
03
ジェリーさんのところへ行って、わたしはアップルパイを、ユウは熱々のお蕎麦を受け取ってから席に座る。お互いいつも同じものばかり食べている。ユウはどうだか知らないけれど、わたしには一応、偏食の自覚がある。
でも、アップルパイ、美味しいし。この体に栄養素とかはあんまり関係ないし。子ども舌で好き嫌いの多いわたしは、偏食を直す気があまりない。
今日座った席の周りは、なんとなくしんみりとした雰囲気だった。多分またファインダーの誰かが死んでしまったんだろう。
人が死ぬのはとても悲しいことだ。けれど、ここにいると人の死というものに触れすぎる。
わたしのそういうところはすっかり麻痺してしまって、同じ黒の教団に所属しているとは言っても、自分にあまり関係もない人が死んだとして、少しはしんみりしたりはするけれど、涙を流して死を悼むほどではない。ファインダーの人達なんかは特に、顔も知らない人だってことの方が多い。今回だって、そのようだった。死んでしまったその人の顔も、わたしは知らない。
周囲のお葬式もかくやという雰囲気を気にしないようにしながらそのままぱくぱくとご飯を食べはじめる。
後ろの席ではその、死んでしまったファインダーを痛む声が響いていて、ここは食堂のはずだのに、とてもじゃないがご飯を食べるような場所ではなくなっていたが、あまり、気にしないように努めた。
わたしにとっては顔も名前も知らない人でも、この人達にとってはかけがえのない仲間で、友人であったのだ。その死を悼む時間を邪魔する権利はわたしにはない。
と、そんなふうに考えるわたしとは違って、本当に短気なユウはそう考えなかったらしい。
お蕎麦を食べている手をピタリと止めると、スっと口を開いた。
そして、ご飯を食べている時に後ろでそういうことをされると迷惑だ、とか。ファインダーは所詮エクソシストのサポートしかできないんだ、とか。ファインダーの人たちからしたら聞くに耐えないようなことをいろいろ言い放った。
これは、止めた方がいいんだろうな、と思った。ユウの言っていることは確かに本当で、でも、本当だからこそ残酷だ。
もっとオブラートに包むとかそういう、紳士的なことは出来ないのだろうか、と思ったけれどまあ、ユウなら無理に違いない。目覚めたその瞬間から、彼は短気だった。わたしもアルマも、ユウの毒舌にはたくさん泣かされた。わたしとアルマが彼に口喧嘩で勝ったことは一度も無いのだ。
ユウとファインダーさんたちの口論はどんどん激しくなって、そろそろ本格的に仲裁した方がいいだろうか、なんて思い始めた時、ユウがファインダーの人を締めあげる手を止める人が現れた。なんて珍しい。ユウと誰かの諍いを止める人なんて、今まではわたしの他にはリナリーくらいしかいない。
ご飯を食べながらちらりと目をやると、それはアレンくんだった。
「ストップ」
はっきりとそう言った彼は、なんというかユウとは正反対の性格なんだろう。
わたしが「あーあ」と思った頃にはファインダーの人とではなくて、アレンくんとユウの口論が勃発していた。
「モヤシ」だなんて言いながらアレンくんを挑発するユウはもう本格的に不機嫌らしく、アレンくんもアレンくんで割と本気でユウと言い争っている。確かにアレンくんはユウに比べれば華奢な体つきをしているけれど、アレンくんも男の子だ。「モヤシ」よばわりされて良い気はしないのだろう。
彼はわたしにも敬語で話してくれるし、紳士的な人なんだろうと思っていたから、こんな風に喧嘩をしているのはなんだか少し意外だ。
「……ちょっと、二人とも。少し落ち着いて。それに、ユウもなんて言うか、言い過ぎなところがあったかもしれないし、ね?」
どんどん激しくなる口論がそろそろ殴り合いにまで発展しそうで、わたしは立ち上がって口論中の二人に口を挟んだ。
ユウはお得意の顰めっ面で舌打ちをして、席を立った。お蕎麦はもう食べ終えていたらしい。いつの間に。
アレンくんの方はわたしに「ありがとうございました」 と、頭を下げた。こういう所は丁寧だ。紳士的な人というのは彼のような人を言うのかもしれないが、さっきの口論を見ていたから年相応な所もあるんだなぁと少し微笑ましい気持ちになる。
「さっきはユウがごめんね。なんというか、ユウは短気だから」
「それは、わかります……」
「口は悪いし、顰めっ面と舌打ちばかりだけど、悪いとこばかりじゃないから、あんまり嫌わないでね」
食べ終わったお皿を重ねて立ち上がる。
アレンくんは、わたしの言葉を信用しているのかいないのか、曖昧な顔で頷いていた。まだ出会ったばかりだし、その間に起きたことがさっきのアレだから、無理もない。
「……実力は、折り紙つきだから」
「そうなんですね……」
わたしの精一杯のフォローに対するアレンくんの歯切れの悪い返事に、思わず苦笑いしながらお皿を持って立ち上がると、ちょうどそのタイミングで、少し離れたところからユウに呼ばれた。
「じゃあ、わたしも行くね。ばいばい」
「あ、はい」
アレンくんは小さく会釈をして、ご飯を食べ始める。わたしもユウがよんでいることだし、とお皿を片付けに歩き出した。
……あのもの凄い量のご飯は全部彼が一人で食べるのだろうか。寄生型のエクソシストは大変だ。
ご飯を終えて、なんとなく今日はユウと鍛錬になっちゃうのかな、なんて思っていたのだけど、あれからすぐにユウにはイタリアでの任務が入ってしまった。
なんとそれも、アレンくんと一緒らしい。
「今日は本でも、読んでいようかなぁ」
相変わらず慌ただしく飛び出していった彼らを見送って、まだ肌寒い教団の廊下でそんな事を呟いた。