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07

起きろ、と体を揺らされて、ゆうるりと意識が持ち上がっていく。
ゆっくりと瞼を開くと、呆れ顔のユウが佇んでいた。どうやら、結局わたしは眠ってしまったようで、ユウとの合流地点にはとっくにたどり着いていたらしい。
「ユウ、ごめん。ありがとう」
ぽつぽつと言えば大きな舌打ちが、返事のように返ってくる。
昔から変わらない彼の癖に、それまで見ていた夢のことを思い出して暖かな気持ちと、なまぬるい悲しみが同時に湧き出て、どんな表情を浮かべたらいいのかわからなくなる。泣いたら駄目だ、というのはよく分かっているから、ぐっと唇をひき結んで、涙をこらえた。
「これ、次の任務の書類だって」
何かを言いたそうにちらりとこちらを見てきたユウにはコムイさんからの預かりものだった書類を押し付けて、何事も無かったかのようにわたしはそのまま、窓の外を眺めることに集中することにした。
けれど、流れていく景色がわたしの中の泥のような思いを消してくれるはずもなかった。あんな夢を見てしまったのだから、起きてからもわたしの頭の中はアルマとあの女性の声に占拠されたままだった。彼女は当然知らない人なのだから、思い出した、という表現は正しくないのかも知れない。ナノとして目覚めたわたしは会ったこともない人なのだから。
けれど、思い出した、というのが一番適切な気がした。彼女の声を思い出したばかりの頃はなんのことだか全く分からずに泣いてばかりいたけれど、あれはきっと、前のわたしの記憶なのだと思う。
「あなただけは、生きていて」と切実に訴えかける女性の声と、「一緒に死のう?」とほほ笑みかけるアルマの声。二人の声はいつの間にか重なり合って、そして……どうなるのだろう。
考えても、考えても、その先はうまく浮かばない。本来、第二使徒の記憶というのは蘇るはずのないものだそうだから、思い出せなくて当然といえば当然だけれど。
どうして、こんなにも、あんなにも正反対な二人が重なって、そして、どちらも本物の肉親のように愛しく思えるのだろう。
リナリーたちに抱くような感情とは違う、もっともっと深くて、大きくて、何処までも溢れ出すいとおしさ。
それを、どうして。
どうして、アルマだけでなくて、出会ったこともない女性にまで抱くのだろう。
ユウやアルマはきっと、前の自分がどういう存在だったかを知っていて、どうなったかも知っていた。彼らは……ユウは特に、今も怒り、嘆き、苦しんでいる。
けれどわたしはただ知識として、今生きているわたしが前のわたしの代わりなんだということを知っているだけだ。実感を伴わないその知識は、わたしにユウやアルマのような痛みを与えることはついぞなかった。
考えれば考えるほどに思考は煮詰まってしまって、結局うまく答えは出ない。
わたしが何年も悩み続けているこの問題の答えが、こんなに簡単に出てしまうわけがないと、知っているのに。
「そういえばユウ、アレンくんとの初任務はどうだったの?」
また、思考をそらすためだけに、ユウに話しかける。
わたしの意図をわかっているのか、そうでないのか、ユウは少しだけため息をつきながら、いろいろなことを話してくれた。
無駄話を好まない彼がここまでしてくれるのは、わたしだけだ。
あいつは甘すぎるとか、弱いだとか、めんどくさかっただとか、紡がれている言葉はけして良いものではないというのに、ユウが言葉を紡いでくれるということ自体が、とてもとても、嬉しかった。
ぐるぐると底のない沼に沈んでいったわたしの思考は、ユウの声に紛れて、いつの間にか気にならなくなっていた。