
07
「……あの、ナノちゃん、って……呼んでもいいかしら?」
「は、はい」
「ああっ嫌なら良いのよ、そうよね私みたいな陰気な女にそんな風に呼ばれたくなんかないわよね……ごめんなさい私なんかが烏滸がましいわよね、ごめんなさい、ごめんなさい……」
変わった人だなぁ。
おずおずと話しかけてきたかと思えば、独り言をなにやら呟いて、暗い顔で「ごめんなさい」と繰り返す。ミランダ・ロットーさん、というらしいこの女の人は、わたしとユウが任務で教団を離れていた間にエクソシストになった人だ。
日本ではわたしが気絶してばかりだったせいでろくに話も出来なかったが、今は同じ病室で隣同士のベッドを使っているのだ。
エクソシスト同士、同じ女の子同士、仲良くなれるかなぁと思っていたが、彼女はなんともネガティブな思考をする人のようで、数日経った今も打ち解けられた、とは言えないだろう。
リナリーの方はミランダさんとも結構仲が良いみたいで、二人に挟まれたベッドに寝ているわたしの方は、少しきまりが悪い。早くミランダさんとも打ち解けてリナリーと話すように気楽に話せたらいいなぁとも思うのだけど、わたしはわたしで結構人見知りだし、彼女はなかなかに個性的な考え方をする人だ。先は長そうである。
「え、えっと……ミランダさん、好きに呼んで貰っていいんですよ……?」
「そ、そうなの?」
「ええ、もちろん」
「ありがとう……ナノちゃんって、優しいのね……」
「よ、呼び方だけじゃないですか!」
ここまで自分を下に見られているとなんだか申し訳なくなってくる。わたしはわたしで、どうしようもないくらいに弱っちい出来損ないのエクソシストであるのだから、もう、本当に居心地が悪い。
「ふふ、ナノもミランダも、もっと肩の力を抜けばいいのに」
「リナリー! いつの間に起きていたの?」
「たった今よ」
眠っていたはずのリナリーのくすくす笑う声にびっくりして振り向けば、リナリーがベッドに横たわったまま呆れたように笑っている。
「リナリーちゃんも傷はどう? さっきまで室長が来ていたのよ」
「もう大分いいの。兄さんはまた、仕事を放り出してきていたのね」
「そうみたい。ヘロヘロになりながら科学班の人が呼びに来てたよ」
ミランダさんとわたしが口々に本当についさっきまでリナリーのベッドの脇で彼女の寝顔を見ていたコムイさんの話をすれば、リナリーは幸せそうに笑った。
たくさん心配かけちゃったから、そう口にする彼女はほんの少し悲しそうで、コムイさんの気持ちがきっと、痛いほどに分かるからそんな顔をしているのだろう。
リナリーとコムイさんのような本当の兄妹って、どんなものなのだろう。
普通の生まれじゃないわたしには、どうしたってわかりようのない存在だ。
いつか見た夢の中でアルマはわたしの兄だったけれど、普通の兄妹ってものも、そんな感じなのだろうか。
ミランダさんとリナリーの会話に相槌を打ちながら、わたしの頭の中にはぼんやりと、アルマの笑顔が浮かんでいた。
あの頃のわたしが、兄妹という言葉をきちんと知っていたら、アルマやユウのことを、兄と呼んだだろうか。
鎮痛剤が切れてきたのか、またじくじく痛み出した体の中を少しだけ恨めしく思いながら、わたしはそっと目を閉じた。