
04
ノアは不死だと、以前誰かがそう言っていたが、果たして本当にそうだろうか。それを言うなら、わたしたちセカンドだって不死のようなものだ。何回殺されても、何度でも治る。わたしはそれで、この戦いをなんとか生き延びている。
「お前ら四人居ただろ。一番目二番目三番目四番目、一対一で殺る順番をずっと考えていたんだ」
戦えないのかと思っていた。ユウが発する見え見えの挑発にノアはおどろおどろしい声で応える。低い声に震えそうになる体を何とか押さえつけるのに精一杯だ。
「お前ら二人でやるのか? 折角順番を考えてたのに」
「二人も一度に相手をしたら負けてしまうと思ってるの?」
「いや、もう二人まとめてでもいいか」
これは武者震いだ。そう思ってわたしは、声を上げる。嫌だな、怖いな。でも、死ぬ訳には行かない。
「己はノア一族スキン・ボリックだ。お前らはティエドール部隊のなんてやつだ?」
ノアが吠えた。
「神田だ」
「……ナノ」
何とか絞り出した声に、ノアは、スキン・ボリックは笑うように叫んだ。大きくて低い声が、やっぱりかなり、怖い。
「そうか、甘いのは好きか?」
「大っ嫌いだな」
ユウが、笑った。
わたしは甘いもの、大好きだけどな、なんて。気の抜けた、馬鹿みたいなことを思った。
***
幾度かの地震を経て部屋の崩壊が始まる中でもユウが三幻式まで解放して戦ったお陰か、スキン・ボリックはついに動かなくなった。
至近距離からユウに斬り付けられてノアだってきっと無事では済まないだろう。
倒れ込むスキン・ボリックに向かってユウが何かを呟いている。それを遠目に見ながら、わたしはただ立ち尽くしていた。
戻ってきた意味は果たしてあったのか、不安になるくらいわたしってば、役ただずだった。攻撃した分だけノアのエネルギーがユウに蓄積されていく。ユウとノアを繋ぐ鎖は六幻にだって断ち切れないほど固かった。普段ユウが攻撃でわたしが防御、という戦闘スタイルな訳だけれど、今回それは全く役に立たなかったわけである。
ボロボロのユウに反して傷の薄い自分が、妙に恥ずかしい。
「ナノ、無事か」
問いかけてきたユウが、ふらりと体を揺らして、その場に膝をつく。
「ユウ!」
三幻式なんてやっぱり、無茶をしたからだ。駆け寄って、彼を何とか支えようとした時、突然背後から光の柱があがった。幻想的なんて感想は浮かぶはずが、なかった。ユウが破壊したはずの、ノアが生きていたのだ!
最後の力を振り絞ったと言わんばかりの勢いの、今までにないくらいの大きさの咆哮が放たれようとしている。
ユウを支えようとしていた腕を振り払い、思わず前に駆け出していた。
咄嗟のことで、何でこんなことをしようとしているの全く分からない。ただ、体は勝手に動いていた。
「わたしがユウのこと、守るから」
守るのは、わたしの役目だ。わたしの後ろにはユウがいる。そして出口の、扉がある。
この場所を譲れる筈がない。今、わたしが止めなければいけない。
「おいナノ、どけ!」
ユウがいつにない必死さで叫んでいた。普段のわたしなら、彼に譲っていたかもしれない。ただ今日のわたしは、何だか変だったのだ。
「大丈夫よ」
振り返りもせずに笑った。
イノセンスはいつもよりも、一際眩しく光る。わたしだってセカンドだ。
「イノセンス。わたしの命を吸って、ユウを守って」
目は閉じない。真っ直ぐに迫りくる雷を見つめた。