
02
アレンくんという仲間が増えて、初めての朝だだった。
まあ、わたしのところには変化らしい変化もなくて、いつもの通り、朝の鍛錬とやらが終わったユウに起こされて目が覚めた。相変わらずのストイックさだ。ユウは多分、また森で寝たのだろう。わたしには到底無理だ。野宿云々以前に、体がもたないだろう。
わたしの体を揺さぶっていたユウは、わたしが起きたことを確認すると部屋を出ていく。
ぬったりと、地面をはうように形を定かにしないわたしの「おはよう」 には、「あぁ」 とだけ、短く、キリッとした声が帰ってきた。わたしはとびきり寝起きが悪い低血圧だけれど、ユウは寝起きの悪さとは無縁らしい。そもそも毎日、さして眠っていないのでは無いだろうか。本当にとんでもない体力だ。
さて。今日は任務の予定は入っていないし、本でも読もうか。それとも、いい加減ユウの鍛錬に付き合うべきだろうか。
わたしは、弱い。セカンドとして普通の人よりも丈夫で、たちどころに傷が治る体をしている筈だったわたしの体は、どういう訳か普通の人よりもずっと弱くて脆いのだ。それは病弱、という意味でもあるけれど、一番は、ただ脆い。
エドガーやトゥイはわたしに多くを教えてくれなかった。気遣ってくれていたのだと思う。けれどあの場所には口さがない研究員たちもたくさんいて、彼らの間でわたしは「失敗作」でしかなかった。「ナノにはもうひとつの役割があるから」と彼らは話していたけれど、エクソシストであるわたしに、戦う以外の役割があるなんて到底思えない。
いくら鍛えても筋肉も体力もつきようのないわたしの体は本当にか弱くて、いつも誰かの後ろで、守られているだけ。わたしのイノセンスは防御や目くらましに優れているんだから、と言い訳をしてみたりするけれど、結局はただの現実逃避だ。
うーんと大きく伸びをしてから、今日の予定について考え始めた。
今日のわたしが何をするかは、わたしとユウの任務の予定によって決まるだろう。ユウも任務がなかったら一緒に鍛錬でもするとしよう。また、、たくさん投げ飛ばされたりするだろうけど。ユウはその辺に、本当に容赦がない。
ぼんやりとした頭の中で今日の予定を決めてから、ふわふわとした手つきで着替えを始める。
教団の真っ黒なコートはしっかりした素材で作られているからか重くて、身に纏うだけでわたしたちを縛る枷のように感じられる。軽く髪を整えて、わたしは小さく頷いた。
今日も、いつも通りだ。
身支度が終わると枕元に置いていた、小さな硝子細工を手にとった。軽く冷たいこれがイノセンスであるなんて、きっと誰も思わないだろう。
このグラスを見ていると、嫌な記憶ばかりが蘇る。シンクロテストの時に手足から血が吹き出した記憶がうっすらと思い出されて、手足の付け根が鈍く傷む。あの時のわたしには呪符のもたらす再生能力が発現していなくて、いつもあちこち傷だらけで、包帯だらけだった。
「ナノ、なにしてる。早くしろ」
突然、扉の向こうから、ユウの声が聞こえた。思い出された痛みで鈍くなった頭はそれで切り替わって、ほっと息をついた。
「ごめん、今行く。ちょっと考え事してたの」
扉を開けば仏頂面のユウがいて、いつも通りに見えるその表情には少しだけ、呆れも滲んでいた。
「待たせてごめんね。お腹空いてるでしょ?」
少し機嫌を損ねてしまったからか、返事をしないユウの手を引いて、冷えた教団の廊下を歩き出した。
ユウの手は相変わらず、とけてしまいそうなくらい、熱かった。