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04

夢を見た。
夢の中にはアクマも、イノセンスも、なんにもなくて、わたしたちは戦う必要なんかない。
辛くて悲しくて痛いことは全部全部夢で、わたしはユウとアルマと、三人で楽しく笑っていた。
三人で遊び、学校に行き、一緒に昼寝もする。とにかく楽しいことも嫌なことも全部を三人でやっていて、夢の中で、アルマはわたしの兄だった。わたしはアルマを「お兄ちゃん」と呼んで無邪気に懐いていた。そして、わたしたちの母親は、眩しい色の髪を一つに括って朗らかに笑う女性だった。
昔、暗い水の中から目が覚めた時、ユウもアルマも、わたしを妹のように可愛がってくれた。わたしにとって、二人は確かに、「お兄ちゃん」だった。
苦しくて痛い実験も、終わらない戦いもない世界は少し退屈だけれど心地よくて、「ずっと一緒にいようね」 なんて絵空事を、わたしはなんのてらいもなく口にしていた。
でもユウもアルマも、二人ともそれに頷いてくれて、わたしはとても嬉しくて、とても幸福で、それで、何も知らない、馬鹿な子供だった。
そんな、幸福な夢を見たのだ。
「ナノ、ナノ。起きて」
ことり、ことり、体がやさしく揺れる。
ああ、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。椅子に座ったわたしの膝の上には、読みかけの本が落ちていて、ぱたりと閉じてしまった本はどこまで読んでいたのか、わからなくなってしまった。
寝起きのぼんやりとした頭のまま、ゆっくりと視線を上げるとリナリーが困ったように微笑んでいた。彼女はゆっくり、読みかけの落ちてしまった本を手に取る。
「……これを、読んでいたの?」
「うん」
わたしが読んで居たのは、いわゆる神学書のひとつだ。今の苦しみをいつか神様が救ってくださるということを滔々と語る退屈な本。確か図書室の片隅で忘れられたように放置されていたものを持ってきたのだ。その時のわたしが、何故この本を手に取ったのかは、分からない。アルマなら、読んだかもしれないと思ったからかもしれない。
瞬きをして思い浮かんだのは、アルマの顔と、陽光のようなきらきら光る髪を一つに束ねた、綺麗なエクソシストの女性の顔だ。
二人の関係は、よくわからない。
ただ、わたしにはどうしようもなく彼らが重なって見えて、それで、彼らの姿が狂おしい程に懐かしく、愛おしい。
「そう……でも、読んでいる分には楽しいかもね。なにしろ、ずいぶん厚いし」
「神さまの在り方について語られたところで、あんまりありがたみはないけどね。わたしたちはエクソシストだもの」
「確かに、そうかもね。でも読み物としては面白いんじゃない?」
「結構退屈だったわ。わたしだって寝ちゃっていたもの」
なんて言って、二人で笑い合った。
しばらく本の話題が続いて、おすすめの本を貸し借りしようか、なんて約束をした。
それから、リナリーが思い出したようにわたしに向かって言葉を紡ぐ。
「そうそう、あのね、ナノ。そろそろ晩ご飯の時間よ! お昼、食べてないでしょう。せめて晩ご飯は食べさせるように、って、神田に言われてるの。一緒に食堂に行きましょ!」
リナリーはそう言って、わたしの手を引く。読みかけの分厚い本は、ぱたりと音を立てて椅子の上に落ちていった。
ユウは本当にしっかりしている。勉強は出来なくても、こういう所は鋭いのだ。ユウがいないとわたしが食事をおろそかにすることまでしっかりと見抜いている。それで、見抜いた上で、わたしとユウが分かれる時は、必ずリナリーに食事をさせるように頼んでいく。
もう何年も前から続くこの習慣に、なんとなく心地よさをおぼえている自分がいる。
わたしはきっと、ユウにどっぷりと依存しているのかもしれない。
彼がいないと生きていけないほどに、どっぷりと、息ができないほどに、深く、ふかく。
「今日もわたしはアップルパイの気分だなぁ」
「またそれ? ちゃんとバランスを考えないとダメよ!」
こうしていると、リナリーがわたしのお姉さんみたいだ。勿論口には出さなかったけれど、姉というものはきっとこんなふうに、優しくて温かくて、そして幸福なものなんだろう。彼女に手をひかれて歩く教団の廊下は、朝ユウと通った時よりもずっと寒かったけれど、心地よい感じがした。