ視線を向けていた。
この会場で行われる次の試合は巨深ポセイドンvs賊学カメレオンズ。
泥門はそのどちらか、勝ち進んだ方と次回試合をすることになる。
▪︎
「賊学カメレオーンズ!!」
「この葉柱斗影の弟じゃけん!男見せたれーっ!!」
第二試合。巨深ポセイドンvs賊学カメレオンズの試合がスタートする。
観客席からは柱谷ルイの兄である賊徒大学フリルリザースズの葉柱斗影が、一際目立つ声で後輩たちに発破をかけていた。
ところ変わって泥門組。ベンチに座って巨深ポセイドンの動きを観察していた秋が、前に座るヒル魔へ声を掛けた。
「水町たち、序盤から出るっぽいですね」
「ケケケ、もう隠す必要ねぇからな。お陰で奴らの情報が手に入る」
「それにしても本当デッカいですよねぇ。綺麗に1年だけ」
巨深ポセイドンは前回のvs柱谷戦までの情報では、チーム名とは裏腹に低身長な選手が大半を占めるチームであった。
しかし新入部員の1年生が全員180cm以上という全国でも類を見ない体制が整い、今や巨深ポセイドンは完全なダークホースとなっている。
昨年まではパッとしなかった巨深が、その新入部員たちのお陰で古豪の柱谷ディアーズを凌駕してしまったのだ。その分2年や3年の選手たちはさぞ肩身が狭いだろうに、と秋は考えていた。
「賊学のラインって…」
「あんなデカかったか…!?」
賊学カメレオンズのベンチからぬっと現れた新顔を見ると栗田や大吉、三兄弟が顔を青くさせた。
「2年の蛇井。巨深対策で投入されたっぽいよ」
賊徒学園2年の蛇井級太郎。かなりの無口らしく、入学してから彼の声を聞いた者はいないそう。フランケンシュタインの怪物に似た彼が今までどうやって生活していたのかは不明である。
顔を青くする栗田たちに蛇井の説明を軽くすると、秋は栗田が持っていたポップコーンを手慣れた様子でひとつまみ掻っ攫った。
「栗田先輩キャラメル派なんですか〜?」
「塩もキャラメルも、どっちも好きだよ!秋ちゃんは?」
「あたしは貰えるなら何でも美味しく食べる派です!」
更にポップコーンを頂く秋を横目に、乞食根性だなと三兄弟は其々思った。
さて。賊学はカメレオンズの名の通り、巨深に合わせて色を変えるという作戦のようであるが、果たして対抗できるのだろうか。
「SET!」
巨深ポセイドン、賊学カメレオンズ、どちらも長身の前衛な為、観客席からの期待は高まる。そうして、賊学のキックオフを経て試合は開始された。
「何…あの構え??」
しかし巨深ポセイドンのラインである水町がアメフトらしからぬ異様な構えをしていた為、観客席や賊学の選手たちは眉を顰め騒ついた。
膝を軽く曲げ、両手を自身のつま先まで下ろして顔は正面を向いている。まるで水泳のグラブスタートのポージングだ。
「HUT!」
試合開始の合図と共に巨深と賊学が動き出した。
水町はグラブスタートでプールに飛び込む様にそのまま蛇井に突っ込んだ。
強烈な重量級ブロックを蛇井は繰り出したが、水町に簡単に押し退けられて倒されてしまった。
「あんな大きい体を…!」
「あっさりぶっ潰しやがった!!」
水泳のクロールの様に敵の頭を跨ぎ、反対の手で敵の脇腹を押し退けるスイム。
腕で敵を跨ぐ以上、長身でこそその威力を発揮するラインマンのテクニックだ。
泥門デビルバッツにあのスイムを実践出来る選手は、今のところいなさそうである。
「なんだァ?」
「賊学、今度は背ぇ低い連中揃えて来たぞ!」
攻撃権を失った賊学カメレオンズ。
先とは真逆で、ディフェンスメンバーは背が低い選手ばかりであった。
サイズでダメならスピードで撹乱するという作戦の様だ。
しかし巨深の長身ラインたちは重量級ではない為にスピードもある為、葉柱は水町にあっさりと捕まってしまった。そのまま追加点を許してしまう。
現在21対0。葉柱は地面に伏したまま絶望した。ここまで圧倒的に力の差があったとは、と。
「…いや!関係ねぇ!力の差があろうがなかろうが!」
ここからどうにか巻き返す為、葉柱は立ち上がりチームメイトに喝を入れた。
しかし賊学カメレオンズの他の選手たちは誰が見てもすっかりやる気を失っている様子であった。
体格の差、実力の差。
巨深ポセイドンとの圧倒的な力の差に"葉柱が怖いから従っていただけ"の選手たちは匙を投げてしまったのだ。
無理っすよと告げる井上たちに、葉柱は更に怒声を浴びせた。
「何言ってんだバカ!最後までわかんねぇだろバカ!」
しかし誰も彼も俯いたまま何も返事をしなかった。
「試合前に言っただろ!クリスマスボウル行く最後のチャンスなんだぞ!?どんだけハードな夏合宿したと思ってやがる!!」
賊学なめさせんな!そう付け加えるも、やはり誰も何も返答しない。葉柱の顔も見ようともしない。
「…そうだって言えよ!ブッ殺されてーのかよ!?」
すがる様な葉柱の声は、巨深ポセイドンの選手たちの歓喜した声や客席の歓声に飲み込まれてしまった。
▪︎
「葉柱さんたち、負けちゃった…」
最終スコアは42対0。
スコアボードへ視線をやり、眉を下げどこか悲しそうにセナが言った。
葉柱たちがヒル魔の奴隷期間中、ハァハァ三兄弟の強化訓練にも付き合って貰ったり、初戦の際にもバイクで協力して貰ったりと賊学とは関わりが深い。
きっと巨深ポセイドンに勝ち、その後因縁の泥門デビルバッツと戦ってやろうと葉柱は考えていた筈だ。
その為、少なからず勝って欲しいという応援の気持ちがセナにはあった。
「人ごとじゃねーぞ、次当たんの俺らだ。巨深対策練らねーとな!」
モン太の言った通り、次巨深ポセイドンと戦うのは泥門デビルバッツである。
情報の少ない新生巨深ポセイドン。
前回の試合と今回の試合しか彼らの情報はない為、泥門デビルバッツはこれより徹底的に準備を整えなければならない。
「やる気無くなるくらいの実力差かぁ…」
勝利に喜び飛び跳ねる水町を見詰めていた秋はそう独りごちると、ズボンのポケットから携帯を取り出した。
なんとなく電話帳を開き、今度は最近新たに加わった"水町"という文字を見詰める。
「秋ちゃん、何してるの?早く行こ!」
「あ!行きまーす!」
荷物を持って帰り支度を済ませたまもりに声を掛けられた秋は、すぐに携帯をパタンと閉じて勢い良く立ち上がった。
20260828